INTERVIEW

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downy / 第一作品集『無題』再発 第二作品集『無題』再発 <解説&ディスクレビュー>

  • 2014.07.23

音楽を聴くという行為は、大なり小なり現実逃避のニュアンスを伴う。今自分がいる此処ではない何処か別の世界へ連れて行ってくれるのが音楽であるなら、downyの音楽は、むしろ今自分がいる現実を強く意識させてくれるような気がしている。
いまぼくの住むマンションは気密性が高く、外の様子がまったくわからない。音も聞こえないしもちろん匂いも感じない。暑いのか寒いのか雨が降ってるのかどうかもわからない。静まりかえった部屋で窓やカーテンを閉めて仕事していると、世界中に自分ひとりだけ取り残されたような気分になってくる。
そんな部屋でひとり大音量でdownyを聴く。その殺伐として荒涼とした音は、やはり今の日本・今の東京の状況を反映している。過密・荒廃した街の雑踏のまっただ中でひとりポツンと佇んでいるような孤絶感と、反面、自分が世のあらゆるしがらみや、地上のもろもろの雑事から切り離されたような不思議な解放感を感じたりもするのだ。

downyは2000年4月に東京で結成されている。downyは2000年4月に東京で結成されている。メンバーチェンジを経て、現在は青木ロビン(vo,g)、青木裕(g)、仲俣和宏(b)、秋山タカヒコ(ds)、石榴(映像)の5人編成。映像担当が在籍するというメンバー構成は、初期のキング・クリムゾンを思わせる。青木ロビンが映画好きで、そもそも映画音楽を作りたくて音楽を始めたということだから、こうしたバンド・コンセプトは自然な成り行きだった。当初から映像と音楽の融合を目指したdownyのあり方は、その後ロック・バンドがVJ等を導入する先駆けだったとも言えるし、またサイケデリックな映像や照明と音楽を融合したショウを展開していた60年代サイケデリック時代のバンドの伝統を時を経て受け継いでいるとも言える。
結成当初の音楽性はゴリゴリのハードコアだった。イースタン・ユースやフガジが若き日の青木ロビンの憧れだったようだ。だが、ただ音を歪ませて音圧で圧倒するような安直なやり方に限界を感じ始めた。といっていわゆるシューゲイザー的な方向もやり尽くされていると考えた青木ロビンは、当時個人的によく聴いていたというヒップホップやエレクトロニカ、あるいはブリストルのトリップホップなどの「冷たい美学」のようなものを自分たちの音楽に取り入れていくことを考える。その過程でギターが盛大に音を歪ませ、シンバルが派手に鳴らされ、感情を込めたヴォーカルが大仰にシャウトするような、通常のハードコア〜ロック・バンド的なルーティンはすべて排除されてゆき、ライヴでの実験的な映像と融合一体化することで、他の誰にもないdownyだけのクールでスタイリッシュな個性が確立していくのである。
1日8時間にも及んだという過酷なリハーサルによって築き上げられた鉄壁の演奏力によって、変拍子やテンポ・チェンジを多用し次々と展開していく、隅々まで計算し尽くされ、徹底的に作りこまれた複雑な構成の楽曲を妥協なく、ストイックなまでに突き詰めていく、そのヒリヒリとした緊張感は、いわゆるポスト・ロック全盛の当時においても、圧倒的に際立っていた。一言のMCもなく、まったくもって無愛想に爆音が幻惑的な映像と共に鳴らされるライヴの様相は、まるでぼくが自室で幻視した東京という都市の光景そのままだった。
2001年、ファースト・アルバム『(無題)』(通称・第一作品集)をリリース。以降、downyのアルバムは特定のタイトルがつけられていない。これは彼らにとってアルバムとは特定のコンセプトやテーマに沿って作るものではなく、そのつど自分たちがやりたいことを無造作に詰め込んでいく「作品集」的な意味合いが強いからだ。
以降のdownyは2004年の活動停止まで1年に1枚というペースで計4枚のアルバムを次々とリリースしていく。彼らの作品の凝縮された密度の濃さを思えば、これは驚異的な量産ペースだと言っていい。そのあまりに過密で過酷でギリギリまで張り詰めた活動は、誰よりもメンバー自身を追い詰めてしまったのかもしれない。スタジオ音源としてはコンピレーション『Fine Time 2 ~A Tribute to New Wave』に収められたジス・ヒートの「Paper Hats」のカヴァー、そしてライヴ・アルバム(ともに2005年リリース)を最後にdownyは一切の活動を停止する。「自分が常に作り手の耳で音楽を聴くようになり、音楽を素直に楽しめなくなってしまった」とは、青木ロビンの当時の実感である。ロビンは沖縄に移住し音楽と関係のない仕事を始め、他のメンバーはその高い演奏力を活かし、東京でさまざまな音楽活動を展開していく。だがdownyの存在は忘れ去られるどころか年を追う毎にますます増していった。
そして2013年、青木ロビンの呼びかけにより、9年ぶりに活動再開。ロビンはTHE NOVEMBERSの新作『zeitgeist』をプロデュースするなど本格的に音楽シーンの中核に復帰した。そして2013年11月20日、第5作品集『無題』がリリースされ、ついにdownyは帰ってきたのである。

