INTERVIEW

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王舟「Wang」ができるまで vol.3

  • 2014.07.02

王舟のファースト・アルバム『Wang』発売記念のロング・インタビューも、いよいよ今回が最終回。アルバムの収録曲について、いろいろ語ってもらった。といっても、その話は単なる曲の解説にはぜんぜん集約されない。ゆるやかに脱線しながら、結果的に王舟の周りにいるミュージシャンの自然な集い方とおなじように、音楽をかたちづくる要素も、結果的にそこにいるという感覚なのだ。そして、王舟が「あ、これってこんな曲だったのか」と自分の曲に対して、いつも自身であらたな魅力に気がついていくように、聴き手も王舟の音楽に、それぞれの魅力を見いだしてゆくことが許されているのだと思う。
そういう音楽に、今、出会えることがうれしい。
では、王舟の話を続けよう。


<バックナンバー>
◆王舟「Wang」ができるまで vol.1
https://1fct.net/interview/interview032

◆王舟「Wang」ができるまで vol.2
https://1fct.net/interview/interview033



———— 『Wang』の話をしましょうか。仲原(達彦)くんがスタッフとして関わることになって、アルバムを出すということが決まって。この11曲は、どうやって決めたんですか?
王舟 まず3、4年前にアルバムを作ろうとしてたときにバンドでやってた6曲(「tatebue」「瞬間」「New Song」「ill communication」「とうもろこし畑」「Thailand」)が決まってました。それに「dixi」と「boat」を足して8曲。バンドとは別のアコースティック編成でも、ちょっとラグタイムっぽい曲を録りたいなと思って「uguisu」と「My first ragtime」の2曲。もう1曲はoono(yuuki)くんのギターと何か一緒にデュオでやりたいと思って、「windy」って曲をやりました。

———— これまでの話のなかでも何度か出てきてますけど、「自分の周りにいるいろんな人たちに参加してもらいたい」という思いは、アルバム制作に関しては一貫してあったんですよね。
王舟 アルバムの最初の段階は、曲じゃなくて人から決めてました。「この人とこういうことやったらおもしろそうだな」という考えから、どういう曲をやるかを決めていったんです。周りにいっぱいおもしろい人がいるから、そういう人たちと何かやりたいというのがあって。本当にいい人たちが多いから。それで、バンドのメンバー以外にも、kyoooちゃん、森ゆにさん、林谷さんに、それぞれ参加のお願いをしたんです。

———— 「自分の音楽を通じてもっと知らせたい」みたいな気持ち?
王舟 そういう感じもちょっとありましたね。アルバムに参加してもらったところで、その人の良さがぜんぶ出るわけじゃないですけど、一緒にやったら何かかたちが想像できるような感じの人とやりたかったんです。それぞれ参加してくれた人たちのスタンスは違ってて、それがいいんですよね。ぱっと合わせたときにみんなの性格が出るというか。

———— たしかに、みんなで王舟の指示に従って、尽くしてるという感じになってないですよね。みんなが集まって演奏してる場所とか景色のなかに王舟がいるというふうに思える。「あ、なんか王舟いる」みたいな。
王舟 そうですね。

———— そのいろんな人がいる景色みたいな感覚は、王舟の音楽自体の魅力ともつながる要素でもあるし。
王舟 主旋律が完成してて、進行がシンプルだったら、みんなで合わせられるから、それこそさっきもいってたニューオリンズのジャズもそうですけど。そういう感じでごった煮してるのが好きなんです。

———— でも、ごった煮ではあるけど、コテコテじゃない。煮詰まって、窮屈になってなくて、風通しがいいんですよ。では、ここからは一曲ずつ収録曲のことを聞いていきます。まずは「tatebue」。これを一曲目にしたのはなぜですか?
王舟 あ、曲順はぜんぶタッツ(仲原)が決めたんです。

———— そうなんですか?
王舟 曲順も、アルバム・タイトルも彼が決めました。作ってるときは曲順も考えてなかった。一応、「こういう曲順はどう?」って自分で考えたやつを送ったら、「こっちはどう?」って送り返してくれた曲順のほうがよかったんで、そうなったんです。

