INTERVIEW

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日暮愛葉 「“18” aiha higurashi cherish my best 」 スペシャルインタビュー 第二回 アルバム全曲解説【前編】

  • 2014.03.18

————全21曲の割にあっという間に聞き終わりますね。すごく簡潔で。
愛葉 「あ、ほんと。よかったよかった」
中尾 「ははは」
愛葉 「曲自体が短い曲が多いですからね」
中尾 「パンパンに入ってますけどね(笑)」
————収録分数ってCDの収録限界ギリギリなんですよね。印象としてはその半分ぐらいで終わる感じで、すごく痛快でした。
愛葉 「嬉しい!開口一番“長いすねえ!”って言われたらどうしようかと思ってた(笑)」
————デビュー18(アイハ)周年で、初のベスト盤をだそうという話になったんですね。
愛葉 「そうですね。レーベルの方から話があって…」
中尾 「いや、言い出しっぺは僕です(笑)。」
愛葉 「あっ、そうか憲太郎か!」
中尾 「僕の中では、まずライヴをやろうってアイディアありきで始まってるんです。で、付随してほかにできることないかと思って、シーガルを改めて聞き返して、根っこのぶれない感じが、通して聞くとすげえわかるんです。そういうのをまとめてみると、改めて見えてくるものがあるんじゃないかと思って」
————愛葉さんはそういうアイディアを聞いてどう思ったんですか
愛葉 「最初に憲太郎から、シーガルの曲をライヴでやらないですかって言われた時から、改めて過去の楽曲を聞き返した始めてたんですよ。なのでベスト盤の話もすんかり受け止めましたね」
————ベスト盤の選曲の作業は具合的には?
中尾 「メールでやりとりして、あとは電話で」
愛葉 「パソコン立ち上げて曲を並べてみて」
中尾 「プレイリストを作って」
愛葉 「この曲はこの後の方が良くない?とか、そういう地味な作業をずっと続けて」
中尾 「最初はメディアの収録限界を考えずに楽曲を挙げていって、それから尺にあわせて削っていきましたね」
————じゃあ我々が好きなアーティストのコンピレーションCDを作るのと変わらないですね(笑)。
中尾 「同じですよ!」
————楽曲の取捨選択の基準は?
愛葉 「シーガルに関しては憲太郎は通っていないので、私なりの思いや、みんながどういうふうに受け止めていたか、ライヴでの反応とか、そういうことを話して。それならこの曲はマストですね、という具合に決めていきましたね。定番の、(ファンの)期待通りの曲もあるし、意外な曲も、その両方があるという選曲にしたいなと」
————ライヴで必ずやってた曲とか。
愛葉 「シーガルはだいたいライヴでやってた曲ですけど、それ以外は意外とライヴで全然やってない曲も入ってるんです」
中尾 「そうそう。LOVES.とか、ライヴで2〜3回しかやってない曲も選んでる(笑)」
愛葉 「憲太郎が好きで入れたい曲とかね。気が付くとライヴでやってない曲ってけっこう多いんですよ」
————昔の曲を聞き直す機会もあったかと思うんですが、どんなことを感じました?
愛葉 「ものすごい量だと思いましたね(笑)。CDを引っ張りだして片っ端から聞いてたら娘に呆れられたぐらいで(笑)」
中尾 「愛葉さんも楽曲を把握できてなかったですもんね」
愛葉 「うん。曲の内容とか忘れちゃってて。え、そうだったっけ、みたいな(笑)。でもシーガルに関しては、たくさん作った割に今でもパッと弾けるんですよ。歌詞も覚えてるし。半端じゃない回数やってるから。リハもツアーも膨大な数をやってるから、叩きこまれてるんですよね、カラダに」
————漏れた曲はどういう曲が多かったんですか。
中尾 「長い曲はけっこう漏れましたね。THE GIRLとか長い曲が多いんですよ。同じ曲でもアルバム・ヴァージョンよりシングル・ヴァージョンが短かったら、そっちを入れたり。なるべくたくさん曲を入れたかったし」
————短めの曲が多いことで、アルバム全体にスピード感が出てますね。そこを重視した選曲なのかと思いました。
中尾 「それはあるかもしれないです。僕、そういうのを選んじゃいがちなんです。」
愛葉 「でもそれでいいと思う。あたしもそうだから。この長さだと、中だるみしてもおかしくないじゃないですか。だけど今回はそうならなかった。だから(中尾の選曲は)すごいなあと思いました。体感するテンポとかコード感、音質・音量もそうだけど、曲の選び方や並べ方は、すごい参考になりました」
————テンポがいいっていうのは、アルバム全体にフィジカルな流れがあるから。
愛葉 「ああ、すごくいい表現かも。フィジカルな流れ」
中尾 「愛葉さんの音源でDJやるような感じっていうか。確かに定番曲とかにこだわらず、そういう感じで74分仕上げようっていうような、そんなノリはあったかもしれないですね」
————今はシャッフルで聞く人も多いかもしれないし、どの曲順で聞くかは自由だけど、だからこそ作る側は曲順にはこだわりたいですよね。
愛葉 「たぶんこの曲順がベストだと思いますよ(笑)
————歌詞の流れは考えましたか?
愛葉 「歌詞は…まったく考えてません(笑)」
————あ、そうですか。
中尾 「え、そんな感じしました?」
————最初の数曲は「私はやるわよ」「誰かの言いなりにはならないわ」っていう、ある種の宣言に取れるんですよ。
中尾 「ああ、ほう〜〜」
————それでガツンとやって、それからいろんな内容の歌詞が出てきて、さまざまな感情が歌われるという。
愛葉 「全然、考えてないです(笑)」
————あ、そうすか(笑)。
中尾 「曲と歌詞がリンクしてるってことなんでしょうね。」
愛葉 「あははは! そうだね。自然とそういう曲順になっちゃったんだね」
————そういう意識もあるのかと思いました。
愛葉 「全然ないですねえ」
中尾 「意識してたっていう風にしてもらっても…」
愛葉 「全然構わない(笑)。実はそうなんですよって」




