INTERVIEW

  • Addthis
  • tumblr
  • Google+
  • twitter
  • facebook

石橋英子 with もう死んだ人たち(ジム・オルーク、須藤俊明、山本達久、波多野敦子) ロングインタビュー

  • 2012.06.20
石橋英子の最新作『imitation of life』は、前作『carapace』で開いた扉から、さらに新しい世界へと冒険に乗り出したプログレッシヴな作品だ。前作同様ジム・オルークがプロデュースを手掛けつつ、前作以降ライヴ活動を展開してきたバンド、〈もう死んだ人たち〉が全面参加。ジム・オルーク(ギター、ペダル・スチール、アコースティック・ベース、ピアノ、シンセサイザー)、須藤俊明(エレクトリック・ベース、アコースティック・ベース、パーカッション)、山本達久(ドラム、パーカッション、カード)、波多野敦子(ヴァイオリン、チェロ、ピアノ)といったバンド・メンバー、そして、坂田明やとんちといったゲストの演奏が美しい迷宮を生み出して、聴けば聴くほど迷子になりそうな奥行きと多彩さがアルバムにはある。自然に囲まれたスタジオで合宿し、音楽と酒とトランプに明け暮れた日々から生まれた新たな傑作について、バンド・メンバーを交えて話を訊いた。
——今回は初めてバンド編成でのレコーディングですね。バンドでアルバムを一枚作る、というのは前から考えていたことですか?
石橋「前作を出した後、このバンドでライヴをする機会があって、その時にギターで作ったデモみたいなものを一緒にやったんです。そしたら、〈バンドでやると、こんなに素晴らしくなるんだ〉という手応えがあって。それでですね」
——前作ではしっかりとデモを作ってレコーディングに挑んだそうですが、今回は?
石橋「前回はピアノと歌だけのデモだったんですが、今回はジムさんにプロ・ツールスの使い方を教えてもらって、ベースとかヴァイオリンとか、いろんなパートのアレンジを考えながらプロ・ツールスで作っていきました。キャストが決まった映画の脚本を書く、みたいな感じでしたね。ずっとメンバーの顔を思い浮かべながら曲を書いてました」
——アレンジが前作以上に複雑になっているのが印象的です。
石橋「(ジムの方を見て)こちらのジェダイマスターから、〈次の英子さんのアルバムはプログレエピックだね〉みたいなことを言われて(笑)。その後、プロ・ツールスのレッスンを受けたりしているうちに、そういう(プログレっぽい)軌道に乗っていったというか」
——まさにジェダイの導きですね(笑)。
石橋「そうそう(笑)。もともと、そういった音楽が好きだから、いつか作ってみたいな、というのはあったんですけど、こんなに早く作るとは思ってもみなかった」
ジム「でも、〈プログレ〉と言っても、イエスとかそういうのじゃない。いろんなハーモニーができて、いろんなリズムができて、曲で何を使うか限定しない。それが私のプログレの意味です」
石橋「うん。本当の意味での〈プログレ〉って型にはまったものじゃなく、いろんな可能性を試すっていうことだと思うんですよ。そういうことは、アルバムを作っていきながら段々意識していったのかもしれない」
——前作に続いてジムさんがプロデュース/ミックス/録音を担当していますが、石橋さんとジムさんはどんな風に作業を進めて行ったのでしょうか。前作では二人でアレンジを考えたそうですが今回もそうでした?
石橋「今回は、具体的なアレンジに関しては私が考えることが多かったですね。ジムさんはアルバム全体のバランスを見てくれました。例えば5曲ぐらい出来上がった時に〈英子さん、あとは簡単な曲を作ってください〉とか(笑)」
——前回よりも分担がはっきりしていた。
石橋「うん、そうですね」
——バンド・メンバーは曲作りにどんな風に関わったんですか?
石橋「デモをほぼ一緒に聴いて頂いてライヴで試してみる、という感じですね。でも、あまり時間もないので、ああでもない、こうでもない、といろいろやりとりするわけではなく、そこはもう、言葉で説明しないでも通じ合えるものを信頼するしかない。皆さんの曲に対する理解力というか、スピードは早かったです」
——デモテープを聴いて、メンバー各自がそれを拡げていく?
山本「例えば、練習をセクションごとにやっていくんです。そのなかでいろんなことをやっていると、石橋さんとかジムから〈今の!今の!〉みたいに言われるんですよ。こっちとしては、〈え? 今何やったっけ?〉みたいな感じで(笑)。それを録ってて、レコーディングの時にそれを聴いてやるみたいな」
石橋「具体的なアイデアとかフレーズは、そういう決め方をしましたね」
須藤「で、ライヴの時は、曲を最初から最後まで通してやる、という感覚をつかむのが重要だった」
石橋「そうだね。ライヴで客観視できるというか、見直すことができる。そうやってライヴを、曲を試す場所にしていたというのはすごく楽しいことでした。お客さんにとっては、どうだったかはわからないけど(笑)」
——ではアルバム収録曲についてお伺いしたいと思います。まずはオープニング曲「Introducion」。
須藤「この曲は拍子がすごいよね、ハンパじゃない」
山本「そうなんですよ。途中から歌がなくなってミニマルな展開になっていくんですけど、繰り返してるように聴こえて実は1拍違うとか」
須藤「ミニマルなんだけど微妙に変わっていくんだよね」