———— でも、結果的に「tatebue」には、ゆっくり幕が開くというか、夜明け感みたいな気配がありますよね。
王舟 この曲はひとりで作ってるときは、どっかの部族の音楽みたいだと思ってました。最初は歌い方もぜんぜん違ったんです。でも、みんなのところに持ってったら「ポップな曲だね」っていわれて。じっさいに、岸田(佳也)さんと合わせてみたら、すごくポップな感じになったんですよ。

———— 「部族っぽい」っていうのは、どのあたりが? サビの展開とかはそれっぽいかもしれないけど。
王舟 どっかの部族がちょっとポップな曲を歌ってる感じですね。そういうシチュエーションって現実にはないんですけど。しかも、部族っぽいのって思ったのはAメロとかなんですよ(笑)

———— それでタイトルも「tatebue」なんですか? 部族の縦笛みたいな?
王舟 そうなんですかね? 曲名は、曲ができた後につけるんです。日常的に書いた曲をボイスメモに録ってあるんですけど、それをまとめて聴いて名前をつけるんですよ。で、そこからまた2ヶ月後とか、3ヶ月後に聴いたりすると、その曲にタイトルがしっくりくるようになってきて、名前のイメージもだんだん曲のなかに入っていって、仕上っていくんです。最初はちっちゃいきっかけで、それが何個かまとまったら曲になっていって。この曲だったら、「tatebue」ってタイトルのイメージがそこに入ってるんです。



———— 次は「瞬間」。まだミックス前の段階でアルバムの曲を聴かせてもらったときに、「これを一曲目にすべきだ」と僕が主張した曲でもあるんですが。
王舟 これがアルバムのなかでは一番雰囲気が違いますよね。

———— 『賛成』に入ってた宅録ヴァージョンからずいぶん変わって、フリーソウル的でもあるキャッチーなアレンジで。mmmのコーラスも最高だし。
王舟 これはビーサン(Alfred Beach Sandal)のアレンジなんですよ。

———— どういうこと?
王舟 ビーサンが「瞬間」のカヴァーをMySpaceにあげていたんですけど、そこからコードを借りてるんです。『賛成』に入ってる宅録ヴァージョンの「瞬間」は、打ち込みで作ってて、和音として特定のやつがあるわけじゃないから、ライヴでは再現しにくいんですよ。弾き語りでもやるんですけど、それもまたイメージが違う感じだし。でも、ビーサンのヴァージョンを聴いたら、すごくよかったんですよ。ビーサンと2人でデュエット・ライヴを代官山の“晴れ豆”(晴れたら空に豆まいて)でやったことがあって、そのときにコードを教えてもらいました。だから、これはビーサンが作ったコードなんです(笑)

———— そうなんですか。それを王舟のバンドでもやろうということになったと。これはAlfred Beach Sandal公認ということで、いいんですね。
王舟 いいんです。

———— 3曲目は、インストの「dixi」。これこそ上海で昔見たジャズ・バンドの感じが生きてるのかなと。
王舟 そうですね。上海っぽいというか、懐かしい感じがあって、アルバムで一番好きな曲です。テーマのラインも好きだし、バンドに持ってったら結構華やかな感じになって、ソロ・パートを入れたら、ニューオリンズのデキシーランド・ジャズっぽい感じになったし。

———— 4曲目の「boat」。
王舟 これは……、昔のフォークとか、そういうイメージですね。

———— 昔のフォークは、よく聴きますか?
王舟 ああ……、ボブ・ディランは明確に好きです。

———— ディランが明確に好きだっていう理由は?
王舟 メロディもいいんですけど、「しゃんとしろ」みたいなことを雰囲気でいわれてるのが。聴いてると「しっかりしなくちゃ」って気になりますよ。あと渋谷のなぎ食堂でバイトするようになったときに、店主の小田(晶房)さんがちっちゃいころからブルーグラスをやってたりして、古いフォークが結構好きな人なんで、そこからいろいろ知ったのもあります。ジョニー・キャッシュも好きだし、ハンク・ウィリアムスとか昔から好きでしたね。メロディが民謡みたいで背景がわからなくても入っていきやすいから。

