INTERVIEW

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石橋英子 セルフライナーノーツ 「car and freezer ができるまで」

  • 2014.03.07
「imitation of life」ができた直後、ただなんとなく、次の歌の作品はミニマルなもの、英語の歌詞と日本語の歌詞の2バージョンがあるものにしよう、と思いつきました。

歌、というのは不思議なもので、歌の構造、歌われている言葉、そのメロディ、が持つ可能性は圧倒的です。けれども、ここ何年かで、実際歌を作る人間として、歌うこと、とりわけ、歌の中で言葉を発することがとても窮屈になってきたなと感じる瞬間がありました。歌を作らない、あるいは誰か違う人間に歌ってもらう、という選択肢もあったかと思うのですが、そうではなくて、歌がもっと自由に、歌う人間や大きな意味からも離れて、あるいは時間や場所を乗り越えて、そっと流れて行く作品を作れないものかとずっと考えていました。ミニマルなもの、しかし、2バージョンある、そんな相反するようなコンセプトを何となく思い描きながら、このプロジェクトは進んで行きました。

2012年の夏から2013年の4月までに全部の曲を作り終え、何曲か捨て、2013年5月に1週間、「もう死んだ人たち」と山ごもりをしてベーシック録音をしました。
今回は「imitation of life」に比べて、かなりラフなデモを作りました。「もう死んだ人たち」の皆さんの素晴らしい演奏力や想像力に対しての信頼感や愛情がすでにあったので、私によるアレンジは最小限に抑え、レコーディング現場で作り上げるつもりでした。細かい構成やプラスアルファは現場で作り上げることを、あえて自分自身にも課しました。自分でもどうなって行くのかわからない不安感と緊張感がありましたが、とてもエキサイティングなレコーディングでした。そんな状態を楽しんでくれる演奏者があってのことだと思うので、恵まれていると思います。彼らとの時間は、本当にかけがえのない、当たり前ではない時間です。「もう死んだ人たち」(須藤俊明、山本達久、波多野敦子、ジム・オルーク)には頭が上がりません。スタジオのオーナー、カフカもバッキングボーカルで参加して下さいました。プロデューサー、エンジニアは今回もジムさんにお願いしましたが、ジムさんが灯台のように、私のどこに行くかわからない船を見守って、時々、こっちの方がいい、と道案内をしてくれたのも本当に心強かったです。

歌詞は2012年に前野健太さんに日本語の歌詞を作品全編を通して書いていただきたいとお願いしました。前野さんのバンドで演奏していく中で、前野さんの歌詞に驚くことが多かったからです。前野さんのユーモアのセンス、低空飛行の視線が映す人間や世界の小さな出来事、見落としてしまいそうな小さな輝きに感動しました。そして曲が出来るたびにデモを送って書いていただきました。前野さんも他人のために歌詞を書くというのは初めてのことだったようで、ご苦労もあったのではないかと思います。iPodを携え、街を、海を、いろんな場所を練り歩いては立ち止まりながら書いてくださったようです。私のイメージを遥かに超えた、かつ重力のある素晴らしい歌詞を書き上げてくださいました。「幼い頃、遊んだ海は」で一緒に歌って頂きました。

英語の歌詞を私は今まであまり書いたことがありません。英子という名前ではありますが、もちろん英語圏の国に住んだこともないし、英語を日常的に完璧に話せるわけでもありません。でも、自分が聴いてきた音楽は英語の歌が多い。これはある意味私にとって非常に残念なことでした。たとえ日本語に翻訳されていても、自分の好きな音楽の言葉やニュアンスを完全には分からない。これは音楽に限らず、文学や映画に関しても言えることですが、本当に残念です。その葛藤を少しでもなくしたいという思いは常にありました。そのため、あえて映画を英語字幕で見たり、英語の本を読んだりしました。英詞を書くのに役立ったかどうかはわからないのですが、英語を少しでも体にしみ込ませないと歌にならないと思ったのです。やってみてどうだったか……結局子供が書いたような詞にしかならなかったかもしれませんが、日本語では自分が歌にしないような言い回しでも英語なら歌になることがあり、大変面白かったです。

今回、ゲストミュージシャンとしてトランペットの類家心平さん、チューバの高岡大祐さん、タブラのU-zhaanさんに参加していただきました。この方々はもう説明不要ではありますが、私が即興のライブで出会った素晴らしいミュージシャンの方々です。音へのこだわり、自分が表したい物へ向かって行く努力は誰も想像できないほどのものだと思います。一音出ただけで、この人だ!とわかる方たちです。

その後歌詞が全部完成し、2013年の暮れに歌録音が始まりました。ジムさんに高性能のマイクを渡され、どのようにテイクを重ねていったらミックスしやすいか指導を受け、一人、部屋で歌の録音作業をしました。これが、なんと、お恥ずかしい事に一ヶ月もかかりました。16曲あったとはいえ、自分でもこんなに時間がかかるとは思いませんでした。普段使っているのよりもずっといいマイクを使ったため、自分の声の気持ち悪さが倍増され、失神しかけたことも……というのは嘘ですが、それほど自分の歌の嫌いなところばかりが見えて、正直きつかったです。けれども、面白い側面もありました。それは声の倍音や、リズムと言葉の関係です。当たり前と言えば当たり前なのですが、日本語と英語では同じメロディーであってもリズムや倍音がことごとく違うので、全体としての響きがまったく違ったものになるのです。それによって、バッキングボーカルの内容も英詞と日本語詞で変化させる必要がありました。また、前野さんの歌詞が私の歌を後押ししてくれる感じも不思議でした。締め切りまで時間がなかったので、一曲歌が完成するたびにジムさんに送る、といった流れでミックス作業をしてもらいました。

