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前野健太『オレらは肉の歩く朝』発売記念 前野健太×ジム・オルーク スペシャル ロングインタビュー

  • 2013.01.31


前野健太『オレらは肉の歩く朝』発売記念 前野健太×ジム・オルーク スペシャル ロングインタビュー

前作『トーキョードリフター』で震災直後のトーキョーを彷徨った前野健太が辿り着いた新境地にして、4枚目のフル・アルバム『オレらは肉の歩く朝』が遂に完成した。オリジナル・アルバムとしては初めて外部からプロデューサーを招いて制作をした本作で、前野がプロデューサーとして選んだのは鬼才ジム・オルークだ。これまでのアルバムとは全く違ったアプローチで挑んだ本作には、シンガー・ソングライターの石橋英子をはじめ前野が信頼するミュージシャンが多数参加。アルバムを通じて前野が目指したこと、発見したものとは何だったのか。前野健太×ジム・オルークの対談を中心に、偶然そこに居合わせた石橋英子の発言もちょこっと交えたデラックス・エディションで『オレらは肉の歩く朝』制作の舞台裏を探った。

————まず、前野さんとジムさんの出会いから教えてください。
前野「『トーキョードリフター』で石橋(英子)さんにゲストで参加してもらったんですけど、そのことがきっかけで、石橋さんとバンドをやっているジムさんの作品をちゃんと聴き直し始めたんです。で、『トーキョードリフター』のレコ発ライヴを歌舞伎町の風林館というところでやった時、ジムさんが見に来ていらして。打ち上げで初めて挨拶させて頂いたんです」
ジム「その時、鼻薬渡しました」
石橋「賄賂のこと、賄賂の(笑)」
前野「(笑)まあ、そんな時にレーベル側からプロデューサーにジムさんでどうか、と打診されて。なんていうか、いろんな偶然が重なったんですよね。だから、この流れに身を任せてみようと思ったんです」
————『トーキョードリフター』で初めて外部からプロデューサーに吉田仁さんを招きましたが、そのこともジムさんの起用と関係ありますか?
前野「あの作品がひとつの出発点というか。松江監督に歌詞を書いてもらったこともそうなんですけど、僕らしさみたいなものをどんどん無くしていきたかったんですよね。新しい自分を発見したかったというか」
————ジムさんは前野さん側からプロデュースの依頼があった時、どんな風に思われました?
ジム「前野さんのことを初めて知ったのは『ライブテープ』でした。字幕なしで観たので歌詞がわからなくて、どんな音楽かわからなかった。シンガー・ソングライターは歌詞が大事。みんな同じような曲を書くけど歌詞が違う。日本語をわかるようになってから、前野さんの曲を聴き直したら、ユーモアのセンスが近いし感情もある。一緒にやったら良い作品が作れると思いました」
————レコーディングはどんな風に進めていったんですか?
前野「まず、レコーディングの一ヶ月前に、ジムさんに弾き語り状態のデモを聴いてもらって。それからレコーディング当日まで2回くらい会ったんですけど、その時はただ食べて飲んでだけ」
ジム「私、よく言ってた。〈イエー! 大丈夫、心配ない〉」
前野「それで合宿所というか、スタジオに行ってから、ジムさんがデモテープをもう一度聴いて、〈う〜ん、ちょっとアイデアを練る〉って。当日までどうするか何も決まってなかったんです」
ジム「ノー。考えはあった。でも、先に教えて、前野さんがその考えに馴れてしまうと、スタジオで別のやり方に変えるのが難しくなる。プロデュースする時、人によって嘘をつくこともあるし、正直に言う時もある。人間として音楽家のことがわからないとプロデュースできないです」
————プロデュースする相手によって、アプローチが違うわけですね。そういうやり方は前野さんにとっては初めてだったと思うのですが、実際いかがでした?
前野「その場で曲のアレンジとかをどんどん決めていくんですけど、最初の日は緊張しました。帰ろうと思いましたもん(笑)。でも二日目からはスリリングで面白かったです。基本的に僕、ジムさん、石橋さん、須藤(俊明)さんの4人でやることが多くて、僕らはソープランダーズって名乗っていたんですけど(笑)、みんないろんな楽器ができるので、曲ごとにパートを変えてやってみるんですよ。その度に曲が〈もこっ〉となったり〈ふわっ〉となったりする。それにジムさんも石橋さんもアイデア豊富で、それを試しながら〈ほえ〜〉って驚いてました」
