INTERVIEW

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Phew『ニューワールド』発売記念インタビュー

  • 2016.01.28

Phew『ニューワールド』発売記念インタビュー

文 村尾泰郎
写真 米田知子

前作『ファイヴ・フィンガー・ディスカウント』から5年振り。そして、オリジナル・アルバムとしては20年振りの新作となる『ニューワールド』は、長嶌寛幸、向島ゆり子、ジョン・ディードリッヒ(ディアフーフ)をゲストに迎えて、電子音やリズムボックスで構築された異形のポップス。そこにはクラウト・ロックの鬼才、コニー・プランクの音響センスもしっかりと受け継がれ、Phewの歌声を孤高の預言者のように浮かび上がらせる。時代の閉塞感を感じながら、Phewが目指した〈新しい世界〉とはどんな場所だったのか。

― 最近のライヴではアナログシンセを使った即興演奏をされていますが、『ニューワールド』も電子音が中心になっていますね。やはりライヴと関係が深いアルバムなのでしょうか。
最初に(現在のスタイルの)ライヴをやったのが2013年の6月で、はっきり憶えてるんですよ。デビューみたいに思ってたから。だから、このアルバムは、第2のデビュー・アルバムだと思っています。

― 気分を新たにするような、何か大きな変化が自分のなかであったんですか?
ずっとこういう音楽をやってみたかったんです、電子音楽を。ただ80年代初めとか70年代後半って、すごく高価なものだったんですよ、シンセサイザーって。だから、個人で買って(演奏を)やるってことは考えられなかった、でも震災があって、円高になった時に、自分が好きだったリズムボックスとシンセが手の届く価格で出始めたんです。まずリズムボックスを手に入れて、その次に、新しい機材なんですけれど、ドローン・コマンダーという持続音が出るシンプルな作りのシンセサイザーを買ったんです。リズムボックスとこれがあれば音楽を作れると思って、2013年6月にスーパーデラックスでライヴをやったんです。

― 機材が手軽に手に入るようになったことで、長年やりたかった音楽に挑戦できるようになったと。
あと、当時は引きこもりたい気分で、ひとりでできる音楽の形を模索していました。誰かと一緒にやるより世界は小さくなってしまうかもしれないけど、自分が思ったことを何の縛りもなくできるし。

― なるほど。シンセだと手軽で音色も豊かだし、ひとりで演奏するにはうってつけですね。
そうですね。私、自分ではまともに何の楽器も演奏できないんですけど、アナログシンセだったらピッチも自分で決められるし、身体の延長で演奏できるところが、自分に合っていると思います。といっても、まだまだ手探り状態で、偶然、出た音を〈あ、面白い〉と思って使ったりしています。

― クラウトロックとか初期ニューウェイヴのアーティストも、そういう発見を大事にしていました。
あの時代の人達はそうですよね。そういう感覚は大切だと思います。

― やはり、シンセで重要なのは音色でしょうか?
音色については、こだわりました。演奏の内容じゃなくて音色。生の音は、すごく幅があるのですが、電子音に関してはダメなものはダメ。このアルバムには自分の好きな音色しか入ってません。

― 好きな電子音が明確にある。
それは個人的な体験、記憶のなかにある音なんだと思います。昔見たTVや映画で鳴っていた電子音とか。それはテープだったり、モーグのモジュラーシンセの音だったりするんですけど。あと、『ヨーロッパ特急』までのクラフトワークが大好きでした。曲も好きでしたが、メロトロンやミニモーグの音色に負うところも大きいです。

― アナログシンセをプレイすることで曲作りのアプローチは変化しました?
歌が基本にあるのはこれまでと変わりませんね。歌の延長で電子音が鳴っています。(電子音は)すごく身体的なものなんです。自分の身体の延長で、自分と一緒に音が踊ると言ったら変ですけど、ダンスするみたいな感じです。

― とてもフィジカルな関係なんですね。ヴォーカルで気をつけたことは何かありますか?
ヴォーカルが一番簡単かな。自分がイメージしたことがそのまま表現できるのはヴォーカルだけ。ほかは〈あれ?〉みたいな、事故的な要素がすごくあるんですけど。

