INTERVIEW

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downy / 第一作品集「無題」、第二作品集「無題」、第三作品集「無題」、第四作品集「無題」 発売記念スペシャルインタビュー

  • 2014.09.12

———— ロビンさんは昔のアルバムは全然聞き返さない。それどころか持ってもいない。そうお聞きしましたが。
そうなんですよ(笑)。downyの音源は僕の手元にはないですね、基本。

———— どうしてですか。
ああすれば良かった、こうすれば良かったって思いがちな性格なんで(笑)。終わった時点で終わり、ってやらないと。downyってずーっとやり続けるバンドなんですよ。曲作りもミックスも。どこまで、ってはっきり決めておかないと。聞いたら聞いたで、このパートの音量が…とか、絶対いつまでもやり続けちゃうんで。ポジティヴでもネガティヴでも、いろいろ考え過ぎちゃうほうなんで。なので(昔の音源は)聞かないですね。

———— 完璧主義なんですね。
どうなんですかね? 実際マスタリングが終わって、製品版になると音が変わってたりするんで、それ聞いちゃうと、もう一回ラインに乗せたいって気になっちゃうんですよ。

———— ちゃんとマスタリングまで納得してやっても、音が変わるわけですか。
当時はCDをプレスする機械の製造番号まで指定してやってましたけどね。




downy / 第一作品集『無題』再発◎『無題(第1作品集)』2001年5月発売
mastering engineer :
Toshihiko Miyoshi (HAL studio)

———— downyとしての最初のレコーディングは、ファースト・シングルの「月宿る善良」(2000年11月発売。今回のリマスター再発で、ファースト・アルバムのボーナス・トラックも収録)なんですか。
その前にテープを出してますけど、CDにするためのレコーディングということでは、そのシングルの3曲(「月宿る善良」「猿の手柄」「安心」。「猿の手柄」はリマスターCDにはアルバム・ヴァージョンで収録)ですね。ほんとはあと一曲「消毒」って曲があったんですけど、作ってみたらすごくポップに聞こえて、省かれちゃって。

———— この「月宿る善良」をレコーディングした時の状況はどんなものだったんですか。
このメンバ−でいくつかライヴをやって、初めて録音したCDを作るための音源だったんで、楽しかったですね。音作りからなにから…確かレコーディングそのものが初めてのメンバーもいたと思いますし、全員持ってる知識を寄せ集めて、エンジニアの方も含めて、ああしようこうしようと話し合って。バスドラ2台並べてみようとか、もっと丸い堅い音を作りたいとか。手探りでやってました。downyはこういうところを狙っていくんだ、というようなことを模索しながら、だんだんいろんなものが見えてきたレコーディングでしたね。できるだけ音数を少なくしてシンプルに、シンバルもなくしてとか、そういう基本的な方向性の確認が、このシングルとファースト・アルバムを通して、出来たんじゃないかなと思います。

———— downyとしてのオリジナリティの確立ができた。
そうですね。各々持ってるアイディアがあって、最初はライヴでも、ここに入ってないような曲もやってたんです。なにが自分たちのやりたい音楽なのか、やりながら話し合いながらセッションしながら練習しながら、だんだんフォーカスされてきて、「これがかっこいい」というコンセンサスがメンバー全員揃っていくんですね、技術も含めて。ループして演奏続けるのって、まず筋肉が必要だったりするんですけど、それがやっと回転しだしたんですよ。結果、展開しないでも緊張感をループで出せるようになってきて。そういう技術的な問題も大きかったと思います。

———— 展開はない方がいいんですか。
当時は仰々しいのが好きじゃなかったんですね。ヒップホップやエレクトロニカみたいな(ループ中心の)音楽をナマでやっているようなヒリヒリした感じでやりたかったんです。とはいえロックじゃなきゃいけないし。当時聞いていた感じで言うとスリントに近いんだけど、それをもうちょっと日本のバンドらしいテイストでやる、というのを考えてました。もちろんバンドの形態である以上、ギターを持ってる以上、完全なオリジナルというのは存在しないと思うんですけど、その中でも、聴いてすぐdownyってわかるような個性を出したかった、と考えていたのは覚えてます。エキサイティングなバンドになりたかったし、ほかの連中がやってないような、みんなの度肝を抜くようなバンドをやりたかったんですね。

