INTERVIEW

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石橋英子「car and freezer」 スペシャルインタビュー

  • 2014.03.12
プログレッシヴな音楽性と不思議な魅力を放つ歌声で、美しい繭を紡ぐように白昼夢めいた歌の世界を生み出す鬼才、石橋英子。昨年、ドラッグ・シティからアメリカ・デビューを果たし、今年に入ってからはジム・オルーク、山本達久と結成した即興ユニット、カフカ鼾のファーストをリリースするなど、次々と新しい扉を開けてきた彼女が、新作『car and freezer』を完成させた。近年、活動を共にしてきた重要なパートナー、ジム・オルークをプロデューサーに招いた本作は、彼女にとって初の2枚組。しかも、同じ曲を違った内容の歌詞とアレンジで歌うという斬新なコンセプトだ。バックを務めるのはもちろん、もう死んだ人たち(須藤俊明、山本達久、波多野敦子)で、ゲストにはトランペット奏者の類家心平をはじめ、前野健太、U-Zhaan、高岡大祐らが参加。前野は日本語歌詞のすべてを手掛けるなど、石橋にとって新たな挑戦が詰まった本作は、間違いなく彼女の新たな到達点を刻んだマイルストーンというべき傑作だ。





————今回のアルバムは〈side car〉〈side freezer〉という2枚のディスクで構成されて、同じ曲を違った歌詞とアレンジで歌うというユニークな仕掛けになっています。これは最初から考えていたことだったですか?
「今回はあまり貧乏くさい作品は作りたくないと思っていて。といっても、前の作品が貧乏くさいとは思ってないですよ(笑)。ただ前作は、硬派に物語と音楽の探求みたいなものを全面に押し出したところがあったので、次はシンプルだけど単純ではなく、ミニマルだけどゴージャスなアルバムを作ろうと思っていたんです」
————それってかなり難しいことですよね。そんななかで、〈side car〉の日本語歌詞を前野さんに依頼したのはどうしてですか?
「前野さんの歌詞はすごく日常的で、生きていたら毎日感じていそうなのに、気付かないことを歌っていたりする。そういう小さなものへの視点が、今回自分がやりたいと思っていることにあっているかな、と思ったんです。自分が歌詞を書くよりも、もっと良いものができるんじゃないかって」
————でも歌詞を見ると、いつもの前野さんのテイストと違いますね。
「そうですね。前野さんも結構、苦労したんじゃないかと思います。前野さんが私の故郷の茂原に行きたいって言うので、一緒にに行ったりもしましたし」
————茂原で何をしたんですか?
「ただ二人でずっと歩いてました。何キロ歩いたんだろう、ただ黙々と。時々、前野さんはメモをとったりしてましたね」
————送られてきた歌詞を見てどう思われました?
「全然、意味がわからないなって(笑)。タイトルからして〈ゴリラの背〉とか〈塩を舐める〉とか、何それ?って感じじゃないですか。これで歌えるのかと思ったんですけど、歌っているうちに段々と言葉が身体に入ってきて、そうすると言葉が私を押すんですよ。〈もっとテンション高く歌ってほしい〉みたいな感じで」



