INTERVIEW

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kazuna hirose with ECHO "Grand M" スペシャル インタビュー

  • 2015.01.13

Kazuna hirose with ECHOの音楽を聴いてまず誰もが不思議に思うのは、どうしてこんな80年代のUKインディーズ・ギターポップを真空パックしたような音楽を、この時代に鳴らしているのかということだろう。謎な音楽には、謎なバックグラウンドあり。実はフランスと日本、どちらをもルーツに持つ広瀬和奏。日本でのデビュー作となる『Grand M』に至るまでの、その驚きのストーリーを訊いた。ちなみに、5歳の頃からマンチェスターシティーの熱狂的なサポーターでもある広瀬には、そっち方面にも驚きのエピソードが山ほどあるのだが、「音楽とフットボールは自分の中では特にリンクしてない」とのことなので、この記事では音楽の話だけにフォーカスを当てたことをここに記しておきます。

———— 広瀬くんって、今はまだ大学生なんですよね?
「21歳。1993年生まれです」

———— で、ちょうど生まれた頃にイングランドやスコットランドで作られていたような音楽を鳴らしているわけだ(笑)。
「まさに、そういうことになりますね(笑)」

———— とにかくプロフィールが謎だらけなんで、一つ一つ確認していっていいですか? まず、日本生まれのパリ育ちってことでいいんですか?
「日本で生まれて、生まれてすぐに親の転勤でパリに渡って。日本に一人で帰ってきたのが中3の時で」

———— え? じゃあ実家は今もパリ?
「そうなんです。で、日本の高校に入って、東京で一人暮らしを初めて、ずっと一人だったんで、音楽とか映画とか、好きなことだけにどっぷりと浸るようになったんです」

———— バンドを始めたのは?
「本格的に始めたのは今のバンドが初めてです。大学に入って、初めて音楽の話で通じ合える仲間ができて」

———— この80年代&90年代のUKインディーロックが突然リバイバルしたような音楽性は、そもそも何がきっかけだったんですか?
「最初はベル・アンド・セバスチャンだったんですよ。高校の時に彼らのセカンドアルバム(『天使のため息』1997年)を初めて聴いて『なんだこれ!』ってなって」

———— 彼ら自身も80年代のUKインディーロック、いわゆるネオアコのリバイバリストですよね。
「そう。それで、そこから自分も80年代のそのあたりの音楽を遡って聴くようになって。パリにいた頃は、スピッツばっかり聴いてたんですよ。あと、母親が大好きだったからフリッパーズ・ギターとかもよく家でかかってた」

———— 親がその世代なんだ。はぁー、まいっちゃうな(笑)。
「だから、キーワードとしてはパステルズとかオレンジ・ジュースとかヘアカット100とか、中学生の頃から気になっていたんですよ。それで、高校生になって一気に80年代のインディーズにのめり込んでいって。あまりにも好きすぎて大学一年の時にグラスゴーに行ったんですよ。一人で弾き語りのデモを作って、それを手に、スティーブン・パステルが働いているというmono(グラスゴーのヴィーガン・レストラン&バー。その奥にスティーブン・パステルが経営しているレコードショップmonorail musicがある)に行ったんですよ」

———— え? スティーブンっていつも店頭にいるんですか?
「いや、普段はいないんですけど、僕が行った時にはたまたまいて。それで、その場で音も聴いて気に入ってくれたんですよ。で、『今夜、King Tut's Wah Wah Hut(グラスゴーの老舗ライブハウス)でノーマン(・ブレイク)がライブやるから来る?』って誘ってくれて、それで一緒に行ったら、もうグラスゴー・オールスターズみたいな感じで、ヴァセリンズやBMXバンディッツやティーンエイジ・ファンクラブのメンバーやジザメリのウィリアム・リードとか当時の重要人物たちがみんなそこにいて。そこでスティーブンがみんなに紹介してくれて、そこで『CD作れよ!』って話が盛り上がったんですよ。それで、スティーブンが制作費の一部を出してくれて作ったのが最初の1st e.p.の『19’s trip』(現在は廃盤)。だから、一度もライブをしないまま海外でCDデビューしちゃったんですよ」

———— へぇー、夢みたいな話ですね。じゃあ、現在のkazuna hirose with ECHOのメンバーはその後に集めたということ?
「そうです。メンバーとは、辿ってきたルートだとか、好きな音楽とかは違うけど、根底で通じ合っていて。ライフスタイルの部分で似ているというか」