———— じゃあ特に意識していたようなバンドもなく。
そうですね。ただ同時期に54/71が出てきたりとか、自然に僕らみたいなバンドが出てくる時期だったのかもしれません

———— なるほど。レコーディングの時のことは覚えてますか。
しんどかったですね。寝ないでレコーディングしてたから。間にツアーが入ったり、途切れ途切れでやった記憶があります。とにかく時間がなかったので、なら寝ないでやればいいじゃん、って。

———— インディーズのファーストだし、言ってみれば誰に待たれているわけでもない。じっくりやろうとは思わなかったですか。
そうはいってもかけられる予算には限りはありますからね。さっきも言ったようにケツを決めないと終わらないし次へも進めないから。とにかく出さないと物語が始まらないって感覚がどこかにあったから。名刺っていうかね。

———— ああ、なるほど。アーティストによって作品(音源)の位置づけって違うと思うんですが、downyにとってはどうなんですか。
アルバムにタイトルがついてないことが示してますけど、その時の自分たちの流れの中で生み出された作品集的な位置づけですよね。良くも悪くもその先のことは考えてないし。

———— その期間に於ける自分たちのベストの作品集。
そういう感覚ですかね。

———— downyの場合、映像込みで語られるべきバンドなんですが、音だけのCDで出すのはどうなんですか。
だからDVDを最終的には出したかったですし、ライヴを見てもらうのが一番手っ取り早いですから、ライヴを見てもらうためにも音源を出さなければいけない時代でしたから。

———— そのへん今とは違うかもしれませんね。
ユーチューブとか、ない時代ですからね。今でこそ映像をネットで配信するとか、方法なんていくらでもあるけど、当時はDVDもない時代。でもビデオは自分たちで作って、レコード店に(販促用に)送ってたりしてました。それもメンバー全員でパッケージを糊付けしたりして。ライヴの前日に徹夜でやってたりしてましたからね。

———— 苦労した時代だったと。
downyは苦労ばっかですよ(笑)。

———— アルバムのほうはその当時の手応えとしてはどうだったんですか。
かっこいいのができたと思うし、やりきったという手応えはありました。ただ、自分たちの頭にあるものを出すために、エンジニアの人と相談しながら、たとえばドラム・セットそのものを取っ替えて録り直したりとか。良くも悪くも遠回りしながら作った作品だと思います。今の知識があれば、もっと効率よくできたと思う。でも知識がないからこそ、この荒々しいエネルギーがあるんじゃないかなとは思いますね。

———— ファーストにそのアーティストのすべてがあるってよく言いますけど、downyもそれがあてはまりそうですね。
そうですね。道筋はすでにここにありますよね。

———— 今回リマスターのために聞き直されたと思うんですが、いかがでした?
歌が小さいなって(笑)。なんでこんなに小さいんだろうって(笑)。

———— 音量のレベルが小さいということですね。なぜそうなったんです?
小さいのがかっこいいと思ってたんでしょうねえ(笑)。歌なんかなくたっていいんだけど、映像化するために歌詞は必要だし…。

———— 映像化するための歌詞?
downyって一曲一曲、1枚絵を描いていくようなイメージなんですよね。完成された絵を1枚作って、それを毎回再現していくような、展示会をしているような感じというか。なんで、いつどこで見ても変わらないっていうか、そういうところまで細かく色塗りしちゃってる。そういうバンドなんですよ。

———— ああ、だからこの時点ではこうするしかなかったと。
そうです。だから後悔があるとすれば、歌が小さいことだけ(笑)。

———— それは歌をやたら大きくするJ-POPのメインストリームへの反発とか?
それはあります。歌はでかくなきゃいけない、という発想自体をなくしたかったから。

———— 歌を大きくするのは、歌詞を聴かせたいという発想なんでしょうけど。
どうなんですかねえ。歌詞は歌詞カードを見ればわかると思うんですけど…そういう文化なんでしょうね。歌のためにオケがあるっていう発想。