― いつも即興で歌われているそうですが、歌う前にどんな風に歌うとか、ある程度イメージするんですか?
それはあんまりないですね。〈できるだろう〉っていう妙な確信があるだけで(笑)。でも、自分の衝動に任せてとか、そういうのでもなくて。若い時は直感に導かれるままでしたけど、今は経験の蓄積があるので歌いながら全体を構成していく感じですね。

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― 今回、曲作りに関してはどんな風に進めていったのでしょうか。
大部分の曲は、私がベーシックを録って、シンセやリズムボックス、声を重ねていきました。そのラフなものを整理整頓して聴きやすくしてくれたのが長嶌(寛幸)さんです。長嶌さんとはビッグ・ピクチャーを一緒にやっていたし、音に対する信頼感がすごくあるのでサウンド面は全面的に任せました。

― 今回のアルバムは音響もユニークですね。Phewさんのファースト・アルバム『Phew』はコニー・プランクのスタジオでレコーディングされましたが、あの立体的なサウンドが見事に再現されている。
コニー・プランクやホルガー・シューカイとレコーディングしたことは自分にとって大きな体験でした。〈音を見る〉ことを学びました。

― 〈音を見る〉というと?
例えばステレオがあるじゃないですか。で、普通真ん中から歌が出てきますよね。コニー・プランクの音響はステレオなのにもうふたつスピーカーがあって、そのなかで音が回転したり、止まったり、あるいは上から降ってきたりします。そういう感覚を長嶌さんがわかってくれるっていうのは大きいですね。

― ほんと不思議なサウンドですよね。収録曲についてですが、前作は全曲カヴァーでしたが今回は「浜辺の歌」「チャイニーズ・ロックス」のカヴァーが収録されています。この2曲を選んだ理由は?
〈チャイニーズ・ロックス〉で歌われてる救いのなさと離人感。それが去年から今年(2014年から2015年)にかけての自分の個人的な気分と非常にマッチしたのでカヴァーしました。〈チャイニーズ・ロックス〉の2番で〈チャイニーズ・ロックス(ドラッグ)を買って帰ってきたら、シャワーカーテンの後ろでガールフレンドが倒れてた〉みたいな歌詞が出てくるんですけど、〈そのガールフレンドってどんな人だったのかな?〉って考えはじめて・・・〈どこにいるの〉と〈また会いましょう〉はそのガールフレンドが歌っているっていう設定になっています。

― 「チャイニーズ・ロックス」って電子音をバックに歌うとより絶望感が増しますね。
密室っぽいですしね。ハートフレイカーズの〈チャイニーズ・ロックス〉と〈ボーン・トゥ・ルーズ〉のシングルはリリースされた当時すごくよく聴いてたんですよ。当時の自分の気分にすごくぴったりして。

― そういえば「終曲2015」という曲がありますが、デビュー曲「終曲」とどういう繋がりがあるのでしょうか。
〈終曲〉をシングルが出したのは1980年だったんですけど、当時、すごく閉塞感を感じていました。世の中は浮かれてましたけど。今の時代の重苦しさ・風通しの悪さは、1980年に個人で感じていたものと比べられるものではないとは思うのですが、今年はよく当時のことを思い返しました。90年代ゼロ年代よりも、生々しくより近い過去に感じられました。80年代に感じていた息苦しさと現在の重苦しさ、歌にすれば、その差異が見えてくるかもと思って、曲を作りました。

― 確かにそうですよね。「浜辺の歌」は、そんな息苦しい世界に対して別れを告げているようです。
ああ、そう聴こえるかもしれないなと思いながら、録音しました。ちょっと超越的ですからね、歌詞の内容が。今の世界に別れを告げるというよりは、あの曲で「明るい哀しみ」を表現したかった。

― Phewさんにとって歌詞は重要なものですか?
アルバムの場合は歌詞から先に作りますね。いつも難しいなって思ってることなんですけど、(歌詞は)目に見える足場みたいなものなんですよ。足場なしでやるのもすごく好きなんですけど、ただ今回はポップスのつもりで出したから。広く人に聴いてもらえるもの、聴きやすいものっていう視点があったんで。

― 歌詞に共通するテーマやイメージはありました?
最初は、〈逃避〉だったんですよね。だけど作った後で、自分の想像力の世界は現実にすごく影響されてるんだなってわかりました。これまで音楽っていうのは逃避できる場所だったんですけども、今回アルバムを作っていて〈ああ、もう逃げられないんだな、現実から〉って。