———— そのライフスタイルというのは?
「音楽が生活の一部にあるっていうことです。正直言って、自分たちは誰も『これで食っていかなきゃ』とは思ってないんですよ。パステルズのスティーブンも、ベルセバのスチュアートも、バンドの他に仕事をしていたし、自分たちもそういうスタンスで続けられたらなって思っていて。日本だと、そういうのってインディースピリットにみたいな感じで語られがちですけど、僕はそんな気負ったものだとも思ってなくて。向こうでは、月曜から金曜まで仕事をして、日曜日には仲間とスタジオに入るみたいな、そういうライフスタイルが当たり前のことだから」

———— そこに、日本の音楽シーンの現状に対するカウンター意識みたいなものはないんだ?
「ないですね。日本で日常生活を送っていて、そこで耳に入ってくる音楽については思うことはいろいろありますけど、そこと自分のやってる音楽は切り離されている。今のようなライフスタイルの中からこういう音楽が自然に生まれてきて。もう、そこで生まれてくるということは自分にはコントロールしようがないことだから。それを気に入ってくれる人がいたら嬉しいなってだけです」

———— 「20年遅れてきた渋谷系」みたいな言われ方をすることもあると思うんだけど、それについてはどう思います?
「そこは自分では全然意識してないんですけどね。ただ、そういうふうにとらえられるならそれでもいいし、当時、そういう音楽を聴いていた人たちに届いて、僕たちの音楽をおもしろがって聴いてくれるなら、それでいいかなって」

———— え? その世代に向けて音楽を作ってるんですか?
「それだけというわけじゃないですけど。ただ、現在のインディーキッズたちに向けてとか、そういう気持ちは全然ないですね」

———— 同時代に共感や親近感を覚えるバンドとかはいない?
「いないですね。『みんな元気だなぁ』って感じ(笑)」

———— ここ数年、日本のインディーズシーンでは、膨大な音楽のアーカイブの山の中から自分たちの音楽を再構築していくタイプのバンド、具体的にはceroとか森は生きているとかが注目されていますけど、kazuna hirose with ECHOはある特定の時代の音楽とカルチャーを切り取って、そこにオマージュを捧げているという点で、彼らとも違いますよね。
「そうですね。話したことがないから分からないけど、多分意識も全然違うと思います。自分はこうして、自分が好きなメンバーと、自分の好きなレーベルで音楽を出せるだけで満足しているし、このままいい環境で音楽を続けられれば、それでいいと思ってます。信用ができない人と仕事をしたり、自分たちの知らないところで自分たちの音楽が曲解されて消費されていくのが嫌なんですよ。大好きな音楽をやることで、音楽を嫌いになりたくないんですよね」

———— 言ってることはわかりますけど、ちょっとシニシズムとニヒリズムを感じずにはいられない(笑)。
「確かに、僕らのバンドは皮肉屋の集まりかもしれないです(笑)」


interview & text 宇野維正

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Grand M
  • 2015.01.14 On Sale
  • PECF-1118 / felicity cap-221
    [CD] ¥2530

<TRACK LIST>

  • affected..
  • FLIP!
  • Buffalo’66
  • Monkey lagoon
  • Lucky
  • Searchlight
  • White lovers
  • Pixie
  • Small pieces
  • FLOWER
VIDEO


PROFILE
kazuna hirose with ECHOカズナ・ヒロセ・ウィズ・エコー
kazuna hirose with ECHO

Kazuna hirose with ECHO は全曲のソングライティングを担当する広瀬和奏(vo, gt) が率いる5人編成バンド(結成は11年)。13年にリリースしたe.p「. 19′s trip」は一本のデモテープをきっかけに、グラスゴーの重鎮パステルズのスティーヴン・パステルと意気投合した事から、彼らの支援を受けレコーディングを敢行したもの。日本よりも先にスコットランド、UKデビューを飾ったという曰く付きの作品です。まだ大学生(全員中央大学生)のメンバーが手にしたニューウェーヴ・サウンドは、ちょとソウルフルなネオアコースティック・フレーヴァー。ネオアコの聖地、グラスゴーを経由していよいよファースト・アルバムの発売となります。
広瀬和奏は熱烈なサッカーファンで、5 歳からマンチェスターシティの熱狂的なサポーター。マンチェスター市に位置するチームの本拠地「ETIHAD STADIUM」でkazuna hirose with ECHO の楽曲がかかるなど英国人にも馴染み深く響く旋律が特徴です。
(L→R) Yuki Kawasaki(Dr.), Kazuna Hirose(Vo.Gt.), Takuya Endoh(Gt.), Ami Seino(Key.), Satoru Isobe(Ba.)

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Grand M
  • 2015.01.14 On Sale
  • PECF-1118 / felicity cap-221
    [CD] ¥2530

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