———— どういうところに惹かれるんですか?
王舟 コードも簡単だし、メロディで情緒をつけていくっていうのが、子どもが好きそう。そういうのがすごく好きですね。あと、カントリーとか、フォークとかで、今の一緒にやってるメンバーとの共有する部分がわかりやすい。

———— 「その人になりたい」とか「その曲を真似したい」とかじゃなく、音楽や曲が共有されている感じに惹かれてるんでしょうね。
王舟 そうですね。

———— 「シンガー・ソングライター以前」という感じのありかたに惹かれているというか。
王舟 スティーヴン・フォスターの曲とか、すごく耳馴染みあるじゃないですか。

———— 「峠の我が家」とかの。
王舟 ああいう曲って、「だれが作ったか」なんて考えないような年頃で聴いてたのがすごく記憶にいっぱい入ってて。なんかそういうのをみんな口ずさんで、昔のアメリカでゴールドラッシュに向かったみたいな、そういう共有のされ方が結構好きですね。

———— ちなみに、この「boat」はもともと「アメリカ」ってタイトルだったそうで。
王舟 アメリカっぽいから(笑)。「アメリカ」って曲名が付いてるやつがボイスメモで4曲ぐらいあったんですよ。なんでこの曲が「boat」になったかは、それが違和感がなかったからで、理由はわかんないです。

———— アルバム・ジャケットが湖の小舟を写した写真だから、そういう意味ではリンクもしてますけどね。では、5曲目の「uguisu」。
王舟 これは、エリザベス・コットンです。この人もなぎ食堂で知ったんですけど、エリザベス・コットンって黒人のおばあちゃんがいて、別にミュージシャンじゃないんですけど。

———— 知ってますよ。右利き用のギターを左利きで弾くおばあちゃん。ジョン・フェイヒイにも影響を与えてます。
王舟 エリザベス・コットンのギターが、すごく好きなんですよ。それまであんまり自分ではしてなかった感じの指弾きができただけで、それをただ「エリザベス・コットンっぽい」っていってるだけなんですけどね。でも、イメージ的には、わりと子守唄っぽい感じ。

———— 彼女は、もともとピート・シーガーのお父さんであるチャールズ・シーガーにお手伝いさんとして雇われてた人ですもんね。ベビーシッターとして子守唄をシーガー家の子どもたちに歌ってたはずですよ。
王舟 そうなんですか? めっちゃいい話じゃないですか。もともと、お兄ちゃんの右利きのギターがあって、それを自分は左利きなのにかまわず弾いて、あのスタイルになったんですよね。黒人音楽ってそういうのをそのまま使うじゃないですか。楽器をぜんぶ没収されたから、ドラム缶を叩いてスティールパンができる、みたいなエネルギーというか情熱というか、そういうのがおもしろいですよね。

———— 6曲目の「ill communication」。これはビースティ・ボーイズからいただいたのではなく?
王舟 アニメの「エウレカセブン(交響詩篇エウレカセブン)」からです。暇な時期に全50話を3回くらい見たんですよ。あのアニメは毎回のサブタイトルがなにかの曲名だったりするんですけど、毎日なにもすることもないし、そのタイトルと内容を題材にして、一日一曲、曲を書いてたんです。それの「イル・コミュニケーション」って回(第18話)で書いた曲だとずっと思ってたんですけど、ついこないだ昔のデモを探ってみたら、それより前の回の「ヒューマン・ビヘイヴュア」(第15回)のときに書いた曲だったんです。ビースティじゃなくてビョークでした(笑)。名前を間違えてました。

———— まさに自分のなかでの「イル・コミュニケーション(不適切なコミュニケーション)」状態(笑)。じゃあ、この曲は「human behavior」だったかもしれないんですね。
王舟 でも、歌詞的に見れば「human behavior」というより「ill communication」ですけどね。

