INTERVIEW

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高木正勝『おむすひ』スペシャル ロングインタビュー

  • 2013.02.19

音楽家、そして、映像作家としても注目を集める高木正勝。その研ぎ澄まされた感性で紡ぎ出される音は、一枚の木の葉のようにささやかでいながら、そこには豊かな宇宙が広がっている。音楽のルーツを探る壮大な作品『タイ・レイ・タイ・リオ』から3年ぶりとなる新作『おむすひ』は、前作以降に配信限定で発表された作品を中心にしたコンピレーション。NHKのドキュメンタリーTV番組「仁淀川」のサントラ『Niyodo』(2011)、「Intel Museum of Me」のCM曲『Nijiko』(2011)、映画『たまたま』のサントラ『Tama Tama』(2011)、TOYOTAなどのCM曲を集めた『Yu So Ra Me』(2012)といった4つの作品に、デビュー以前のデモ・トラックや未発表曲を加えた本作は、10年以上の音楽活動を経て、いま新たなステップを踏み出した高木の旅のドキュメントといえるかもしれない。
————今回のアルバムは、前作以降、配信限定で発表された音源が中心になっています。なぜ、CDのリリースをやめていたんですか?
「家のCDを片付けた直後だったからかもしれないですけど、CDはもういいや、と思っていた時期があったんです。CDはほとんど買わなくなりましたし、買ってもすぐのコンピュータに取り込んでしまう。それで配信をしてみたら、曲が仕上がったら直ぐに届けられるし、なんとも気が楽で。でも、しばらく配信だけで出していたら、どうやら配信では聴かない人がいることがわかってきたんですね。自分の親の世代なんかもそうなんですけど。そういう時にCDを出しませんか、というお話を頂いたので、まとめて出すことにしたんです」
————2枚組で43曲、かなりのヴォリュームですね。
「そうですよね(笑)。せっかく、まとめて出すんだから曲順を組み替えてみようかとも思ったんですけど、そうするとベスト盤みたいになってしまって、なんかおかしい。やっぱり、4つの作品はそれぞれかたまりとして、オリジナルの曲順どおりに収録することにしました。それで、ひとつのかたまりから別のかたまりに移る時に唐突な感じがするので、そこに曲を挟み込んでいったら、あれよあれよと言う間に43曲になっていたんです」
————かたまりを繋ぐ役割を果たしているのが未発表曲やレアトラックですが、なかでも「Light Song」シリーズが印象に残りました。デビュー以前の音源も入っているそうですね。
「旅先で現地の人にメロディーだけ教えて、歌ってもらうというのを10年前にやっていて。当時はいろんなところを旅行していたんです。そういうものが100個とか200個とかたまったら面白いな、と思っていたんですけど、だんだんやらなくなってしまって。楽しいんですけど、撮影のほうで忙しかったり、ああいう風に他人に声をかけるのに勇気がいったりして、いろいろ大変なんですね。今回、久し振りに音源を聴いたら忘れていた感覚が蘇って、なんだかぐっと来た。それで赴くままに「Light Song」をアルバムに挟み込んでいくと『タイ・レイ・タイ・リオ』以降に作った作品の共通項みたいなものが見えてきたんです」
————その共通項というのは?
「震災の時、津波でいろんなものが流されて行く映像を観て、自分が本当に残したいものって何だろう、とよぎったことがあったんです。それはきっと、家で何気なく録ったものとか、旅先で録ったものとか、外に出していない家族写真のアルバムみたいなものなんじゃないかと思ったんです。そういうものが一番愛おしいんじゃないかって。例えば機材や家具が無くなっても買い直せるけど、自分が子供の頃に描いた絵とか家族の写真は無くなったら二度と取り戻せないじゃないですか? それに気付いた時、作曲の仕方や音の作り方が変ったんです。今回のアルバムに収録された曲は、そういう変化があって以降の作品ばかりなんです」
————今はどんな気持ちで音楽に向き合っていますか?