———— 今回リマスターだけでリミックスはしてないんですか。
リミックスはしてないです。やる必要を感じなかったし。

———— リマスターはどういうところに気をつけました?
すごくダイナミックには出来てたんで、もうちょっと繊細な感じが出せたらいいなと思って、三好(敏彦)さん(マスタリング・エンジニア)とはやりとりしてました。具体的にいうと、レンジを広げて立体的に聞こえるように。聴き比べると歌も少し大きく聞こえるんじゃないかと思います。あとは、当時もキックとか低域は大きく出してるつもりだったんですが、17年前だし、今の音楽はもっと下が出てるんで、そこももっとクローズアップして。もっとドスンとするようなキックの音を。

———— なるほど。しかしファースト・アルバムとしては、今聴いても十分すぎるほど完成された作品じゃないでしょうか。
ありがとうございます。僕も本当に久々に聴いて、「downyかっこいいよ」と思わずメンバーに電話しちゃいましたよ(笑)。気恥ずかしさもありますけどね。特に声。自分の声があると常に気恥ずかしさを感じますね、昔から。今でもレコーディングすると自分の声を聞くのは恥ずかしいです。

———— なぜ恥ずかしいんです?
わかんないです。「歌、俺じゃなくてもいいじゃん」って思いながら、いつもやってるんで。(自分が思い描くものに)一番近い表現ができるのが自分ってだけだから。だからほかにできそうな人がいたらやってもらってたかもしれないです。女ヴォーカルのほうがいいじゃないかとは思ってましたけど。

———— いや、それはないと思うけど(笑)。
あはははは。でもその時はそんなことを思ってましたね




downy / 第二作品集『無題』再発◎『無題(第2作品集)』2002年5月発売
mastering engineer :
Toshihiko Miyoshi (HAL studio)

———— 正確に1年後に出たセカンド・アルバムです。このあともほぼ1年ごとにアルバムを出してますが、downyのアルバムの密度で1年に1枚アルバムを出し続けるというのはちょっと異常だと思うんですが。
ほんとにしんどかったです。

———— スケジュールは自分で決めてたんですか。
そうですね。せっかく注目されるようになってきてましたし、評価してもらう対象って音源とライヴしかないですから。なので作品をコンスタントに出していくことが理想的ではあったわけです。でもやっぱりすごくしんどかったですね。

———— ファーストはかなり好評だったんですか。
一部の音楽好きな人には、って感じですかね。聞いてくれた人はかっこいいって言ってくれて、広島のタワーレコードで働いてた人が、そのままイベントに呼んでくれたり。音楽好きな人やミュージシャンがびっくりしてくれたり。そういう反応は感じてましたけど、それ以上に浸透させようと思ったら、回数を重ねるしかない。だんだんお客が増えてる手応えはありましたけど、でも大変でしたよ。寝てるヒマねえんじゃね?みたいな(笑)。

———— セカンドの楽曲はすべて新曲だったんですか。
すべてこれ用に作った曲ですね。ライヴでも演奏したことはなかった。

———— ファーストは言ってみればそれまでの集大成的な作品ですが、セカンドはファーストが出たあとに改めて自分たちを見つめ直して作った作品ということですね。
そうですね。より強固なループ、凶暴なる音を目指してた気がします。で、音をもっと抜きたい、もっと音を減らしたいと考えてましたね。

———— なぜそう思ったんです?
それがかっこいいと思ってました(笑)。隙間のあるバンドって当時いなかったんで。ほんと音を埋め尽くして壁みたいに鳴らすバンドばかり印象があって。