その最中にジャケット撮影がありました。今回も『carapace』『I'm armed』と同じく、写真家の澁谷征司さんとデザイナーの木村豊さんに手がけていただきました。澁谷さんの写真も木村さんのデザインも最初は私の勝手な一目惚れから始まり、お願いするに至ったのですが、このチームでのロケでは毎回ハプニングと奇跡がおこり、不思議なジャケットができあがるのです。『carapace』ではロケ現場に向かう最中、真夜中の高速道路で前を走っている車が突然停車し、血まみれの人が降りてきたり、『I'm armed』では撮る予定のなかった大木が湖に倒れていたので、釣り人に笑われながらそれにのぼったり(というか、写真家とデザイナーが白鳥ボートを漕ぎながら撮影していたことの方がハプニング)、なぜか最後に澁谷先生のお導きで、全然予定になかった松本城で撮影(サザエさん的な)、といったこともありました。
今回は背景と人間が混ざらない感じがいいと思い、変な場所を探していたら、昔子供の時に遠足で行ったテーマパークの廃墟と、地元の掩体壕群を見つけたので、そこに行くことにしました。car and freezer というタイトルは決まっていたのですが、まさかテーマパークの中に本当に車と冷蔵庫がいっしょに捨てられているとは思いませんでした。今回ジャケには使われていませんが、そんな奇跡も起こりました。また、澁谷さんがなぜかギターを撮影に持ってきて車のトランクに入れ、そのまま忘れて行った、という事件もありました。今でもあのギターの存在は謎のままです。けれども、今回も本当に素敵なジャケになってとても嬉しいです。お二人に感謝です。



2014年1月末、前日までジムさんが粘り強くミックスをしてくださった後、つじひろゆきさんによる長時間に渡るマスタリングが行われ、アルバムが完成しました。

私一人では語り尽くせない、さまざまな工夫や苦労が、関わってくださった方々それぞれにあったと思いますし、何とも大ざっぱな解説文ではありますが、これくらいにしておきたいと思います。
最後にいつも支えて下さっているfelicityの平川さんはじめスタッフの皆さん、星と虹レコーディングスタジオ、カフカ、B子、C子、友人達、家族に御礼を伝えたいです。
封を開け、ジャケットと中の歌詞カードを楽しみながら、大音量で、聞いていただきたいです。
楽しんで下さい!

石橋英子
 -
  • 2014.03.12 On Sale
  • PECF-1090/1 / felicity cap-194
    [CD] ¥2,600 with tax
    ※CD2枚組

<TRACK LIST>

[DISC1 : Japanese]

  • たいくつなものがたり
  • 塩を舐める
  • 私のリトルプリンセス
  • 時を告げて
  • 遠慮だね
  • ゴリラの背
  • ラップ・トップ・ブルース
  • 幼い頃、遊んだ海は

[DISC2 : English]

  • there’s a river
  • car and freezer
  • memory and dust
  • mr.cloud
  • a part of your life
  • borderline in shadow
  • waiting sign
  • tonight
VIDEO


PROFILE
石橋英子Eiko Ishibashi
石橋英子 セルフライナーノーツ 「car and freezer ができるまで」茂原市出身の音楽家。いくつかのバンドで活動後、映画音楽の制作をきっかけとして数年前よりソロとしての作品を作り始める。その後、4枚のソロアルバムをリリース。ピアノをメインとしながらドラム、フルート、ヴィブラフォン等も演奏するマルチ・プレイヤー。シンガー・ソングライターであり、セッション・プレイヤー、プロデューサーと、石橋英子の肩書きでジャンルやフィールドを越え、漂いながら活動中。最近では長谷川健一、前野健太、トンチ、オウガ・ユー・アスホールの作品に参加。またソロライブと共に、バンド「石橋英子withもう死んだ人たち(ジム・オルーク、須藤俊明、山本達久、波多野敦子)」としても活発にライブを行う。

http://www.eikoishibashi.net/
http://twitter.com/Eiko_Ishibashi
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  • PECF-1090/1 / felicity cap-194
    [CD] ¥2,600 with tax
    ※CD2枚組

<TRACK LIST>

[DISC1 : Japanese]

  • たいくつなものがたり
  • 塩を舐める
  • 私のリトルプリンセス
  • 時を告げて
  • 遠慮だね
  • ゴリラの背
  • ラップ・トップ・ブルース
  • 幼い頃、遊んだ海は

[DISC2 : English]

  • there’s a river
  • car and freezer
  • memory and dust
  • mr.cloud
  • a part of your life
  • borderline in shadow
  • waiting sign
  • tonight
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