01. Down To Mexico / SEAGULL SCREAMING KISS HER KISS HER
中尾 「PVありましたよね。あれって実際にメキシコで撮ってるんですか」
愛葉 「撮ってない。あれはサンタフェで撮ってるの。でもメキシコで撮ったということにしてた(笑)」
————この曲を作った時はメキシコに行ったことがあったんですか。
愛葉 「行ってないです」
————じゃあ「想像上のメキシコ」ですね。
愛葉 「はい。そのあとすぐに行ったけど」
中尾 「実際のメキシコはどうだったんですか。想像してたメキシコとくらべて」
愛葉 「すごいカオスだった。あたしはフリーダ・カーロがすごい好きだったんだけど、メキシコ・シティーがすごいカオティックで、いろんな文化が混在してるんだけども、すごく閉鎖的なところで。メキシコシティ自体が治安も悪いし危険だし。想像してた、開けた砂漠っぽいイメージとは全然違う殺伐感がありましたね」
————この曲の歌詞では、メキシコは自由で開放された場所というイメージですね。
愛葉 「そうですね。<理想郷>じゃないけど、自分を解き放てそうな場所、というか」
————実際にこの曲を作った時に、ある種の閉塞感を感じていたんですか。そこから自分を解き放ちたい、というような。
愛葉 「曲を作る時は毎回なにかしらの開放感を求めて作るんですけど、これは、冒頭の”ダダダ、ダダダ”っていうメロディと言葉を作った時点ですごい解き放たれちゃったので、もうできちゃったんですよ、そこで。これこれ!みたいな。こういうのが作りたかったんだよね!みたいな」
中尾 「はあ、面白いなあ」
————なぜメキシコなんです?
愛葉 「どこでもよかったんですけどね。でもメキシコだとかっこいいし、漠然とした憧れもあったし。いろんなアーティストもいるし。あと、アメリカに一番近い異国でしょ」
中尾 「近いけど人種は違うし…」
愛葉 「そうそう。敬虔なカソリック教徒だしね、みんな。だから世界が違った気がした。でも理想郷ではなかったの。
————ヴァイオリンがいい感じを出してますね
愛葉 「はい。当時のディレクターの知り合いの音大出の人に弾いてもらったんですけど、もともとストリングスがすごい好きで、このちょっと前からストリングスを入れるのにはまったことがあって。
中尾 「ヒステリックな」
愛葉 「そう」