「『タイ・レイ~』までは、もっと洗練させたものを、と考えていたこともあったんですけど、今ではメロディーとか、歌とか、アイデアとか、そういうもの聴かせたいという気持ちはなくなって、そうすることで〈音楽〉になってしまうのはもういいや、って感じなんです。今は自分のなかに広がっている〈景色〉を、そのまま再生できるようなものにしたいと思っていて。写真みたいに景色や思い出を再生したり、持ち運べたりするのが音の魔法だと思うんですよ。だから、聞こえているのかいないのか、わからないようなかすかな雑音でも、それを失くすことで景色が崩れてしまうこともあるので、ノイズとか間違をこれまで以上に消さなくなりました。できるだけすべての音を活かしたいというか」
————〈音楽〉として形を整えることに疑問を感じるようになった?
「そうですね。友達が作った音楽を聴いても、最初は大体良いんですよ。その人の部屋とか暮らしが見えてきて。でも、ミキシングとかしているうちに〈音楽〉になっていってしまうのがちょっと……勿体ない。料理なんかもそうじゃないですか。普段、家で食べているものが好きなのに、友達が遊びに来るとなると張り切って作ってしまう(笑)。普段、家で食べている料理をそのまま出せばいいのに」
————でも、そういったアプローチで、サントラやCMみたいに依頼された音楽を作るのは難しかったりはしませんか?
「いや、それがむしろやりやすいんです。これまでの自分の作品も、どこか頼まれて作っているような感覚はあって。たぶん一作目くらいじゃないですか、〈こうしたい〉っていう自分の気持ちや憧れで作ることができるのは。2作目以降は自分がどう見られるかとか、シーンのこととかをやっぱりどこか意識して作ってしまう。誰かが曲を頼んで下さったときは尚更、そういう感覚が強くなるものなんです。〈高木正勝〉に求められていることをやらねば、と意気込んでしまってました。いまは、そういう気持ちは殆どないです。むしろ、明確に頼んでくれる人がいるほうがやりやすいです。監督が〈こういうものを撮りたい〉と思って撮った映像でも、そこには拾いきれていないものがあって……失礼なこと言ってますけど(笑)、そういう監督が気付いていないところを拾って補充するのが自分のやるべきことだと思っています。なんというか、いち職人としてというより、いち生活者として気付くことを音にしていけてる感覚があります」
————例えば、『Niyodo』は川をめぐるドキュメンタリー番組のサントラですが、そのなかの「Kaze Kogi」を聴いていると、人々の声や合唱、波の音、いろんな音の混ざり具合が独特で、川と町の間を風のように漂っているような浮遊感がありますね。映像的でありながら、音でしか表現できないイマジネーションの広がりを感じさせます。
「ちょうど今、そこをマスタリングしているですけど、〈音楽〉と捉えてしまうと、声が入っているとそれを聴かせようとしてしまうんですよね。そうなると、ただの合唱曲みたいになって漂っている感じが消えてしまう。そのバランスが難しくて。音の漂いから次第に景色になっていくような感じをちゃんと残せたらいいな、と思っています」
————それが高木さんの心象風景であり、音の風景(サウンドスケープ)でもあるわけですね。では、最後にアルバム・タイトルについて教えてください。おにぎりのことではないですよね?
「〈おむす“ひ”〉です(笑)。最近、中西進という人が書いた、日本語本来の意味を紹介した本に出会って、それがすごく面白かったんですよ。そこで知ったんですけど、〈む〉という言葉を発声するには一度口を閉じて開かなければならない。だから、お母さんの中から出てくることを〈むす〉と言うんです。そこから、男の子は〈むすこ〉で、女の子なら〈むすめ〉と呼ばれるようになったらしくて。〈ひ〉というのは〈霊〉〈魂〉という字を当てられるんですけど、〈むすひ〉というと、何かを生み出す力みたいなもの、神社に行くと〈タカミムスビ〉など神名で見かけたりすると思います。その〈むすひ〉という言葉に丁寧語の〈お〉を付けたんです。〈むす〉には〈結ぶ〉という意味もあるので〈何かを結んでいく力〉という感じにもなるのかな。ジャケットの絵にはそういう想いが込められてます。なんにしても〈おむすひ〉って言われるとなんか変でしょ(笑)。旅路でばったり出会って、ついついほっこりしてしまうお地蔵さんみたいな気配が出ていて、とてもいい響きだなって」