― アルバムを聴いて感じたのは、今の自分を全部捨て去って、新しい場所、〈ニューワールド〉に辿り着きたいという願いでした。
それが辿り着けないっていうことですよね。21世紀を生き抜くぞ、っていう決意はありますけど。まあ、今回のコンセプトといえばそれかな。

― Phewさんにとって〈ニューワールド〉ってどんな場所なんですか?
ディストピア的なものでもないし、ユートピア的なものでもないし。二元論的な世界ではなく、かといって、より高次の存在もない、なんにもない、バラバラなところですかね(笑)3次元以上想像できないので。

― 閉塞感や絶望を越えた虚無な世界(笑)。
アルバムを作り始めた時は閉塞感を感じてたんですけど、最近はそういう気分にも飽きてきた。でも、すべてを諦めたわけじゃないんです。怒りもありますから。今はただ、しっかり立っていようと。これからもっとすごいことがどんどん起こるかもしれない。だけど、それに吹き飛ばされないように、しっかり立っていようっていうことかな。そのためには、自分にとって音楽はとても大切なものなんです。

― 「また会いましょう」の歌詞にもありますね。「私は一人で立っている いやだと言う」。
あははは。言ってましたっけ。

― このフレーズにPhewさんのアティテュードを感じて痺れました。2月には新作のツアーが始まりますが、どんな内容になりそうですか?
大阪、名古屋、静岡と行くんですけども、それは一人でやります。これまでやってきた電子音響の、即興のセットも交えてアルバムの曲を一人でやる、みたいなかたちになります。3月はドイツ文化センターで、向島ゆり子さんとかPAに内田直樹さんに来てもらってやるんですけど、それはこれまで私と向島さんとでやってきたアコースティックな歌のセットと今回のアルバムの曲を、そのまま再現はできないと思いますけど、またちょっと違ったかたちでやるつもりです。

― 電子音楽の即興ライヴの時って、出たとこまかせで演奏しているんですか?
いえ、大きな流れは考えてて。あと、使う機材は前もって選びます。それでだいたいの流れが決まるし、練習する時もありますね。

― ライヴ会場で電子音楽のCD-Rを販売されているじゃないですか。その内容も素晴らしいですが、『ニューワールド』をそうした即興演奏にしなかったのは、さっき話にもあったように〈ポップス〉ということを意識されたからなんですか?
そうですね。スーパーデラックスでライヴをやることが多かったんですけど、(会場の近くにある)六本木ヒルズを見上げながら、〈この終わりかかった世界に向けてCDを出すぞ!〉って決意した(笑)。やっぱり相手が六本木ヒルズだから、ちゃんとしたものを出さないと。

― ヒルズ vs  Phew!(笑)。すごい闘いですね。2月のライヴでは電子音楽のCD-Rの新しい作品も聴くことができるんでしょうか?
いま、録音しています。これまでのCD-Rよも即興に近いもので、歌なしの純粋電子音楽です。ツアーに間に合えば持って行きたいと思ってます。間に合うかどうかわからないけど。

― ぜひ、間に合わせてください!
頑張ります(笑)

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  • 2015.12.02 On Sale
  • PECF-1130 / felicity cap-244
    [CD] ¥2970

<TRACK LIST>

  • A New World/ニューワールド
  • Where Are You?/どこにいるの
  • Finale 2015/終曲2015
  • Spark/スパーク
  • An Acoustic New World/ニューワールド・アコースティック
  • Chinese Rocks/チャイニーズ・ロックス
  • My Waltz/わたしのワルツ
  • See You Again/また会いましょう
  • 浜辺の歌
VIDEO


PROFILE
Phewフュー
Phew『ニューワールド』発売記念インタビュー

1979年にパンクバンド Aunt Sallyで活動をスタート。バンド解散後はソロとして、国内外の数々のミュージシャンとコラボレーションを行う。現在は、2013年からはじめた電子音楽のソロユニットとパンクバンドMOSTを中心に活動している。2015年12月にソロ・アルバムを「ニューワールド」をリリースする。

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  • Finale 2015/終曲2015
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  • My Waltz/わたしのワルツ
  • See You Again/また会いましょう
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