02. No star / SEAGULL SCREAMING KISS HER KISS HER
03. No telephone / SEAGULL SCREAMING KISS HER KISS HER
————シーガル後期の曲です。
中尾 「定番って感じがしますよね。"No Star""No telephone"の流れって」
愛葉 「その2曲はライヴでもつがいでやってたしね。『No! No! No!』ってタイトルを思いついたので、<No>ってつく曲を3曲書かないとなあっていうところから始めて。で、<Star>って言葉が好きなので、"No Star"でいいじゃんと思って」
————YesじゃなくてNoなのはなぜですか。
愛葉 「(即答)パンクですから」
中尾 「(笑)否定から入る」
————なるほど。
愛葉 「No Wave,No New York。No!No!No!みたいな。それのみです。"No telephone"もそうです。"No Star"は歌詞が面白くて。<彼女>と<自分>が混在した歌なんですよ。普通の近所の花屋さんかなんかで働いている女の子が、自分がどれだけ輝いているか知らずに、みんなに見られてる。あたしもひとりの傍観者で、彼女のことを知っている、でも彼女はあたしのことを知らない。で、だんだんだんだんその彼女が自分になっていって、最後は自分が赤いドレスをまとって、自分も私の頭の中の彼女もスターであることに気づくっていう、そういう歌詞」
————歌詞って自分に照らしあわせて書くことが多いんですか。
愛葉 「いやあ、別にそんな…何も考えてないです。メロディと一緒に浮かんでくるので」
————あとで歌詞をつけるのではなく。
愛葉 「はい。ほとんどの曲が同時に歌詞が浮かんでくるんですよ」
————"No telephone"は同じセンテンスを繰り返してる曲ですが、曲と同時に歌詞が浮かんで、それでほとんど完結していると。
愛葉 「そう。当時はまだ携帯電話はそんなに普及してなかったけど、電話みたいな、人との直接的なコミュニケーション以外のコミュニケーションツールっていらない、と思ったことは覚えてます。そういうものは捨てちゃおう、っていう」
————だから曲も簡潔だし。
愛葉 「そうですね。それだけで伝わるなと思って」
————この冒頭3曲の流れはそういう意味ですごく強力ですね。
中尾 「うん、そうですね」




04. Sentimental Journey / SEAGULL SCREAMING KISS HER KISS HER
————これはどういう経緯で作られたんですか。
愛葉 「まずタイトルが浮かんで。ダムド好きとしてはね、ダムドっぽい<思春期の焦燥感>を表すには"Sentimental Journey"ってタイトルはぴったりじゃないかと思いついて、それを念頭に置きながら鼻歌を作りました」
————今さらなことをお訊きしますが、なぜ英語で歌うことが多かったんですか。
愛葉 「英語はとてもリズミカルで、ロックとして考えるなら、一番音楽的に合うなと思ったんです。言語としては英語は一番しっくりくるなって。フレンチポップスならフランス語の方があうんだろうし、日本だったら演歌とかムード歌謡とかいろいろあるけど…日本語が(ロックに)あうなら日本語でもいいんです。ていうか何語でもいいんですよ。ポルトガル語だっていいし。でも私が偶然英語を喋れるし、英語で鼻歌を思いつくので。それを日本語に変換するとなると、かえって不自然なんですよね」
————あるヴォイストレーナーの方によれば、英語のほうが母音と子音の関係で、リズム感が出しやすいらしいですね。日本語は母音が多いので、歯切れのいいリズムを出しにくいらしい。
中尾 「(英語と日本語では)ミックス・バランスが全然違うんですよ」
————美島豊明さん(コーネリアスのマニピュレイター)も同じようなことを言われてましたね。「英語と日本語は耳に引っかかってくる周波数帯が違うから、ミックスする時EQのポイントが違ってくる」って。
中尾 「母音が多いと、歌を大きくしないと、ほかの楽器に埋もれちゃって、ただ聞こえないだけになっちゃう。でも(英語みたいに)子音が多いと音が抜けてくるから、ミックスバランスが小さくても、ほかの楽器(の音が前に)が出せるんですよ。日本語は、ほかの楽器を埋もれさせちゃうんですよ。だからどうしても歌が大きくなって、洋楽っぽくならない」
————ヴォーカルと演奏が拮抗して一体化するんじゃなく、演奏が歌のバックっぽくなっちゃう。
愛葉 「ああ、なるほどねえ」
————なにか工夫をしないと、ロックらしいリズム感も出ないし、歌と演奏がうまくバランスしてくれない。
中尾 「子音の多い歌い方をするとかね」
————今回は愛葉さん自ら手がけた歌詞対訳がつきますが、一旦英語で書いた歌詞をわざわざ日本語にする作業ってどうなんですか。
愛葉 「あ、その作業はすごく面白くて」
————原詞と対訳を読みくらべてみると、微妙に違いますよね。
愛葉 「意訳してますからね。あと、小説が好きなので、小説を読むみたいに対訳を読んでもらえたら面白いだろうなって」
中尾 「そうか。日本語で音楽が聴けるわけじゃないから。読み物ですもんね」
愛葉 「そう。私、対訳の仕事をしてたんですよ、一時。その時に、いろんな方の対訳を読んで勉強したんですけど、まず対訳を見ないで自分なりに原詞を訳してみると、全然違うんですよね。これはある種の文学というか、世界があるんだって、意訳という」
————背景にある意味みたいなものを、対訳する人がどういう風に汲み取るかってことですよね。
愛葉 「そうなんです!」
————ビジネス文書みたいなものだったら誰が訳しても大差ないけど、歌詞みたいな抽象的で比喩や省略の多い文は、解釈の仕方で変わってくるってことですよね。
愛葉 「そうなんです。そう思ってたから、シーガルをやってたころはほとんど対訳ってつけなかったんですよ。みんなが好きなように汲み取ればいいと思ってたから。好きな状況で聴いてく、自分の感覚で汲み取って、っていう。間違っててもいいし、ある意味でそれも正解だし。だから…私映画はなんでも楽しめるんですよ、吹き替えでも字幕でも。なんでも面白い。ほんとはこう言ってるけど、わかりやすくするためにこう訳してるんだなとか。この文字数の中でやらなきゃいけないんだなとか」
中尾 「オレ好きな映画は両方見ますよ」
愛葉 「そう、それすごく大事で。相手にわかりやすいか、伝わりやすいかってことを考えながら意訳をしてます」
————だからこの対訳をよく見ると、英語では1行で済ませてることを対訳では3行かけて訳してたり。その逆もあって。そのメリハリが面白い。
愛葉 「そうそう、そうなんですよ。よくぞ訊いてくださいました…(笑)」
中尾 「ネットでちょっと見たんですけど、夏目漱石がI Love Youをどう訳したかっていう話」
愛葉 「へ〜〜」
中尾 「“今夜は月が綺麗ですね”とか」
愛葉 「あっ、それどっかで読んだ!。そうそう。だからそういうことなんですよ」