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  • 2013.02.20 On Sale
  • PECF-1063/4 / felicity cap-165
    [CD] ¥3666
    ※2枚組&絵本付き

<TRACK LIST>

【Disc1】

  • Light Song <Xela,2002>
  • Niyodo - piano
  • Kaze Kogi
  • Niyodo
  • Hasirimiz
  • Mikura
  • Odori
  • Garbha
  • Kaze Kogi - piano
  • Niyodo - piano (reprise)
  • Kaze Kogi - koti koti teiiyu
  • Odori - variation
  • Light Song <Nara,2002>
  • Nijiko
  • Nijiko - tiny piano
  • Nijiko - Origin
  • Light Song <Momostenango,2002>
  • Mahoroba
  • Ten Ten
  • Light Song <Antigua,2002>

【Disc2】

  • Light Song <Atlanta,2001>
  • Tamame
  • Horo
  • NGIA
  • Colleen
  • ohoti
  • HEHE-MIHI
  • Sione
  • VEDA
  • Tamame (reprise)
  • Light Song <Köln,2001>
  • Sora
  • Yume
  • Furu-Fusa-Fusa
  • Yubi Piano
  • Light Song <Miyakojima,2002>
  • 一起走
  • Light Song <Istanbul,2001>
  • Kigi
  • Ticora
  • Musuhi
  • Light Song <La Habana,2001>
  • Light Song <first demo,1999>


PROFILE
高木正勝Takagi Masakatsu
高木正勝『おむすひ』スペシャル ロングインタビュー

1979年生まれ、京都出身。2013年より兵庫県在住。山深い谷間にて。

長く親しんでいるピアノを用いた音楽、世界を旅しながら撮影した’動く絵画’のような映像、両方を手掛ける作家。
美術館での展覧会や世界各地でのコンサートなど、分野に限定されない多様な活動を展開している。
「おおかみこどもの雨と雪」やスタジオジブリを描いた「夢と狂気の王国」の映画音楽をはじめ、コラボレーションも多数。

http://www.takagimasakatsu.com/

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  • PECF-1063/4 / felicity cap-165
    [CD] ¥3666
    ※2枚組&絵本付き

<TRACK LIST>

【Disc1】

  • Light Song <Xela,2002>
  • Niyodo - piano
  • Kaze Kogi
  • Niyodo
  • Hasirimiz
  • Mikura
  • Odori
  • Garbha
  • Kaze Kogi - piano
  • Niyodo - piano (reprise)
  • Kaze Kogi - koti koti teiiyu
  • Odori - variation
  • Light Song <Nara,2002>
  • Nijiko
  • Nijiko - tiny piano
  • Nijiko - Origin
  • Light Song <Momostenango,2002>
  • Mahoroba
  • Ten Ten
  • Light Song <Antigua,2002>

【Disc2】

  • Light Song <Atlanta,2001>
  • Tamame
  • Horo
  • NGIA
  • Colleen
  • ohoti
  • HEHE-MIHI
  • Sione
  • VEDA
  • Tamame (reprise)
  • Light Song <Köln,2001>
  • Sora
  • Yume
  • Furu-Fusa-Fusa
  • Yubi Piano
  • Light Song <Miyakojima,2002>
  • 一起走
  • Light Song <Istanbul,2001>
  • Kigi
  • Ticora
  • Musuhi
  • Light Song <La Habana,2001>
  • Light Song <first demo,1999>