INTERVIEW

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OLAibi 「new rain」スペシャルインタビュー

  • 2012.11.30

雨の後に響き、映し出される手触りのある音楽と光射す風景
――過去2作はパーカッションのグルーヴがフィジカルに作用する作品でしたが、今回の作品はそうした要素もありつつ、心象風景を描き出すことに力点が置かれた作品であるように思いました。
「1枚目の『Humming moon drip』は右も左も分からないなか、自分に出来ることは太鼓が主体だったので、ライヴで再現出来るようにシンプルな一発録りで作ったんです。そして、あのアルバムでレコーディングがどういうものであるのか、少し様子が分かってきたこともあって、自分のアイディアをエンジニアの原(浩一)くんに伝えたり、身近で見ていた彼の音の録り方やミックス作業を作品制作に応用したことで完成したのが2枚目の『tinagaruda』なんですね。ただ、その2枚を出した後で思ったのは、スタジオを借りての作業は時間が制限されて、試したり、やり直したりする余裕がないので、もっと突き詰めて作業してみたいということ。だから、コンピューターの音楽ソフトを使って、自宅で作業出来るようにしようと思ったんですね。ただ、それ以前に音楽ソフトを扱ったことがなかったので、その使い方を学習しながら作っていったのが今回のアルバムということになるんです」
――制作はどのように進められたんですか?
「最初はMacに入ってるソフトを使ってみたんですけど、私は説明書を読むタイプの人間ではないので、なんとなく録音ボタンを押すところから始めて(笑)。その後、Logicというソフトを使うようになったんですけど、まずはスタジオに入って、太鼓を中心に自分が弾ける楽器で事前に下ごしらえしておいた曲のアイディアを録って。その素材をそのまま使ったり、部分的なサンプリングや音の加工、さらに音を足したりしながら作業を進めていったんですね。その途中でコンピューターをエンジニアさんのところに持っていったら、間違った操作を重ねてやりすぎて、データの容量がいっぱいになっていることが発覚したり(笑)。だから、その都度、原くんに教えてもらったり、あと、今回、作品に参加してもらった高木正勝くんはそういう機材を巧みに扱える人なので、沢山のトラックを扱いつつ、コンピューターの動作が重くならない方法なんかを教えてもらったりしましたね」
――今回のアルバムにはビート主体ではない曲が収録されているところがいい意味での驚きでした。
「ビート主体じゃない曲は、実は最初の段階でどの曲も太鼓が入っていて、そのリズムを軸に、色んな音を構築的に加えて作っていったんですけど、その太鼓の音を後から抜いたんです。そうすることで、曲の表情が変わるところが自分にとって面白かったんですよ。そして、曲に残した音ももともとは太鼓に触発されて入れたものなので、聴く人にはそうした音から存在していない太鼓の音を感じてもらえたらうれしいですね」
――アルバム完成までの3年間は、そのように音を足したり引いたり、延々と作業されていたわけですね?
「そうですね。今回は確固たる曲のビジョンがあって、そこへ近づけていく作業というよりも、思いつきの作業が半分くらい、あとの半分は私が好むスモーキーでざらついた質感の音をいかに表現するかという作業だったんですね。だから、自分がデジタルで録ったつやつやした音もまずはアナログのベース・アンプや古いギター・アンプを通して、ざらついた質感に変換することから作業を始めて、ビート主体の曲はリミックスの要領で、同じ素材から3曲くらい作って、そのなかから質感の気に入ったものを選んだり、延々と作業を続けてました。ただ、制作終盤では全体的に統一感が出すぎてしまったので、それをいかに崩していくか。詰め込んた音をいかに削ぎ落としていくかという作業に時間をかけましたね」
――パーカッションはプリミティヴな感覚と直結した楽器という印象がありますが、この作品からはエレクトロニクスな要素、あるいはエディットや音の加工を通じて、モダンな感覚が伝わってきます。
「そうなんですよね。太鼓は「土着的」とか「アフリカン」と形容されることが多いので、むしろ、私としてはそう呼ばれるのは避けたいなと思っていて。ただ、太鼓からそういうイメージを完全に切り離すことは出来ないので、逆にエレクトロニクスとの組み合わせから、例えば、エレクトロニクス特有の無機質な感じを中和したり、太鼓を効果的に使えないかなと発想したんです」
――それから、過去の作品から受けた個人的な印象として、Aiさんは声を用いることはあっても、言葉のないインストゥルメンタルを指向していらっしゃる方だと思っていたんですが、今回はカヒミ・カリィさんや加瀬亮さんのポエトリー・リーディングをフィーチャーされていますし、加瀬さんとの曲「seed」のリリックはAiさんご本人が書かれていますよね。
「ゲスト・ヴォーカルとか歌を入れたいという気持ちは全くなくて、「abire」に参加してもらったハナレグミの永積タカシくんを含め、今回、声で参加してもらった方に対して私がイメージとしていたのは、「ヴィンテージの楽器」としての声だったんですね。その録音にしても、カヒミさんの場合、スタジオではなく、私の家に来てもらって、(Dry & HeavyやLittle Tempoなどを手掛けるダブ・エンジニア)内田直之さんにお願いして、アナログの精度のいいマイクで声を録音させてもらったり、私としては繊細なヴィンテージ楽器を録るような感覚だったんです」