———— 7曲目「New Song」。
王舟 これはずっと「新曲」ってできたときからいってたんですよ。それがあって、なぎ食堂で2011年に撮影(王舟presents "KING FILM"による映像シリーズ第二弾)をしたときに、「曲名どうする?」っていわれたときまでずっと決めてなかったから、「新曲」から取って「New Song」にしました。「New Song」にした時点でもう5ヶ月くらいやってたから、もはや「新曲」ではなかったですけど(笑)。

———— そのエピソードも、「新曲」が「新しい曲」っていう意味の縛りから離れていく感じですね。「新しくできた曲」ではなく、いつでも「新しく感じられる曲」になっているというか。
王舟 そうですね。その撮影のリハでみんなで合わせたときの延長で、このレコーディングはやってますね。あと、この曲はできたときは「NRQっぽいな」って印象だったんですよ。NRQを聴いて、上海のニューオリンズ・ジャズバンドを思い出して、それでギター弾いてたらこのリフができた。後半部分は、イギリスのロックバンドのコーラルのイメージなんですよ。

———— NRQとコーラルをつなげてみた?
王舟 つなげてみても乱暴じゃないなと思ったんですよ。作ってるときにそういうイメージがでてきてるだけなんですけどね。

———— 「くっつけてみたらおもしろいだろう」という意図があるというより、「こうなっちゃった」という感じですよね。
王舟 結局、本当にでかく世界規模で見たら、みんなギター弾いてるし、そんなに違うことやってるわけじゃないから。

———— 8曲目「My first ragtime」。
王舟 これは、戦前の黒人ブルースマンのブラインド・ブレイクみたいなギターをやりたいなと思って。ブラインド・ブレイクは、潮田(雄一)くんから教えてもらったんですよ。ブルースってもっとゆったりしてるイメージだったんですけど、この人はラグタイムとブルースが混ざってて、すごく軽快で、メロディもいい。(高橋)三太くんも、この曲では昔のジャズっぽいミュートの効いたトランペット吹いてくれたし。のんちゃん(澤口希)にマリンバで入ってもらったのも、ブラインド・ブレイクの曲で一曲マリンバと絡んでて楽しそうなのがあって、それがすごくいいから、やってみたいなと思ったんです。

———— たぶん、ブルースのさびしさとか暗さとかより、リズムとかメロディに惹かれてるんでしょうね。
王舟 思い出すのは、20歳ぐらいのころに感じてた「ブルース弾いてるおっさんって、しつこいし、イヤだな」って感じ(笑)。そういうさびしいのも、歳をとるにつれ「かっこいいな」と思うようになってるんですけどね。

———— そういう孤独に思いつめた部分はわかりつつも、今回は戦前ブルースのフィールド・レコーディングとかでの、人が周りにいて囃したり歌ったりしてる感じがほしかったというか。
王舟 そうですね。このアルバムはそういうふうにしようと思ってましたから。あんまり暗い曲はないです。

王舟

———— 9曲目「windy」はさっきもいってましたけど、oonoくんとふたりでやった曲です。
王舟 18、19歳くらいのころに書いた曲を引っ張り出したんですよね。それを引っ張り出してきて、やりました。

———— たしかに、いわれてみればちょっと若い匂いのする曲ですよね。なぜその曲をoonoくんと?
王舟 「oonoくんとやりたい」というのがまず最初にあって、「なにがいいかな」と思ってたらその曲を思い出したんです。当時、専門学校で仲良くなった友だちの家に行って録音だけしたんですけど、そのときのデータが残ってて。ライヴでは七針で一番最初にやったソロ・ライヴでやったくらいかな。

———— oonoくんは、この曲についてはどういってました?
王舟 「あ、いい曲だね」って。七針で一緒に練習したらすごくいい感じだったから、その七針でのテイクを使いたいくらいだったんですけど、あとで大城(真)さんのスタジオでちゃんと録りました。でも、これ、おれのなかでは一回、アルバムからボツになってるんですよ。それをタッツが「いい曲だから」っていうんで復活したんです。oonoくんと、これが復活してアルバムに入るって話をしてないから、「ごめん、せっかく録ったのに、ボツで」って話になったままなんですよね(笑)