———— シューゲイザー系とか。
そうですね。とにかくそれとは違う、一個一個に魂がこもってるような音楽をやりたいなと。スネアの一個、ギターの一発に魂が入ってる。

———— ひとつひとつの音全部に意味があるような。
そうです。そういうのをやりたいなと。

———— リハでも録音でも、ひとつひとつの音を吟味していく。細かい、根気のいる作業ですね。
そうですね。技術もあげなきゃいけないし、ライヴで再現するための練習もひたすら…一日8時間とかやってましたからね。なんでそこまでやったのかな、と今となっては思いますけど。そもそも僕ら、(ライヴでは)暗闇の中でやるようなものでしたからね。映像を流す関係で、逆光で演奏してたからほとんど見えない。なのでアイコンタクトみたいなのがほぼできないんですよ。カウントが始まったらとにかく正確に的確にやるしか、合わせる方法がなかった。うちらは映像も同期を一切使わないので、映像のタイムラグも練習の段階で想定してやっておく。これぐらい遅れるから早く押す、みたいな。そういうのを徹底してやって時代でした。

———— レコードで作り込んだものをどうやってライヴで再現するか。
そうですね。そこからまた続きがあって。その技術を手に入れつつ、だったら次はこんなこともできるんじゃないか、みたいに、どんどんハードルをあげまくってました。

———— 演奏を楽しむ、という感覚ではないですね。
もう、くたくたでした(笑)。でも出来上がった音はかっこよかった! 当時自分がリスナーでこのバンド見つけたらすごく嬉しかっただろうなと思いますけどね。

———— 当時の状況が懐かしく思い出されますか。
うーん、どうでしょうね。メンバーとの関係性もこのころから変わってますからね。今はわりと楽しくやれてるんですけど、この頃はそんな楽しい関係性ではなかったので(笑)。ピリピリしてましたし、ほんとギリギリのところで、精神的にも極限状況でやってたので。僕は一番若くて、ギンギンの状態でやってるので、それはそれで楽しいかったんですよ。でも一緒にやっていた方は…もっとこんな感じ、とか(笑)、しつこかったから、ほんと、辞めたいと思ってたかもしれないなと、今となっては思いますけどね(笑)。

———— でも辞めなかったメンバーに感謝ですね(笑)。
そうですそうです(笑)。やはりあのメンバーじゃないとできなかったと思うし、当時から(青木)裕さん、マッチョ(仲俣和宏)はほんとにいつもアイディアの核でしたし、僕のアイディも膨らませてもくれる。つくづく…いいバンドだなと思いました。2枚目を聞き返して。

———— そういう関係性も含めて、今となってはなかなか作れないようなアルバムかもしれませんね。緊張感があって。
そうですね。緊張感…しかなかったですね、ほんとに。和気藹々とする瞬間とかなくて…もちろん飲みにいったりするんでくだらない話もしてましたけど、こと音楽の話するときはみんなほんとに真剣で。これが出来上がったころに、ドラムが怪我で抜けてしまって。秋山(隆彦)君との出会いが始まるんですよ。彼の加入でドラムにさらにタイトさが増して。それもまたバンドの演奏力を強靱にしていくんですね。

———— で、セカンド・アルバムのボーナストラックには、ライヴDVD『無題』(2003年6月発売)の音源から3曲が入っています。
改めて聞いてみて、いいライヴだなと思ったんですよ。それに秋山君がいてこその今のバンドなんで、秋山君が叩いているテイクをここに入れたかったんです。

———— 凄い演奏ですよね。
頑張ってますね(笑)。うめえバンドだな、と思いました。今の僕らのバンドのうまさとちょっと違ううまさがあるんですね。今は良くも悪くも<老獪>という感じですね。なんというか、それぞれのクセを取り入れた固まりなんですけど、これはほんと、音源のままとにかくやるっていう。音源になったものを完全再現することだけを目的にライヴをしてるんですね。

———— 音源を作るときはライヴのことは考えないんですか。
どうだろう…いや、でもできないことはやらないってジャッジになると思うんですよ。ギターをもう1本増やすとかね。やはり決まり事はあって、とにかくギター2人とドラム4点とベース、エフェクトなしでやれることっていうくくりは絶対あって。その範囲内でギリギリのところまで追い込んでやってる。