石橋「だから自分のパートに集中していないとだめなんです。他の人が何をやっているか考えると、もう、わけがわからなくなっちゃう」
山本「俺はもう、最後のフレーズだけ覚えておいて、英子さん見ながら、〈あ、次や〉みたいな感じ(笑)」
——ライヴが大変そうですね。続く「resurrection」では英子さんが珍しくギターを弾かれいてます。
ジム「英子さんのギター、すごく良いです」
石橋「ジムさんからギターをもらったんで、今回の曲はギターで作ったんです。でも、まだヘタクソだからレコーディングではジムさんに弾いてもらおうと思ったんですが、ジムさんが私が弾いたほうがいい、とおっしゃったので」
ジム「もし、私が弾くと英子さんのリズムができない。私、ギターを長年弾いているので、私のリズムになってしまいます。でも、それ英子さんの声にあわない。英子さんの心配は多分、〈私はいい音色が出ない〉。でも、それ関係ない。私は他の曲ではギター弾いたけど、この曲は英子さんのギターが一番。この曲は英子さんが弾くと曲のリズム100%になる」
石橋「うん、そうですね。そういえば、この曲にはトランプの音も入ってるんですよ」
——もしかして、あのハンドクラップみたいな音?
山本「みんなでハンドクラップをやって、そのうえにミックスしてるんです。トランプをチャラチャラチャラって切る音。レコーディングの時、毎晩トランプをやってたんです」
ジム「あと、台所にあるいろんなもの(笑)」
山本「そう、パスタを切るボウルとかを須藤さんが叩いてたりして」
——そういった日用雑貨に混じって、とんちさんがスティール・パンで参加されていますね。
石橋「とんちさんは前から仲のいい友達で、〈手伝うよ〉みたいに言ってくださってたので、じゃあ、ちょっとやってもらおうかなと思って」
——トランプとスティール・パン、とても良い感じで曲に溶け込んでますね。続いて「long scan of the test tube sea」。
須藤「ベースがいちばん難しい曲」
山本「めちゃくちゃ難しいよね」
石橋「この曲は最初ピアノのアイデアから始まったんだけど、うまくいかなくてしばらく放置してたんです。そしたらベース・ラインが思いついて、併せてみたらうまくいった。それでベースで動いていく曲にしようと思ったんです」
須藤「あのベース・ライン、カッコいいですよ。弾いてて楽しくなってくる」
石橋「私はそれまでベース・ラインというのをあんまり考えたことがなかったんです。それで〈何か曲の強さが足りない〉と行き詰まっていた時に、ジェダイマスターから〈違うメロディーのようにベースを考えるほうがいい〉という教えを受けて(笑)」
ジム「あの時は、ティナ・ウェイマスです」
石橋「そうそう、あの時はトーキング・ヘッズとかをよく聴いていて。ティナさんのベース・ラインは、歌ってるメロディーのように動いてるじゃないですか。そういう感じで〈ベースとメロディー・ラインだけで作れるかも〉って思って作った曲なんです。あと、あの曲は敦子の見せ場があるんですよね」
山本「波多野オーケストラ。あれ何回くらい重ねてるの?」
波多野「62回ぐらい? いやあ、面白かったですね。現場でジムさんがストリングスのアレンジをして、重ねていくうちにリズムができて、和声ができて、そうして、段々全体像が見えてくるのが面白かった」
——まさに波多野オーケストラですね。では「written in the world」。
ジム「すごいメロディーです。あのメロディー大好き。私、テイスティー・ギターが出来ました(笑)」
山本「顔で弾くギターっていうか(笑)」
石橋「歌はいちばん難しかった。あの曲は最初、廃墟みたいな街に、スピーカーからシティ・ポップみたいな音楽が流れているようなイメージがあったんです」
ジム「シティ・ポップ(笑)!?」
山本「それって、『北斗の拳』みたいな感じ?」
石橋「『北斗の拳』は私は知らないんだけど(笑)」
——「silent running」。
石橋「ジムさんの超絶ギター・プレイが輝いてますね。最初のローズのリフは、ジムさんからプロトゥールスのレッスンを受けている時に、〈英子さん、即興で弾いてみてください〉って言われて弾いた時に出てきたフレーズがもとになってるんです。〈スティーリー・ダンみたいだね〉って言われて、調子に乗って弾き続けたんですけど(笑)」
ジム「あのギター・ソロ、〈もう一回録音したい〉〈いや、まだまだ〉。ミックスしている時も、まだやって、何度もやって、結局、〈最初の使いたい〉(笑)。だから、200以上のテイクあります」
石橋「それ、特典で付けても良かったね(笑)」
——曲の唐突な展開も面白いです。
石橋「リフが続いていって、それに浸ろうと思ったらパッと変わって。で、またバーッと曲が盛り上がっていって、それでまた何事もなかったかのようにストンと落ちる。いつも何事もなかったように、しらけ顔で展開して行くみたいな曲のイメージがあったんですよ。カタルシスを得ることに対する〈Fuck You!〉な曲ですね」
山本「ギター・ソロの後、もとに戻る時が、ほんま爆笑(笑)」
——「fugitive」。
山本「このアルバムのなかでは一番古い曲だよね。ライヴでも何回もやってる」
石橋「ベーシックの段階から、ジムさんも入れて5人で演奏しました」
ジム「この曲は、テンポとかいろいろ関係あるのでライヴ録音が必要だった」