————ソープランダーズを中心に、石橋さんのバンド、〈もう死んだ人たち〉と〈DAVID BOWIEたち〉のメンバーが参加していますね。
前野「〈DAVID BOWIEたち〉は『ファック・ミー』の時に一緒にやってるんで今回はいいかな、と思ったんですけど、〈国家コーラン節〉とか〈東京2011〉はライヴで一緒にガッツリやってきたんで、やっぱり呼ぶことにしたんです。結果、呼んで良かったです。みんなレコーディングに打たれて、うなだれて帰っていきましたから(笑)」
————今回は〈もう死んだひとたち〉チームというか、石橋さんのフェンダー・ローズとか波多野(敦子)さんのヴァイオリンの音色が、これまでの前野さんの作品にはないテイストを醸し出しているような気がしました。
前野「今回、ジムさんが総監督だとしたら石橋さんはリーダーって感じで(笑)。それくらい、石橋さんがすごく引っ張っていってくれたというか、石橋さんはアイデア豊富だし、ピアノから出来上がっていった曲もある。石橋さんの音とか演奏が曲の雰囲気を作ってるんですよね」
————そういえば以前、インタビューで「会うまで石橋さんが怖かった」と言ってましたが。
前野「あ、よくご存知ですね(笑)」
石橋「なんでよー!」
前野「いや、なんか作品とかすごいし、会うまでは緊張しちゃって……」
————例えば「オレらは肉の歩く朝」では、石橋さんのリフレインするピアノのフレーズが印象に残りますね。
前野「ああ、あそこねえ……夏の白い雲とあのピアノがすごくリンクするんですよー。何でなんですかね」
石橋「前野さんの曲を聞いて感じるままに弾いたんですけど、全体を通じて前野さんの曲は常にドリフトしている感じがあるんですよね、漂っているというか。自分もそういうふうに感じる音楽とか映画が大好きなので、それでリンクしたのかも」
————ピアノのフレーズは石橋さんのアイデア?
石橋「そうです」
前野「そういうのも全部その場で決まるんです。信じられないですよ」
————「街の灯り」のフェンダー・ローズの音色も独特ですね。
石橋「あの音色はジムさんが作りました」
ジム「あの曲は作り方が少し面白かった。(レコーディングに参加した)皆さんの音にエフェクトをかけて、そのエフェクトの音だけを聴いた。ホンモノの楽器の音は聞こえない。エフェクトの音だけ。私、少し宇宙の感じの演奏が欲しかった」
————前野さんの〈歌う〉というより、モノローグ風のヴォーカルも異彩を放っていますね。
前野「この曲もどんどん最初と変っていって。テンポも遅くなっていったので、もう喋るくらいのほうがいいんじゃないかと思ったんです。個人的にはすごく好きな曲ですね。演奏につられて新しい歌い方を発見できたし、PV作りたいくらい」
————アルバム全体に関してですが、歌録りはどんな感じだったんですか?
前野「これがまたすごい面白かった。声がヨレてる箇所があるのが気になって、ジムさんに〈録り直したほうがいいんじゃないですか?〉って提案したんですけど、〈ドラマがあるからこのままでいい〉ってジムさんが。それでアルバムを一枚通して聴いてみると、曲それぞれのヴォーカルの状態が、ちゃんとひとつひとつのシーンになっている。アルバム一枚で一本の映画みたいになっていることがわかったんです。〈東京の空〉とか、ライヴでの〈ぐわっ〉とした感じはなくて歌も段々ヨレていくんですけど、それがアルバムの中のひとつのシーンになっていて、アルバムに表情が生まれている。アルバムを全部通して聴いてみて、初めて〈録り直さなさないほうがいい〉と言われたことの意味がわかりました」
————確かにアルバムに大きな流れ、物語を感じますね。ヨレた歌声も役者の良い表情を監督がすかさず押さえているような。