———— この時期にしかできない演奏ってことですね。
そうですね。




downy『無題(第3作品集)』◎『無題(第3作品集)』(2003年5月発売)
mastering engineer :
Toshihiko Miyoshi (HAL studio)

———— 3枚目のアルバムもきっちり1年後のリリースです。すごいですね。
すごいですね(笑)。

———— 何がそんなに駆り立ててたんですか。
いやあやっぱり…自分たちを更新していきたい、というエネルギーだと思うんですよね。もっといいアルバムを作りたい、と。いつもそう思ってましたね。

———— 本作はどういうアルバムでしょうか。
ヒップホップ的、ロック的アプローチをけっこうやれたと思います。エレクトロニカをナマでやるみたいな構想はずっとあって、それが秋山君の加入によって出来るようになった。それが3枚目のアルバムなんです。

———— ドラマーが代わって、やれることが広がった。
そうですね。裕さんもマッチョもすごくうまいんですけど、秋山君はとにかく正確で。ある日リハーサルの最中にクリックを消したんですよ。そうしたら、クリックのままの演奏だった。すごいすねえ、と言ったら「俺、几帳面だからさ」って言ったんですよ(笑)。

———— (笑)技術じゃなくて性格の問題だったわけですか。3枚目はどうだったんですか。
3枚目は曲のイメージがあってそこにメンバーのアイディアを出していって再構築していくような作り方でしたね、1,2枚目は僕のアイディアにメンバーが肉付けするというか脹らませていたんですが、ここからメンバーのやりたいことがどんどん出て来て「じゃあこうしよう、ああしよう」とどんどん曲が進化していく感じでした。

———— それはロビンさん自身が変わってきたってことですか。
いや、そうじゃなくて、みんながdownyってバンドはこうだってはっきりしてきたってことだと思います。5枚目の制作時にも感じたんですが、メンバーのほうが、downyってバンドのイメージを強く持ってるんですよ。そういうものが固まってきた時期なんだと思います。出るアイディアがすべて、downyのフレーズになっている。この時までは「もっとこうは?」というような模索もあったんですが、この頃からはピンポイントで、こういうリズム、こういうギター、じゃあ足りないのはこのベースだな、この白玉だな、と。アイディアがうまくはまって。だからレコーディングはファーストの時に比べてスムーズでしたね。なのでミックスに時間をかけるような余裕が出てきたんじゃないかなあ。

———— メンバーの意思が統一されてきたと。それが関係しているのかわかりませんが、このアルバムは4枚の中でも一番静かな印象がありますね。
そうですね。エレクトロニカをナマで体現するみたいなイメージのアルバムだと思います。打ち込みってよく言われるんですけど、打ち込みは一切使ってないんですよ。ナマのドラムのほうが全然かっこいいし、同期なしでライヴもやっちゃうわけですから。

———— 楽曲は、これも(当時の)新曲ばかりですか。
そうですね。「酩酊フリーク」以外は。

———— 「酩酊フリーク」はファーストのリメイクですね。
なんか…ちんどん屋みたいな「酩酊フリーク」にしたくて(笑)。(ファーストのヴァージョンが)出来上がったあとに、ずっと思ってたんです。あと秋山君のドラムでやったらどうなるだろうというのもあった。「酩酊フリーク」は…一切バックビートがなくて、ベースとドラムはユニゾンしてて、僕のギターは空間を曲げるだけのループで、歌と裕さんのギターだけが変化があるという。その中で荒々しさがあって、ブレイクで静かになり、またぴたっと始まったりとか…個人的にdownyの代表曲というか名刺代わりになる曲だと思ってるんです。せっかくメンバーも代わったことだし、それでもう一度録り直してみたいなあ、と。