05. ユメミタイ(cherish my life) / 日暮愛葉
————ソロのセカンド・シングルです。日本語詞だし、曲調もシーガル時代とは少し変わってますね。
愛葉 「シーガル後期のころから"ララバイ"とか"どこへいくの?"とか、日本語の曲も歌ってきてますからね。なので、だんだん日本語で鼻歌も湧くようになってきて。無理に日本語で作ろうと思って作ったわけではないんです。この曲も ♪タッタッタッ…♪という冒頭の部分を鼻歌で思いついて」
————シーガルからソロになって、作るときの意識は変わりましたか。
愛葉 「ぜんぜん変わらないです。いや…意識は変わってますね。アウトプットがぜんぜん違います。作り方はあまり変わってない。鼻歌でデモテープを作って」
————プロデュースはASA-CHANGですね。
愛葉 「そう。ASA-CHANGとは普通に仲が良かったんだけど、この曲の入った『Platonic』ってアルバムは、自分のデモテープをいろんなプロデューサーに料理してもらおうという企画だったんです。元をぶっ壊してもいいから。いろんなタイプの人間性と触れ合って、面白かったです。アルバムも面白いものになったと思う」
————人にいじられる経験はどうだったんですか。
愛葉 「ぜんぜん自分の曲じゃないみたいで不思議な感じでした。
————さっきの歌詞対訳の話と同じで、プロデューサーの人が愛葉さんの曲をどう解釈するって話ですね。
愛葉 「そうですね。どう解釈するか、どう遊びたいか」
————愛葉さんのどういうところをリスナーに見せたいか。
愛葉 「そうですね。それもひとりひとりによってぜんぜん解釈が違うんで。ASA-CHANGは"ユメミタイ"に関しては、デモテープがすごくよくできていると言ってくれて。打ち合わせの時に“これ、もう完成してるじゃん。オレやることあるの?”って言ってくれたぐらい」
————これを聴いたとき、すごく新鮮だったことを覚えてます。
愛葉 「私にとっても、ある意味新鮮でしたね」
————やはりバンドとは違うものを出していこうという気持ちが。
愛葉 「それはもう、ソロのファーストを出す前、yukiちゃんのプロデュースにも使った自分のソロように書いていた曲が5曲ぐらいあったんですけど、その時点でもう、バンドじゃないアウトプットにスイッチしてました、自分が。もうバンドはしばらくやんないぞ!って感じで」
————でも実質的にひとりで背負ってたという意味では、変わらないといえば変わらない。
愛葉 「そうですねえ…でもあたしがリーダーで引っ張っていたといえ、メンバーだって人間だから、そのへんはいろいろ共有していることもあるし、支えてもらってるところもあったんです。でもソロになると、本当にひとり、というか裸一貫という感じになって、
けっこう辛かったですね。精神的にもっとも不安定な時期だったと思います。特に『Platonic』の時が。バンバン倒れてたし。"ユメミタイ"のPVの中で、ちっちゃな私のアニメが裸でうろうろして困ってるって絵があるんですけど、そういう感じ。すごい心細い時期でしたね」
————歌詞もちょっと揺れ動いてる感じが。
愛葉 「そうですね。絶対あると思いますね」
————あと、シーガル時代とソロ以降では録音状態がぜんぜん違いますよね。
中尾 「違います」
————同じベスト盤に入れるためには、音質の統一性を持たせなきゃいけないわけですが、どういうことに気をつけましたか。
中尾 「音圧の調整と…あとソニー原盤の音源が、マスタリング済の音源だったんです。当時は音圧競争のピークみたいな時期だったと思うんですけど、だから音圧をぶっこみすぎて最初から音が歪んでるんです(笑)。それをうまく処理するのが大変で。シーガルの初期とか、すごい録音レベルもちっちゃいので、その音圧のギャップの調整が」
愛葉 「いまのと前ので切り替えて聴くと、すごいわかるんですよ。うわ、ちっちゃ!って」
中尾 「ローの出方とかもぜんぜん違うし」
愛葉 「シーガルの初期とかぜんぜんローがないんですよ」
————あのころのCDってみんなそうですよね。
中尾 「"ユメミタイ"って、音像は隙間が多くてスペースありそうなんですけど、じつはめっちゃ(音圧レベルが)デカくて(笑)。なので目一杯下げました。最初から歪んじゃってるんで。とにかく大変でした」
————当時はみんな、そういうコンプかけまくった音に慣れてたってことなんでしょうね。
中尾 「そうじゃないですかねえ」
愛葉 「あたしもびっくりした。最初から音が歪んでるって何?みたいな」