――言葉の人である永積さんが言葉にならないヴォーカルを提供している「Abire」のレコーディングはいかがでしたか?
「出来上がった曲からは想像出来ないと思うんですけど、録音に来てもらった時点でこの曲は太鼓が一本しか入ってなくて(笑)、その状態でスタジオのヴォーカル・ブースに入ってもらって、アドリブで声を入れてもらったんです。そして、後から音を足して、曲を完成させたんですけど、太鼓一本の曲でいきなり歌ってといわれても困りますよね(笑)。だから、その点は反省点でもあるんですけど、私自身、言葉はなくとも、その声から物語が感じられたり、その声に背景を付けたりすることが本当に面白かったんです。その場で自由に生み出して欲しかったし、言葉はなくとも、その声から物語が感じられたり、その声に背景を付けたりすることが本当に面白かったんです」
――では、加瀬亮さんが参加している「seed」の場合はいかがでしたか?
「加瀬さんの場合、彼は俳優さんですから、役作りするにあたっては、本を読んだり、色んな準備が前提となっているわけで、いきなり抽象的に「何かやってみて」って言っても、ミュージシャンにお願いする時のように通じるわけもないんですよね(笑)。そこで初めて、「抽象的な音のコミュニケーション」だったり、「このアルバムとは?」という事を考えさせられました。」
――歌詞はどんなことをイメージしながら書かれたんですか?
「「seed」の歌詞に関しては、私のなかにあった断片的なイメージをコラージュしていったら、空想的な世界に膨らんでいったんですけど、それは普段から思っていることでもあるので、幻想的な世界を表現しようと思っていたわけでもなくて。そのうえで、この歌詞には最初に砂漠が出てくるんですね。一般的に砂漠には枯れていたり、乾燥したイメージがあると思うし、私自身、この曲のサウンドからは乾燥した、砂埃が巻き上がる国や街にある薄暗い場所でのお話をイメージしていたんですけど、そんな砂漠にも実は水が豊富なオアシスがあるという発想から歌詞を書き始めたんです。そこには砂漠の花が出てくるんですけど、そのモチーフはお仕事でモロッコに行っていたカヒミさんから、モロッコの砂漠で咲いていたバラについての話を聞かされたことに端を発していて、バラのヴィヴィドなイメージと砂漠の砂埃のスモーキーなイメージ、そして、水がないのにヴィヴィッドな花が枯れずに咲いている不思議な潤いについて思いを巡らせながら歌詞を書いたんです」
――歌詞を書かれたのはこの曲が初めてということになるんですよね?
「そうですね。私はタイの音楽が好きなんですけど、それを聴きながら、耳コピして、自分流にアレンジして、楽器のように発することはよくやっているんですけど、ここではそういう抽象的な表現ではなく、聴く人が具体的にイメージ出来る意味のあるものをやってみたかったんです。そして、この曲を書いてみて、自分でも色々発見があったので、今後もまたやってみようかなって思っていますね」
――さらにこの作品には、ヴォーカルだけでなく、サウンド面でオオルタイチさんやウタモさん、あるいは高木正勝さんといった方々が参加したアルバムでもあります。
「オオルタイチくんやウタモちゃんはその感覚を信用している2人なので、会わずにデータの行き来させながら、お互いに音を足すといったやり取りをして。それから、高木君は、彼はピアノを一音弾いただけで、その世界にぐっと持っていってしまうくらい強いものなので、自分がお願いしたいことをより詳しく伝えたり、あるいはその逆で全てお任せという形で参加して頂きました。」
――そうしたゲストを招きつつ、この作品はAiさんが徹底的にご自身の作品世界を突き詰めた作品でもあり、プリミティヴなパーカッションとモダンなエレクトロニクス、あるいは潤いと乾きなど、このアルバムは対極的な要素が絶妙なバランスで成立しています。そんな作品世界を象徴するかのように、マーク・ボスウィックさんの光を含んだアートワークと『new rain』というアルバム・タイトルも不思議な関係性になっていますよね。
「そうですよね。アートワークは晴れた空のもと、タンポポが咲いているという世界、そこには写真を撮ってくれたマーク・ボスウィックさんのきれいな光が入っているんですけど、雨が降っていないのに『new rain』というタイトルが付いていますからね(笑)。この“new rain”というのは私の造語で、雨上がりの空や虹のイメージ。“rain”という言葉から連想する暗さや寒さではなく、恵みや潤いのイメージですね。“new”という言葉を付けることによって、スモーキーなこのアルバムに、明るくて、キラキラしたポジティヴな印象を抱いてもらえたらなって」
――この作品も、パーカッションを起点に、Aiさんの表現世界の広がりを体感出来る、そんなアルバムだと思いました。
「私は自分のことをパーカッショニストやドラマーだとは、そこまで強く思っていなくて。でも、その一方で、逆に映画のサントラなんかを太鼓一本で作ってみたら、それはそれで面白いと思うし。ただ、この作品でコンピューターを触るようになったので、色んな楽器や音を扱いながら、この方向性をもう少し極めてみたいなって思っているんですけど、一人の作業では、誰かと一緒に作業した時のように意外な方向に開いていくのが難しいので、それは今後の課題ですね。でも、それ以前の課題としては、この作品をライヴでどう表現するかということ(笑)。まだ、アイディアは固まっていないんですけど、ライヴを観たお客さんがこのアルバムの世界を味わえなければ、意味がないとも思うし。アルバム完成後の試行錯誤の成果はぜひ12月のライヴへ確認しに来てくださいね」