———— 「酩酊フリーク」はいつごろ出来た曲なんですか。
シングル(「月宿る善良」)を録る前かな?初期からある曲ですね。

———— 最初期のころから、バンドとしての個性はこの曲で確立していたわけですね。
そうですね。セッション的感覚で出来た気がするんです。スネアから始まって…みたいな説明を(当時のドラマー)して。キックから始まるじゃないですか普通。でもキックから始まるのももはやダサいんじゃないか、みたいなことを言ってた記憶がありますね(笑)。今考えるとなぜそんなことを思ったのかよくわからないですけど(笑)。

———— アルバムを今聞き返してみていかがですか。
…かっこいいですね。それしか言ってねえな(笑)…もっと…売れても良かったんじゃないかって思うけど(笑)。それまでに比べると聞きやすくてかっこいいと思うんですけどね。

———— なるほど。
エンジニアを三好さんにお願いしたのも大きかったですね。三好さんはTHA BLUE HERBやDJクラッシュをやっていた人です。そのへんは僕もメンバーも大好きな音楽だったんですけど、ヒップホップとかクラブ・ユースのものばかりやってて、バンドものをやったのは僕らが最初だったんですよ。でも三好さんは一生懸命僕らのイメージに寄せてきてくれて、僕らも三好さんからいっぱい勉強させてもらって。ガツンと低域があって、隙間を生かして…それまでのアルバムは「ロックの録り方」だったんですけど、このアルバムはそういう録り方じゃないものを作りたかった。なので三好さんにお願いしたんですけど、うまくいきましたね。ミックスが自分たちの思い通りにいったという手応えがありました。それまでは、もう少し低音が欲しかったなあとか心残りがあったんですけど、今作や4枚目に関しては、それがないんですよ。

———— ボートラは「山茶花」。ライヴDVD(2003年6月発売)に同梱された1曲入りCDの曲ですね。
そうです。変な出し方ですよねえ、今考えると(笑)。録音時期は3枚目と4枚目の間なんですが、その時期の記録という意味合いも含めてのリリースだと思います。

———— この取材時点ではリマスター作業はまだされていないわけですが、どんなプランで臨みますか。
もうちょっと立体的な音作りにできたら、という話は三好さんとしてます。




第四作品集『無題』再発◎『無題(第4作品集)』(2004年7月発売)
mastering engineer :
Yutaka Aoki

———— 活動休止前の最終作です。作っている時に「これで終わりかな」という予感はあったんですか。
いや…そんなこともないけど、もしかしたらメンバーは思ってたのかもしれないですね。でも言い出したのは俺なんだよなあ…。ただ、やりきった感はありましたね。カラッカラまでアイディアを出し切ったと思います。四枚目は結構セッション的な作り方をしたんですよ。それまではMTRで事前に細かく細かく作り込んでいったんですけど、一回スタジオでバンドっぽくやろうと思ったんですね。「Underground」とかは、8ビートで、コードを鳴らして、ドラムが入ってきて、歌詞も1〜2時間でできちゃったんじゃないかな。リハーサルのセッションで出来た曲をそのままレコーディングするという、そういう作り方をした曲が多いですね。

———— バンドとしてはごく普通のやり方だと思いますが、downyでは初めての試みだった。
意外に初めてでしたね。よりダイナミックなものを求めていたんだと思います。「山茶花」と三枚目のアルバムで、やりたいエレクトロなイメージはやりきれた感じがあったんですよね。なんか吹っ切れたというか。ライヴでの勢いとかも含めて、爆発的なエネルギーが欲しい。緻密であることはdownyには不可欠なんですけど、その上でもっとダイナミックなことをしたいねっていう流れで作ったアルバムですね。

———— じゃあわりと短い時間で作れた?
そんなに苦労した記憶はないですね。みんなはいつも「きつかったよ〜」って言うんですけど(笑)。「弌」「斬」も一発録りなんですよ。一発録りはファーストでは何曲かあるんですけど、セカンド以降では一回もやってない。でも今作ではそういうこともできたんですね。緻密かつうまい、かつごつい、みたいな。