06. What you gonna do babe? / LOVES.
————ソロからLOVES.になったというのは、さっき言ってたようなひとりでやる不安感のようなものが…。
愛葉 「単純にいえばバンドが恋しくなったんですよね。まず憲太郎を誘って…」
中尾 「ソロやってる時ですよね」
愛葉 「そう。ソロ中に、ソロに疲れた私が、やっぱりバンドをやりたいってなって。つまり…普通の人間の歩みですよ。同じこと繰り返してるっていう(笑)。やっては疲れてやめて、また新しいことはじめて、疲れてやめて…」という繰り返しです(笑)」
————スティングはバンドとは思春期的なものである、ということを言ってたらしいですね。大人になってやるものじゃないと。
中尾 「なるほど…」
愛葉 「でもあたし、万年思春期なんで。うふふ(笑)」
中尾 「男なら中2病って言われますけどね(笑)」
————実際LOVES.を始めて変わりました?
愛葉 「変わりましたね。メンバーの一部はソロの時から一緒にやってたメンバーだったりするんですけど、バンドってことだけで気分が変わる。それまでやりたくてもやれなかった曲調もやってみたり」
————これも簡潔な歌詞ですね。2行しか歌詞がない。
愛葉 「(笑)そうですね。“どうしたいのよ? どうするわけ?”みたいな」
————それで全部言い尽くしてるから、これ以上加える必要がない。
愛葉 「これもライヴでほとんどやってないんですよ」
————でも、これこそライヴ向けの疾走感のあるロックンロールですね。
愛葉 「なんでやらなかったんだろ…たぶんライヴでは、こういう曲よりも、『LUCKY ME』とか"accidentally"みたいな、自分の中のカテゴリーでいうと『NO NEW YORK』みたいなかんじの曲をやりたかったんだと思います。ロックっぽいやつよりも、もっと隙間の多い、セッションぽいやつをやりたかったんですね」
————この曲は初期シーガルっぽいかんじがしますね。
愛葉 「あ、そうですか。そこは意識してないけど」
中尾 「あ、オレ、そこありきで選んでるかも。シーガル・フィルターありきで、LOVES.の選曲をしてしまったかもしれないです」
愛葉 「へえ。なぜ憲太郎があまりライヴでやってない曲ばかり選んでくるのかと思ってたけど…」
中尾 「だって好きなんですもん!(笑) 好きなのにあまりライヴでやってくれなかったから(笑)」
————今頃言ってるわけですか(笑)。
中尾 「そうそう」
愛葉 「言ってよ〜(笑)」
中尾 「言ってましたよオレ。やんないんすか〜って。そしたら、え〜〜〜って言われました(笑)」