————まさに言葉の力ですね。一方、〈side freezer〉で石橋さん自身が手掛けた歌詞はすべて英語ですが、英語で歌詞を書くのは大変だったんじゃないですか?
「私は普段、英語をしゃべらないので、ただ英語を連ねるだけではダメだと思ったんです。歌詞のなかで物語を作る時に、いろんな表現の仕方を学ばないといけないと思って、映画を英語字幕付きで観たりしました。映画は好きなので、そうすると覚えやすいかなって」
————いろいろ勉強されたんですね。実際に英語で歌ってみてどうでした?
「歌の歌い方とか倍音の出方も違ってくるし、音や楽器との混ざり方も全然違ってきますね。あと、日本語だと使うのが恥ずかしい言葉も英語にすると使えたりして(笑)」
————英語だと照れずに歌える(笑)。そういえば、今回はヴォーカルに時間をかけて取り組んだとか。これまでは、歌うのは苦手だとおっしゃっていましたよね。
「そうなんですよ。ずっと歌うことに抵抗がありつつ、歌わなきゃいけない状態が続いていて、これはどうしたもんかと考えていたんです。それで今回は自宅で一人、自分の声をいろいろ録ってみて、曲にあう歌い方というか、曲を消化させるためにはどういう歌い方があうか模索したんです」
————ある意味、特訓ですね。
「やってて厳しかったですね。もう、千本ノックみたいな感じ(笑)。録音した自分の声って、良いところがあまり見えてこないから。良いテイクでも捨ててしまう可能性があったんですけど、ジムさんがそうしないための良いやり方を教えてくれたんです」
————そうした作業を通じて何か発見はありました?
「芝居過ぎていてもダメだし、無機質すぎてもダメだし、そのバランスを探すために、いろんな歌い方をしてみたんです。そうしているうちに、自分が思っているより声に表情があるうことに気付きました。全部歌い終わってからのテイク選びは、歌が中心の曲だけど、歌詞とか曲の意味とかじゃなくて、その歌がもつ可能性に向けてどうアプローチできているかを基準に選んでいきました」
————というと?
「いま、歌ってすごい固定的なものを求められている気がするんです。例えば歌っている人のキャラクターとか歌詞の意味とか。そういうところから離れて、音楽の歴史のひとつのページとか、人間の歴史のなかで流れているものとか。そういうものに向かっていく音楽になったらいいな、と思ったんです」



————なるほど。歌に対する捉え方も重要なわけですね。レコーディングではこれまでとは違って、現場でアレンジを考えながら曲を作り上げていったそうですね。
「これまではリズム・パターンとかベースのフレーズとかを決めておいて、後は録るだけみたいな感じだったんです。でも、今回のデモは自分の声とピアノだけで、(レコーディングに参加した)皆さんもどうしたらいいかわからないところからスタートしました」
————そういうやり方を選んだのはどうして?
「さっきお話しように、シンプルだけど単純じゃないものを作りたかったからです。最初にしっかりしたデモを用意しちゃうと、複雑なものになってしまうんですよね。だから基礎はシンプルに作っておいて、あとはバンドで音を出しながらやっていくほうが可能性が広がると思ったんです」
————セッションしていくなかで、デモから大きく変化した曲もありました?
「例えば〈ゴリラの背〉とか。最初はもっと有機的な曲だったんですけど、無機的になっていったというか、冷たい道路を走る車みたいな感じになっていきましたね。あと〈幼い頃、遊んだ海は〉はコード進行がころころ変わって、最後のほうで歌が畳み掛けるところはデモにはありませんでした」
————そんななかで、2つのヴァージョンのアレンジを考えるのは大変じゃなかったですか?
「そこは大丈夫でしたね。やりかたったことでもあるし。ただ、聴き比べた時に面白くなるように、というのは考えました」
————2枚のアルバムを聴き比べると、歪んだ合わせ鏡みたいな感じで面白いですね。ゲストについてですが、類家心平さんが参加されているのがちょっと意外でした。これはどういった経緯で?
「類家さんとは一度、ライヴで一緒に即興をしたことがあって。その時のトランペットの音がすごい素敵だったのを思い出したんです。今回のアルバムは少しアダルトな感じが欲しかったので、お願いすることにしました」
————確かに類家さんのトランペットが良いアクセントになってますね。〈幼い頃、遊んだ海は〉では前野さんが参加してデュエットしていますが、この曲は前野さんと一緒に歌うことを想定して作ったんですか?
「違います。作ってみたら思ったよりもキーが高くて、低い音もあるといいな、と思って前野さんにお願いしたんです。あと、前野さんがこの曲に対する特別な思い入れみたいなものが歌詞から伝わって来たので、一緒に歌ったらまた、新しい命が吹き込まれると思いました。」
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————プロデュースのジムさんとは、アルバムについて何か話をしました?
「ジムさんは私の曲の成り立ちとかもわかってきているので、とくに何も言わないというか。アレンジに関しても口を出すことなくて、〈はい、始めてください〉〈どう思いますか、今のは?〉くらいな感じでした。よっぽど私が困った時だけ、〈こっちのほうが良いんじゃない〉って意見を言ってくれる程度で」
————信頼関係ができているんですね。そうやって完成したアルバムを聴いて、どんな感想を持たれました?
「実はマスタリングが終わってからまだちゃんと聴いてないんです(笑)。でも、今までとは違う面白い作品になったとは思いますね。『Imitation of life』で蓄積したものを大事にしながら、別の方向へ向かうことができたんじゃないかと」
————今回、いろいろ新しいチャレンジがありましたもんね。同じことを繰り返したくない、という気持ちはあります?
「そうですね。やっぱり、作っていく過程がいちばん大事だというか。出来上がった結果というより、作っていく過程で何を求めるのか、何を目指すのかが重要だと思いますね」
————今回のアルバムは、その過程がいつも以上に大変だった作品なんですね。
「今回はかなり辛抱強く作りました。英語を勉強したり、歌い方を考えたり、不安なままレコーディングに突入したり。でも、そういう〈うわ~ん〉となっているところからパッと抜けた時。例えば、なかなか歌えなかった歌が突然歌えたりした時とかが一番刺激的なんです。今回はそういうことがいろいろあって。何回やってもできなかった逆上がりが出来たみたいな(笑)、そういう感じのアルバムでした」
text : 村尾泰郎
photo : 澁谷征司