ぼくにとってdownyの音楽を聴くことは、常にヒリヒリするような緊張感と、孤絶と解放を繰り返すようなダイナミズムの連続運動に身を晒すことだった。とはいえ、9年間の活動停止を経て復活した現在は、以前と変わらぬテンションの高い音楽性ながら、少し違う柔らかくエモーショナルな表情も見せるようになった。メンバーもわれわれも9年分歳をとり、経験を積んだのだ。
だが活動停止前のdownyの作品は、いまだ他を寄せ付けないような厳しく孤高の雰囲気を漂わせている。もしかしたら人生で2度と訪れないかもしれない潔癖で純粋な青春の記憶が、今回リマスター再発される初期4枚のアルバムには生々しく刻み込まれている。


第一作品集「無題」

2001年5月23日、インディのguiderat / FIND OUTからリリースされたファーストにして、すでに後のdownyのサウンドがほぼ完全な形で焼き付けられている。ハードコア、エモ、ポスト・ロック、オルタナティヴ、シューゲイザー、ニュー・ウエイヴ、ダブ/アンビエント、フリー・ジャズやノイズ、ブレイクビーツ・エレクトロニカの高度な融合形。静と動、光と影を往還するダイナミズム、どこまでも美しく叙情的なメロディが、いきなり何の前触れもなく轟音ノイズにまみれてホワイトアウトしていくような極限のエクスタシー。さらには現代詩のような文学的・観念的リリックは、轟音の彼方から想像力を刺激する。まだ荒っぽさはあるが、すでにその個性は確立していると言っていい。
今回の再発にあたり、アルバム・リリース前の2000年11月に出たファースト・シングル「月宿る善良」収録の2曲が追加されている。いまだハードコア的な残滓を引きずった荒々しいサウンドが印象的だ。


第二作品集「無題」

前作からきっかり1年後の2002年5月22日にリリースされたfelicityに移籍しての第一作となるセカンド・アルバム。
彼らの作品の中ではもっともバンド的なサウンドが聴けるアルバムで、前作よりも無駄な部分がさらに削ぎ落とされて、骨組みだけの変則的なビートに、時にクールに、時に狂おしい轟音のギター・アンサンブルが重なり、さらに囁くように観念的な歌詞を歌うヴォーカルが鳴る、というdownyというバンドの基本的な音楽構造が、わかりやすく提示されている。バンドのフィジカルなグルーヴがもっとも感じ取れる作品でもある。無機質でクールで金属的な手触りと、生々しく肉感的な温かみが同居している。
今回の再発にあたり、2003年6月4日リリースのシングル+ライヴDVD『無題』のライヴ音源から3曲を追加収録している。


2014年6月19日 小野島 大 Dai Onojima

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  • 2014.07.23 On Sale
  • PECF-1097 / felicity cap-204
    [CD] ¥2530