———— 10曲目「とうもろこし畑」。アルバムのなかでは「瞬間」とこれが日本語です。
王舟 日本語の曲は他にもあるんですけど、この曲はバンドでやれるイメージができてたからライヴでもわりとやってましたね。

———— 「とうもろこし畑」からラストの「Thailand」って、ぐっとくる流れですよね。みんなが徐々に集まってくるような感じもあって。
王舟 そうですね。たしかに。

———— 「Thailand」こそ、できたころから「この曲いいね」といわれ続けた曲だと思うんですが。
王舟 もともとはバンド(AMAZON)用に書いた別の曲のデモを作ってたんですけど、その曲が結構わかりにくい曲だから、ひとりで作ったデモの「Thailand」を添えたんですよ。「最初のがダメだったら、これもあるよ」くらいの感じで。そしたら、「Thailand」が「いい曲だ」ってメンバーに言われて。おれは、ロックバンドはこういう明るいイメージじゃないと思ってて、B級映画のサントラみたいな暗い感じでバンドをやりたかったから、「Thailand」は違うなと思ってたんですよ。でも、みんなに「いい」っていわれたから、ライヴでやり始めたんです。

———— あのだんだんドラマチックに盛り上がっていく構成は最初からできていたんですか?
王舟 いや、あれは今のバンドになってからですね。最初のは、頭から8ビートで、もっとリフで作っていて、展開もドラムの抜き差しでわかるくらいの感じでした。もともとは、あるとき難しい曲を書こうと思って、すごい難しい気分になって一日がんばってたんだけど、「あーもう、ぜんぜん書けない!」って感じになって、そこで力を抜いてシンプルに手癖で弾いたらできた曲なんですよ。「もうあきらめた〜」って感じで、うっぷんを晴らす感じで歌って。それでできた曲なんです。

———— その難しい気分の一日があったからこそできた曲だと。
王舟 そうですね。やっぱり長い時間かけて作曲して煮え切らない感じが続いたあとに、パッと明るく、「もういいや! あきらめよう!」って感じで作るとポップなのができる。その抜けたときの爽快感が、ポップさになるんじゃないかと。

———— 「煮え切らない」というか、「ストイック」ということなんでしょうね。ゆえに「煮え切らない」わけで。
王舟 ストイックに突き詰めるんですけど、やりかたがわかんないまま突き詰めてるから、煮え切らなくなるんですよ。そのときは、小比類巻(貴之)がひたすらサンドバッグを蹴ってるイメージで(笑)

———— K-1か!
王舟 小比類巻は「ミスター・ストイック」ですから。まあ、長い時間をかけないと、そこに突入していかないという感じはあります。

———— それって、このアルバムについてのひとつの説得力でもあるというか。
王舟 ああ、そうですね。でも、このアルバムって3年間かけた感じもしないじゃないですか。

———— でも、結果的にいう王舟のストイックさって、「3年かかってもおなじものを作った」ってところだと思っていて。途中でもいっぱい新曲はできてるのに、そこに移行して違う感じのものを作ろうとするんじゃなくて、最初に思い描いてたものを作った感じがすごいですよね。
王舟 いつもわかりやすいものを作りたいけど、その間にものすごい考える時間の隔たりがあって、最後にぽっとわかりやすいものが出る。

———— そこがいいんじゃないですか? だから、3年間の蓄積で音楽が重たくなってない。
王舟 蓄積した感じがないのが結構気に入ってますね。積み重ねて物を作るというのが苦手というか、自分の事に関してはあんまり魅力を感じない。ピカソがいってた話で、「描きながら美しいと思いはじめたら、一回それを捨てて、もう一回最初から描く。そしたら、前にいいと思ってた部分がそこに少しだけ乗る。そうやって描いていくと実質的なものになる。私は自分の魂は売らない」っていうのがあって。重要なのは、自分が主観でいいなと思ったものがやわらいで、中和されていくっていうことかなぁと思うんですけど。あと、ピカソは若いころにお金がなくて、電気代が払えなくて部屋が暗かったから、暗くても見える青色の絵の具を使って絵を描いて、それらの作品が今は「青の時代」としてたくさん残ってる。その話もいいなと思います。黒人がたまたまそこにある道具を楽器として使って音楽をやった話とも似てるじゃないですか。そんなに難しくしようと思って作るわけじゃない。ピカソも難しい理由があって青色にしたわけじゃない。そこがいいんですよね。