07. accidentally / 日暮愛葉 And Loves!
————次がいま話に出た”accidentally」です。
中尾 「この時から僕、制作に関わっているんですよ。ファースト(『LUCKY ME』(2007))ではいきなり呼ばれて、ただベース弾いただけだったから。2日前にライヴで秋山(隆彦)さんに会ったら打ち上げの席で、ベース入れてくんない?って言われて。曲も知らずにスタジオに行って(笑)。それで2日で全曲入れたという(笑)」
愛葉 「だから私、なんで憲太郎が来てるんだろうって思ってた(笑)」
————誰かの代わりに弾いたってことですか。
中尾 「いや、そもそもベースを入れる予定がなかったんです。打ち込みとかで入ってたんですよ」
————それを生のベースに差し替えようと。
愛葉 「そうそう。生のほうがいいねって話はしてたんだけど、そうしたら憲太郎が来た」
中尾 「それでライヴとかも一緒にやるようになって、ある日スタジオでセッションぽい感じで作ったのが"accidentally"なんです」
————<LOVES.>から<日暮愛葉 And LOVES!>になって。
中尾 「キューン離れて自主で作ったんですよね」
愛葉 「そうです。私がレーベル立ち上げて、私のところで出しました。完全に自主制作ですね」
中尾 「それでちょっと心機一転、名前を変えて」
愛葉 「そうそう」




08. You come to me, and give them back to me / SEAGULL SCREAMING KISS HER KISS HER
————メジャーデビューする前の曲ですね。
中尾 「これが(本盤で)一番古い曲なんですよね」
愛葉 「そうです。小林(ヒロユキ)のとこ(HATE IT,DAMN IT RECORDS)から出した」
————非常にハードな曲ですね。
愛葉 「そうですね。歌詞もハード」
————この歌詞も、ご本人のその時の状況と何か関係あるのかと勘ぐってしまいますが。
愛葉 「あ、男性関係とか全然関係ないですよ(笑)」
中尾 「わははは!」
愛葉 「平和に彼氏がいて、普通でしたけど。何の不満もなかったし(笑)。単純に…なんだろう、攻撃的になりたかった時期、というか」
————そういう風に、平和な生活を送っていても、攻撃的になる瞬間ってあるんですか。
愛葉 「まあまあ、ありますね」
中尾 「フフフ…」
愛葉 「誰でもあると思いますけど、私はアップダウンの振り幅が大きいので。普通の人に比べるとずっとでっかいので。すごくアンコントローラブルな自分の、一番尖ってる、というかギスギスしたところを出したかったんだと思います。この時期。シーガルって最初はサッちゃん(イトウ・サチコ)とふたりで可愛い感じで始めたんですけど、それ(可愛い曲調)を一切やめた時ぐらいから、ずーっとそんな感じですね。仲くん(仲真史)のとこ(a trumpet trumpet RECORDS)から出した最初のやつ(”Losey Is My Dog”1993)は可愛い感じだったんですけど、次の”Seagull To Hell”(1993)は、もめながらも、だんだんギスギス感を出し始めて。一番出したかった『Give Them Back To Me』(1996)は、長い間自分の中でシーガルの名刺代わりとして、人に聞いてもらったりするときには、『It's Brand New』(1997)よりも、これを渡してました。2日間で録音したんですけど、とにかく自分のやりたいことを全部やったんですよね。なので長らく自分の中で名刺代わりでした」
————そういうコントロールできないような狂おしい感情が湧き上がってくるような時のほうが、楽曲はできやすいってことでしょうか。
愛葉 「私だけじゃなくて多くの人がそう言うと思うんですけど、怒りとか、自分の中でうまく吐き出せない気持ち…置き場がない気持ちっていうか…そういうのがあるときのほうが、作曲はできますね」
————吐き出すことによって、自分自身のバランスをとっている部分も。
愛葉 「あると思いますよ、すごくそれは。だからミュージシャンをずーっとやってるし。やめようとも思わないんだと思います」
————ミュージシャンになってなかったら犯罪者になるしかなかった、みたいなことを言う人は時々いますね。
愛葉 「あたしもね…ミュージシャンやってなかったらどんな生活してたんだろうって時々思いますけどね。想像つかないですけど。でもちょっと考えると怖いですね」
————モーサム・トーンベンダーの百々和宏くんが「バンド以外の場所でこれだけ発散させようと思ったら、犯罪ぐらいになるんじゃないですか。バンドっていうだけで許される。本気の暴動じゃなくて、<暴動のようなライヴ>っていうだけで、客に喜ばれる。こりゃもう、最高だなと」と言ってましたね。
中尾 「わははは!」
愛葉 「(笑)さすが百々くん。その通りだと思います。しょうもないことにきこえそうだけど、私も頷いちゃうな。だって…ねえ。いろいろな意味でぎりぎりのところでやってるから。音楽っていう、外に向ける出口があったから、バランスが保ててますね」
————昔シーガルにインタビューした時、子供ができて変わった、ということをおっしゃってましたけど。
愛葉 「あ、ほんと? でも変わりますよ。当時小野島さんに言った時よりも、もっと変わってきたと思う。だって母親歴14年、もうすぐ15年なんですけど、15年間母親やってると、だんだんお母さんになってくるんですよ。プライオリティが自分よりも娘になるじゃないですか。そういう意味で、ギスギスした自分を保つのが結構たいへんなんですよ。ちょっと気を抜くと安定感が出ちゃうんで(笑)」
一同「(笑)」
愛葉 「結構<安泰な自分>みたいなものが出てきて。娘の心配だけしてればいいや、みたいな(笑)」
————だって娘さんからしたら、お母さんが不安定だと困るでしょう(笑)。
愛葉 「だいぶ不安定なお母さんですけど(笑)。よそのお母さんから比べたら。でも<不安定さ>がなくなったら、私、ミュージシャンできなくなっちゃう。娘って、私にとって絶対的な存在なんですよ。だから娘がいる限り、不安定になりづらくなっちゃうんですよね」
————極端な言い方をすると、それは自分がこの世界にいる意味とか価値ですよね。
愛葉 「そうそう、そうなんです!自分以上に価値のあるものがそばにあるから。ダイアモンドみたいなものが。割ろうと思っても割れないようなものがあるんで。そうすると創作意欲と反比例しちゃうというか。まったくお尻に火がつかないような状態になっちゃうんです」
−−
————奏するに創作活動って、自分の中の欠損してるところとか…。
愛葉 「そうそう。渇望するものがあるっていう」
————そういうものを埋めるために、あるいは世間とのギャップを埋めるために作品を作るんだけど、でも子供がいることで…。
愛葉 「埋まっちゃうんですよ。そこで“よっこいしょ”って(創作を)やるのがものすごい大変ですね」
————どう解決してるんですか。
愛葉 「(笑)解決策を考えたほうがいいかなと思った時もあったけど、まあ出来る時は曲できてるんで。そういう時はやっぱり…ちょっとした創作意欲も見逃さないで、自分でそれを拾って、すぐ曲作りに入れるモードにスイッチできるようにはしてます。それぐらいしかやってないかな」
————LOVES.をやってた時はそのバランスはうまくいってたんですか。
愛葉 「ちっちゃかったんで、娘が。ベビーシッターさんもいたし。両親も預かってくれたりとかしてたんで、普通に曲は出来てましたね」