felicity Special |
石橋英子 セルフライナーノーツ 「car and freezer ができるまで」

http://1fct.net/archives/7741
 -
  • 2014.03.12 On Sale
  • PECF-1090/1 / felicity cap-194
    [CD] ¥2,600 with tax
    ※CD2枚組

<TRACK LIST>

[DISC1 : Japanese]

  • たいくつなものがたり
  • 塩を舐める
  • 私のリトルプリンセス
  • 時を告げて
  • 遠慮だね
  • ゴリラの背
  • ラップ・トップ・ブルース
  • 幼い頃、遊んだ海は

[DISC2 : English]

  • there’s a river
  • car and freezer
  • memory and dust
  • mr.cloud
  • a part of your life
  • borderline in shadow
  • waiting sign
  • tonight
VIDEO


PROFILE
石橋英子Eiko Ishibashi
石橋英子「car and freezer」 スペシャルインタビュー茂原市出身の音楽家。いくつかのバンドで活動後、映画音楽の制作をきっかけとして数年前よりソロとしての作品を作り始める。その後、4枚のソロアルバムをリリース。ピアノをメインとしながらドラム、フルート、ヴィブラフォン等も演奏するマルチ・プレイヤー。シンガー・ソングライターであり、セッション・プレイヤー、プロデューサーと、石橋英子の肩書きでジャンルやフィールドを越え、漂いながら活動中。最近では長谷川健一、前野健太、トンチ、オウガ・ユー・アスホールの作品に参加。またソロライブと共に、バンド「石橋英子withもう死んだ人たち(ジム・オルーク、須藤俊明、山本達久、波多野敦子)」としても活発にライブを行う。

http://www.eikoishibashi.net/
http://twitter.com/Eiko_Ishibashi
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  • PECF-1090/1 / felicity cap-194
    [CD] ¥2,600 with tax
    ※CD2枚組

<TRACK LIST>

[DISC1 : Japanese]

  • たいくつなものがたり
  • 塩を舐める
  • 私のリトルプリンセス
  • 時を告げて
  • 遠慮だね
  • ゴリラの背
  • ラップ・トップ・ブルース
  • 幼い頃、遊んだ海は

[DISC2 : English]

  • there’s a river
  • car and freezer
  • memory and dust
  • mr.cloud
  • a part of your life
  • borderline in shadow
  • waiting sign
  • tonight
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