前野「そうそう、そうなんです。僕はこれまでそういう作り方はしてこなかった。いつもそれぞれの曲が最高の状態になるこを目指してアルバムを作ってきたんですけど、今回のレコーディングを通じて、もっとおおらかな気持ちでアルバムを聴く心の豊かさみたいなものに気付いたんです。それは〈“歌う”ってどういうことなんだ?〉というところまで繋がってくることで、すごく大きな発見でしたね。ジムさんに訊きたかったんですけど、アルバムを一本の映画のように作るのは最初から意識していたことなんですか?」
ジム「私にとってそれがレコードです。今の世界、そういうレコードがあまりない。どれもオムニバスみたい。レコードはドラマが大事。私はそれを200%信じてます」
前野「だからこのアルバムはジムさんが監督した一本の映画で、僕は役者みたいな関係なんですよ」
————本作が一本の映画だとしたら、歌詞は重要なシナリオですよね。恐らくジムさんは前野さんの歌詞をちゃんと理解したうえでアレンジやミキシングを〈演出〉したと思うのですが、ジムさんは前野さんの歌詞のどんなところに惹かれますか?
ジム「いろいろあるけど、あんまり幸せな感じがないところ(笑)。それ一番大事。それがリアリティーだと思います。幸せな歌を聴いても、どんな人生か何もわからない。あと、黒いユーモアもあって、それはビル・キャラハン(スモッグ)みたいと思いました」
前野「ありがとうございます。ジムさんがプロデュースしたスモッグの『ノック・ノック』は大好きなアルバムです」
————ちなみに本作の収録曲のなかで、ジムさんが好きな歌詞は?
ジム「多分、一番の好きは〈興味があるの〉でしょう」
石橋「絶対、言うと思った。〈口の中に出してもいいかな〉でしょ(笑)」
ジム「それだけじゃない。最後の歌詞、好き。〈興味があるの 今日海が見たいの〉」
前野「ただのダジャレですから(照)。でも、あの歌は真剣に歌ってるんで、端から見れば〈この人、何言ってんだろう〉って感じですよね」
ジム「でもそれ、少し私のセンスと同じ。今まで日本では私の歌詞わからないから、そういう私のセンス伝わらなかったけど」
前野「〈ジョギングしたり、タバコやめたり〉の最後もダジャレにしようかと思ってたんですよ。〈ミルクポットも眠るよ 牛の夢を見るモー〉って(笑)。でも、さすがに歌っていて笑っちゃいそうなんで止めました」
————〈見るモー〉は可愛いすぎ(笑)。では、アルバム・タイトルについて教えてください。これまでのアルバム・タイトルの雰囲気とは違った、生々しくて抽象的なイメージのタイトルですね。
前野「最近、キャッチーな感じの曲名やアルバム・タイトルが増えてきたような感じがしていて、そのことにすごい違和感があったんです。あんなこと(震災や原発事故)があったのに、まだ続いているのに、キャッチーな言葉で何かを提示するなんてできないと僕は思うんです。そんな状況じゃないだろうって。キャッチーな言葉では表せない、簡単に言い表せない感情、そのもどかしさをタイトルにしたほうが良いような気がして。それで〈何だろう、今の時代は?〉って考えながら、ある朝、通勤で駅に向かう人達を見ていて、この言葉が思い浮かんだんです。ああ、〈肉が歩いてる〉って思ったとたん、何かが弾けたというか。自分の中で、それは新しい感覚だったんです」
————世の中がわけがわからなくなってくると、〈絆〉とかシンプルで否定できない言葉がもてはやされる風潮はありますね。
前野「世の中というより、僕と同じように歌を作っている人達に対してのもどかしさですね。こういう時代だからこそ、新しい言葉の使い方を考えなきゃいけないんじゃないかって。そういう意思表示がこのアルバム・タイトルにあって。タイトルというより声明文みたいなものかもしれないですね」
————なるほど。言葉を扱う者としての強い想いが込められているタイトルなんですね。では最後にアルバムを聴く人にメッセージをお願いします。
前野「さっきも言いましたけど、一本の映画だと思って聴いてもらえればと。全体の流れとか強弱とか……。監督からもひと言」
ジム「メッセージ? 私、前野さんのお客さんのこと知らないから何もない」
前野「(爆笑)それ、最高ですね。いや、オレも何もないです。もう好きに聴いてください」











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