09. Brain Washer / LOVES.
————これはLOVES.の最後のアルバムですね。
愛葉 「うん、ネタを持ち寄って、みんなで作りましたね。ミックスからマスタリングまで全部」
————バンドらしいバンドの作り方だった。
愛葉 「うん、そうですね」
————ということは、以前のように全部自分でコントロールできるわけではない。
愛葉 「そうですね。そういう意味でもどかしい部分も、正直ぶっちゃけありましたけど、でも憲太郎が、完全にメンバーとして入ってるじゃない、このアルバム。その存在があったからできたかなあ、というかんじ。セッションしていくうえにで頼りになるし、共有できるものも多かったので。私よりも全然視野がひろいし、周りとのバランスもちゃんと見てくれるから。私がわーってなってても…」
中尾 「“まあまあまあ大丈夫だから”って(笑)」
愛葉 「そうそう。そう言ってくれるから。裏バンマスみたいなかんじ」
————フロントマンの扱いに長けてるんじゃないですか、いろんな人といろんな経験してるから(笑)。
中尾 「(笑)いやいやいや、そんなことないです! 長けてたらやめてないっていう(笑)」
————あの人ともやってるし、この人とも…。
中尾 「あはははは!」
愛葉 「大変な人ばっかり(笑)」
中尾 「まあ並べたらわりと、面白いっちゃ面白いかも…」
愛葉 「キャラクターが立ってる人が多いよね(笑)」
中尾 「まあまあ…この時はバンドとしての体力は限界かなっていうのはありましたよね」
愛葉 「そうかもね。これで終わりだなって気はしたよね」
中尾 「うん…そこがバンドっぽいというか。ずっと続けていると、バンド内に流れてくる殺伐感みたいなものが…なんていうかな、演奏とかアレンジがツーカーになって、こう…すごくピークを迎えるんだけど、それと同時に…バンド自体の…」
愛葉 「新鮮さ?」
中尾 「うん、とかも…失われつつあるっていうか」
愛葉 「うん、言わんとすることはわかる」
————そういうのってやってて感じるものなんですか。
愛葉 「この時はけっこう明確に感じなかった?」
中尾 「感じましたね。うん」
愛葉 「たぶんみんながそう思ったんじゃないかな、同時に」
中尾 「うん。これ録って(岩谷)啓士郎もやめたし。なんかが飽和してたというか。飽和じゃなくて<喪失した>かもしれないけど オレはこのアルバムは、LOVES.としての集大成感を感じるんですよね」
愛葉 「うん、私もそう思う」
————やれることはやり尽くしたという実感に近いんですか。
中尾 「もちろん続けていれば、違う何かが生まれてるかもしれないですけど、なんとなく全員が“もういいんじゃないか”って空気があったような気はしてます」
−−バンドってそういうものですか、終わる時って。
愛葉 「いや、それぞれだと思いますね。まったくそういうのを感じさせず、予期せず終わったり。自分からいやになったり。いろいろある」
中尾 「でもこの話に“わかる”っていう人は多いかもしれないす」
愛葉 「うん」
中尾 「メンバーのバイオリズムがあって、ひとりがイマイチでも、ほかの人がよければ続いたりするけど」
愛葉 「そう。それがみんな同時にきたかんじ。なので作品としてはすごく完成度が高いんです。みんなの意識が集中してたから。でも意識が集中すればするほど、反比例する何かが動いてて。(バイオリズムが)下降するとかじゃなくて、先が見えたとかでもなくて、その時にもう…今はもうやらなくてもいいかなっていう…」
中尾 「もしかしたら誰か、もっと続けたいと思ってたかもしれないけど(笑)、たぶんそれはなくて」
愛葉 「バイオリズムがあってたから、休もうかってタイミングも一緒だったんじゃないですかね」
————それはシーガルをやめたときともまたちがうんですね。
愛葉 「違いますね。」
中尾 「作品が完成して時間ができて客観的に聴いても、すごい面白いアルバムだと思うし、演奏すごくいいし、内容もいいですよね」
愛葉 「うん。だから、最後にいいアルバムがとれて、すごくよかったなって思うもんね」
中尾 「すごくバンド感みたいなものがあると思って」
interview & text : 小野島大 (音楽評論家)
photo : yu-co ishikawa