石橋「まだプロ・ツールスを使う前、ギター一本で作った曲なんです。だから全体の流れを確認するという意味でも、みんなで録って良かったと思います」
——ギターで曲を作るのと、ピアノで作るのとではやっぱり違います?
石橋「私ね、まだギターでどこを押さえたら何が鳴るか、わかってないんです。指のかたちと位置で〈ここで、こういう音〉みたいな(笑)。だから、自分が〈好きだな〉と思った響きから作る」
山本「そういうところ、女性っぽくないですか? 理屈じゃないところ」
ジム「私には弾きにくい。〈これ何ですか!?〉(笑)」
——そして、最後はアルバム・タイトル曲の「imitation of life」。坂田明さんがサックスで参加されています。
石橋「曲ができた後、坂田さんのサックスが最後に入るといいんじゃないかな、と思って頼んだんです。吹いてもらうところだけ教えて、あとは自由にやってもらいました。〈じゃあ、英子ちゃん、合図して〉って坂田さんに言われて、あとはお任せで」
ジム「ファースト・テイク」
須藤「この曲はそこしか思い出せない(笑)」
石橋「ドラムもベースもめちゃくちゃカッコいいですよね。ヴァイオリンもだけど」
山本「この曲はいちばん最初に録音したんですけど、練習している間に録音が終わってた。〈じゃあ、今からファースト・テイクです〉っていう感じじゃないんです、今回のアルバムは。練習してて良い感じだったら、〈今録れた〉って言われて終わっちゃう。マイクがちゃんと立ってなくても(笑)」
石橋「あの時、みんなすごい酔っぱらって録ったんだよね。坂田さんがサックスを吹き始めるゾーンのドラムはほんとに最高で。本人はわかってなかったと思うど(笑)」
山本「いやあ、わかんなかった」
ジム「ムネムネ」
石橋「あ、ムネムネ・トークバックはあったかな?」
——なんですか? 〈ムネムネ・トークバック〉って。
石橋「達久を盛り上げるためにジムさんが時々使う魔法なんですけど、コントロールルームからトークバックで〈タツヒサ、胸! 胸! 胸!〉って。達久がオッパイ好きだから(笑)。でも、それってみんなにも聴こえてるから、私と須藤さんは必死に笑いをこらえながら演奏してました(笑)」
山本「始めは何かミスしたのかな?って思うじゃないですか。突然、ジムの声が聞こえるから。〈ムネって何?〉みたいな。最初はフェードアウトする予定だったんですけど、〈胸よ! 胸、もっと胸よっ!〉って言われるから、ぶわーっとやってるうちに坂田さんが入ってきて、それでフェードアウトせずに最後までいったんですよ、俺と坂田さんで。だから、坂田さんも胸が好きなのかな?って(笑)」
——男の声で「胸」って言われても(笑)。ドラムに負けずヴァイオリンも激しいですね。
石橋「ピーター・アイヴァースとかコックニー・レベルの雰囲気ですね。ロックの文脈のなかのヴァイオリン、ちょっとヘナチョコな感じの。それを彼女(波多野)と一緒に聴いてフレーズを考えていったんです」
波多野「そういう、ロックなヴァイオリンをこれまで聴いたことがなかったので面白かったです」
——では最後にバンドの皆さんに一言ずつ、本作に参加した感想をお伺いしたいと思います。じゃあ、山本さんから。
山本「まず、やっぱり、あの人(ジム)は魔法使いだと思いました。俺が自分ではわかってないとこまで、わかってくれている」
ジム「ああ、じゃあ、後で」(ポケットから財布を取り出そうとする)
山本「(笑)初めはインストゥルメンタルだけで、そこから歌が入って、ミックスが終わって……そんなふうに段階が進むごとにちょっとずつ聴いてるんですけど、全然変わっていく。印象も音も変わって行って、最終的にはめちゃくちゃ音も良いし、曲も良いし。俺は自分が参加した今までのレコーディングのなかで一番好きな作品ですね」
石橋「ありがとうございます。じゃあ、私も後で(笑)」(と財布を出そうとする)
須藤「(このメンバーとは)ロックとかジャズとか知ってる音楽をやってるっていうんじゃなく、今出来る音楽を作ってる感覚があって、それがすごい面白いですね。例えば、普通のバンドみたいにギターとかドラムとか、それぞれが役割分担がある人の集まりじゃなくて、楽器を演奏する人が集まっている集団っていう感じがあって、そこからみんなが何かを作り上げていく。これが本当の音楽なんだって思いました」
波多野「みんな自分が何ができるのかをよく知っていて、それ以上のことは無理をしてまでやらないんですよね。レコーディングがギャンブル場だとしたら、みんな手持ちのお金だけで賭けている。それぞれがいくら持っているかはわからないですけど、みんな自分の持ち金をよく知ってるな、と思いました。だから私も一番最初に〈自分が何を持っているか?〉ということに向き合わされましたね」
——それって大変でもあり、素晴らしいことですね。では、最後にジェダイマスターから(笑)。
ジム「みんなの話、全部聞いたので何もない(笑)。無事にレコードが生まれるまで手伝うことが出来てよかったです。でも、最後のミックス聴いたらビックリした。もちろん出来ると思った。最初から英子さんがそういう素晴らしいものを作ると思ってたけど。英子さん、よく頑張った。ほんとに尊敬してます。ほんとに嬉しいです」
石橋「皆さんのおかげで出来ました(笑)」
 -
  • 2012.06.20 On Sale
  • PECF-1049 / felicity cap-150
    [CD] ¥2,500 with tax