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new rain
  • 2012.10.17 On Sale
  • PECF-1055 / felicity cap-157
    [CD] ¥2750

<TRACK LIST>

  • TARI
  • the birds does not see
  • new rain
  • niufive feat. カヒミ カリィ
  • seed feat. 加瀬亮, 高木正勝
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PROFILE
OLAibiオライビ
OLAibi 「new rain」スペシャルインタビュー

ボアダムズのYoshimi率いるバンドOOIOOのドラム、パーカッショニストとして、国内外で幅広く活動中。ピアニストで映像作家の高木正勝との制作、共演、UAとの音楽制作や作品参加等、精力的に行っている。2006年の1stソロAl.「Humming moon drip」では、ハンドドラム(コンガ、ジェンベ、ブカラブ)に重点を置き、全ての太鼓に音程を付けてメロディラインからベースラインまで、全て太鼓のみでの表現に成功。従来の太鼓物の観念をひっくり返すような、“太鼓の歌物”というべきジャンルを確立。ミュージシャンやDJの間でも話題に。2009年の2ndソロAl.「tingaruda」では、OLAibi自身が声から太鼓まで、ほぼ1人で作り出し、様々な楽器(カリンバ、ギター、オルガン、笛等)を打楽器的アプローチで取り入れた不思議なポップさと土着的アヴァンギャルド、エスニックなミニマリズムが凝縮され、更なる進化を遂げた聞き応えのある作品となった。

http://olaibi.com/

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  • PECF-1055 / felicity cap-157
    [CD] ¥2750

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