日暮愛葉SPECIAL WEB
https://1fct.net/sp/aihahigurashi-18

 -
  • 2014.04.16 On Sale
  • PECF-1095 / felicity cap-198
    [CD] ¥2310

<TRACK LIST>

  • Down To Mexico / SEAGULL SCREAMING KISS HER KISS HER
  • No star / SEAGULL SCREAMING KISS HER KISS HER
  • No telephone / SEAGULL SCREAMING KISS HER KISS HER
  • Sentimental Journey / SEAGULL SCREAMING KISS HER KISS HER
  • ユメミタイ(cherish my life) / 日暮愛葉
  • What you gonna do babe? / LOVES.
  • accidentally / 日暮愛葉 And Loves!
  • You come to me, and give them back to me / SEAGULL SCREAMING KISS HER KISS HER
  • Brain Washer / LOVES.
  • Do what you want / THE GIRL
  • evolution / SEAGULL SCREAMING KISS HER KISS HER
  • Silly Girl / 日暮愛葉
  • 風穴 / LOVES.
  • A shotgun and me / SEAGULL SCREAMING KISS HER KISS HER
  • idiots / THE GIRL
  • Pink soda / SEAGULL SCREAMING KISS HER KISS HER
  • NEW LIFE / 日暮愛葉
  • See ya comin' in / LOVES.
  • School lunch / SEAGULL SCREAMING KISS HER KISS HER
  • Seventeen / SEAGULL SCREAMING KISS HER KISS HER
  • Angel / SEAGULL SCREAMING KISS HER KISS HER


PROFILE
日暮愛葉Aiha Higurashi SEAGULL SCREAMING KISS HER KISS HERシーガルスクリーミングキスハーキスハー
SEAGULL SCREAMING KISS HER KISS HER

日暮愛葉:Vo&G
中尾憲太郎:B&Cho *Crypt City, younGSounds
おかもとなおこ:Dr *つばき, THE GIRL, DQS
蓮尾理之:Key *385, bonanzas, THE JETZEJOHNSON
一ノ瀬雄太:G *快速東京
moe:Cho *Miila and the Geeks, Twee Grrrls Club

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<TRACK LIST>

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  • Pink soda / SEAGULL SCREAMING KISS HER KISS HER
  • NEW LIFE / 日暮愛葉
  • See ya comin' in / LOVES.
  • School lunch / SEAGULL SCREAMING KISS HER KISS HER
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