<TRACK LIST>

  • 酩酊フリーク
  • 野ばなし
  • 昭和ジャズ
  • 左の種
  • 狂わない窓
  • アンテナ頭
  • 62回転
  • 麗日
  • 脱力紳士
  • 猿の手柄
  • 月宿る善良 (「月宿る善良」より *Bonus track)
  • 安心 (「月宿る善良」より *Bonus track)
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  • 2014.07.23 On Sale
  • PECF-1098 / felicity cap-01r
    [CD] ¥2530

<TRACK LIST>

  • 夜の淵
  • 黒い雨
  • 象牙の塔
  • 三月
  • 無空
  • 犬枯れる
  • 月が見ている
  • 葵 live (CD+DVD「無題」より *Bonus track)
  • 象牙の塔 live (CD+DVD「無題」より *Bonus track)
  • 無空 live (CD+DVD「無題」より *Bonus track)
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  • 2014.09.24 On Sale
  • PECF-1104 / cap-11r
    [CD] ¥2530
    ※9曲+ボーナストラック1曲

<TRACK LIST>

  • 鉄の風景
  • アナーキーダンス
  • 抒情譜
  • 形而上学
  • 暁にて…
  • 「   」
  • 酩酊フリーク
  • 山茶花 ※Bonus track (CD+DVD「無題」より)
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  • 2014.09.24 On Sale
  • PECF-1105 / cap-38r
    [CD] ¥2530
    ※9曲+ボーナストラック1曲

<TRACK LIST>

  • underground
  • Fresh
  • サンキュー来春
  • 木蓮
  • 「   」
  • 暗闇と賛歌
  • 逆光 ※Bonus track (新曲)
VIDEO


PROFILE
downyダウニー
downy / 第一作品集『無題』再発 第二作品集『無題』再発 <解説&ディスクレビュー>

2000年4月結成。メンバーに映像担当が在籍する、特異な形態をとる5人編成のロック・バンド。音楽と映像をセッションにより同期、融合させたライブスタイルの先駆け的存在とされ、独創的、革新的な音響空間を創り上げ、視聴覚に訴えかけるライブを演出。

2004年に活動休止し、2013年に再始動。2018年にギタリストの青木裕が逝去。2020年2月、SUNNOVA(Samlper/Synth)が正式メンバーとして加入。

[Official Website]
http://www.downy-web.com/

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  • 2014.07.23 On Sale
  • PECF-1097 / felicity cap-204
    [CD] ¥2530

<TRACK LIST>

  • 酩酊フリーク
  • 野ばなし
  • 昭和ジャズ
  • 左の種
  • 狂わない窓
  • アンテナ頭
  • 62回転
  • 麗日
  • 脱力紳士
  • 猿の手柄
  • 月宿る善良 (「月宿る善良」より *Bonus track)
  • 安心 (「月宿る善良」より *Bonus track)
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  • 2014.07.23 On Sale
  • PECF-1098 / felicity cap-01r
    [CD] ¥2530

<TRACK LIST>

  • 夜の淵
  • 黒い雨
  • 象牙の塔
  • 三月
  • 無空
  • 犬枯れる
  • 月が見ている
  • 葵 live (CD+DVD「無題」より *Bonus track)
  • 象牙の塔 live (CD+DVD「無題」より *Bonus track)
  • 無空 live (CD+DVD「無題」より *Bonus track)
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  • 2014.09.24 On Sale
  • PECF-1104 / cap-11r
    [CD] ¥2530
    ※9曲+ボーナストラック1曲

<TRACK LIST>

  • 鉄の風景
  • アナーキーダンス
  • 抒情譜
  • 形而上学
  • 暁にて…
  • 「   」
  • 酩酊フリーク
  • 山茶花 ※Bonus track (CD+DVD「無題」より)
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  • 2014.09.24 On Sale
  • PECF-1105 / cap-38r
    [CD] ¥2530
    ※9曲+ボーナストラック1曲

<TRACK LIST>

  • underground
  • Fresh
  • サンキュー来春
  • 木蓮
  • 「   」
  • 暗闇と賛歌
  • 逆光 ※Bonus track (新曲)
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