———— 王舟もアルバムにたどり着くまで何度もくり返して、作っては壊したりしたけど。
王舟 動機はシンプルなままに保つという感じなんですよ。

———— それは結構できそうで、できないことですよね。
王舟 できそうで、できなかったですね(笑)

———— まあでも、アルバムはできたわけだから。
王舟 できてよかったです。

———— うわさでは知っていても「王舟ってどんな音楽をやるんだ?」って思ってる人のほうがまだ圧倒的に多いから、こういうかたちで一枚のアルバムとして届けられるというのは本当にでかいと思います。
王舟 どういうふうに聴いてもらってもいいというか。言葉で明確に説明するようなたいした意味もないし。

———— 中国からやって来た王舟が日本で作ったポップスという視点では、これをエキゾチックに感じる人もいるかもしれないし、さっき王舟自身がいったように、広い枠で見れば、オアシスとも黒人ブルースともカントリーともみんな一緒だとも思える。王舟を知らない人でも輸入盤みたいな感覚で聴けるんじゃないかなという妙な信頼感はあります。それに、このアルバムを出せたことで、次を考えやすくなったのは間違いないですよね。
王舟 そうですね、かたちに残る作業を人とするときに、どうしたらいいかは未だにわかんないけど、思ってたイメージとは違う感じになるというのが勉強になりました。バンドでやるってことがそういうもんだと思ってたけど、レコーディング、ミックスとかに関しても、どうやったらいいのか、どれくらい変わるのかわかったし、実際にやってみてよかったですね。

———— 次は何年も待たずに行きたいですね。
王舟 そうですね。しめきりがあればね(笑)

(おわり)

interview & text : 松永良平



王舟 1st Album “Wang” 特設サイト
http://wang.ohshu-info.net

 -
Wang
  • 2014.07.02 On Sale
  • PECF-1099 / felicity cap-202
    [CD] ¥2530

<TRACK LIST>

  • tatebue
  • 瞬間
  • dixi
  • boat
  • uguisu
  • ill communication
  • New Song
  • My first ragtime
  • windy
  • とうもろこし畑
  • Thailand
VIDEO


PROFILE
王舟Oh Shu
王舟「Wang」ができるまで vol.3

2014年7月、多くのゲストミュージシャンを迎えてバンド編成で制作したデビューアルバム「Wang」をfelicityからリリース。
2015年11月、12インチ重量盤シングル「ディスコブラジル」をリリース。B面にはnakayaan(ミツメ)によるリミックス収録。
「ディスコブラジル」のミュージックビデオは、UKのアーティスト、KINDNESSことアダム・ベインブリッジが監督。
2016年1月、たったひとり、宅録で制作した2ndアルバム「PICTURE」をリリース。
2016年9月、MOCKYによるリミックスが収録された7インチシングル「Moebius」をリリース。
2018年5月、BIOMAN(neco眠る)と共作でインストアルバム「Villa Tereze」をイタリアにて制作、NEWHERE
MUSICからリリース。2019年5月、宅録とバンド演奏を融合させた3rdアルバム「Big fish」をリリース。2020年放送「ドラマ24
コタキ兄弟と四苦八苦」にて劇伴を担当。バンド編成やソロでのライブ活動のほか、CMへの楽曲提供、他アーティスト楽曲へのゲスト参加、プロデュースなどもおこなっている。


http://ohshu-info.net/

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Wang
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<TRACK LIST>

  • tatebue
  • 瞬間
  • dixi
  • boat
  • uguisu
  • ill communication
  • New Song
  • My first ragtime
  • windy
  • とうもろこし畑
  • Thailand
VIDEO