<TRACK LIST>

  • introduction
  • resurrection
  • long scan of the test tube sea
  • written in the wind
  • silent running
  • fugitive
  • imitation of life


PROFILE
石橋英子Eiko Ishibashi
石橋英子 with もう死んだ人たち(ジム・オルーク、須藤俊明、山本達久、波多野敦子) ロングインタビュー茂原市出身の音楽家。いくつかのバンドで活動後、映画音楽の制作をきっかけとして数年前よりソロとしての作品を作り始める。その後、4枚のソロアルバムをリリース。ピアノをメインとしながらドラム、フルート、ヴィブラフォン等も演奏するマルチ・プレイヤー。シンガー・ソングライターであり、セッション・プレイヤー、プロデューサーと、石橋英子の肩書きでジャンルやフィールドを越え、漂いながら活動中。最近では長谷川健一、前野健太、トンチ、オウガ・ユー・アスホールの作品に参加。またソロライブと共に、バンド「石橋英子withもう死んだ人たち(ジム・オルーク、須藤俊明、山本達久、波多野敦子)」としても活発にライブを行う。

http://www.eikoishibashi.net/
http://twitter.com/Eiko_Ishibashi
RELATED RELEASES
 -
 -
 -
 -
 -
 -
 -
 -
 -
  • カフカ鼾
  • okite
  • 2014.01.22 On Sale
  • PECF-1086 / felicity cap-189
    [CD] ¥2,200 with tax
 -
 -
  • 2012.06.20 On Sale
  • PECF-1049 / felicity cap-150
    [CD] ¥2,500 with tax

<TRACK LIST>

  • introduction
  • resurrection
  • long scan of the test tube sea
  • written in the wind
  • silent running
  • fugitive
  • imitation of life