———— これまでで一番ハードなアルバムですよね。
そうですね。

———— キリキリと限界ギリギリでやってる感じがある。確かにここまで行っちゃったら、活動停止せざるをえないかな、という印象は、当時持ちました。
ああ、そうなんですね。

———— 実際に作ってた現場としてはどうだったんですか。
どうだったかなあ…今みたいな打ち解けた感じではないにしろ、現場はそう雰囲気悪くなかったですよ(笑)。ライヴでガツンとくる曲を作りたいって気持ちが全員共通であって、勢いのある曲をやりたいねと。もともとdownyはハードコア・バンドみたいなところから始まったので、それも含めて原点回帰というニュアンスもあると思います。それに加えて3枚分の蓄積もある。

———— やりきった感はあった。
使い果たしたなという実感はみんなあったと思います。

———— 3枚目までで緻密に作り込むやり方を突き詰め、4枚目でライヴ的、セッション的なやり方を突き詰めて。
それ以上やることが何かあるのかなあ、と。当時の時代背景の中で、打ち込みを絶対使わないという条件の中で、やれることはやれたのかなあ、と。

———— なるほど。
クアトロのワンマンが成功したりとか、始まってる感じもありつつ、みなそれぞれに新しい展開もありました。サポートの仕事をやったり、僕は映画のサントラ作ったり、完全に打ち込みの作品を作ったり。各々やりたいことをやっていて。みんな地に足をつけて音楽を続けてるんだなって実感もあったんですけど…なんか僕は…いやになっちゃったんでしょうね(笑)。もういいか、みたいな。

———— 活動停止を決めた時のことは覚えてますか?
クアトロのライヴが終わったあとの楽屋で話したような記憶があります。一回休止したいという旨を伝えました。

———— メンバーの反応は?
ええーっ!みたいになってましたけど…わりと受け入れてくれたような記憶があります。すんなりだったかどうかは覚えてないですけど。でもここで終わりじゃなくてシェルターでワンマンやって締めようと。それで最後にシェルターでやったんです。

———— そして2012年に曲作りを再開し、2013年に9年ぶりのアルバムで本格復活するわけですが、これほど長い沈黙になるとは思っていました?
僕の場合、バンドがどうのというより、音楽自体をやめてしまおうと思いましたからね。でも2〜3年休んだら、また音楽をやりたい気持ちが再燃すると思ってたんですけど、わりと時間かかっちゃいましたね(苦笑)。

———— 短期間に密度の濃いアルバムを続けざまに出して、自分の中にあるものを全部吐き出して、空っぽになってしまったみたいな。
ええ。ライヴするのもしんどいみたいな、そんな感じだった気がします。シェルターでやってたころと客層も変わってきて。クアトロでやった時にね、僕個人的にはそんなにいい演奏じゃなかったんだけど、それでもすごくウケたんですよね。その時、よく分かんなくなっちゃって。笑

———— 自分がすべてを注ぎ込んでやった音楽がちゃんと理解されてるのかどうかわからなくなった。
そんな気持ちになったのを、なんとなく覚えてます。「こんなに緻密にやってきても、そんなもんなのかなあ」と。「伝わらないのかな」と感じたような気がします。ただ僕一人が演奏しているわけではないし、きっと勘違いだったのかもですね。
今思えば、そう思ってしまうほどに疲れてたんだと思います。笑

———— なるほど。それは大きかったかもしれないですね。今振り返ってみて、第一期downyはいかがでしたか。
やりきったな、と思います(笑)。でもこうして再発を望まれて、出したいという人がいて、欲しい、という人がいてくれるのは、ほんとに有難いことですよね。あの時は「伝わってないのかな」と感じたけど、今思えば僕がガキだっただけで、ちゃんと聞いててくれたんだなと思うし。好きな人がずっといてくれたんだなと。やってきたことは間違ってなかったんだなと。今はそう思います。

interview & text : 小野島大

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  • 2014.07.23 On Sale
  • PECF-1097 / felicity cap-204
    [CD] ¥2530

<TRACK LIST>

  • 酩酊フリーク
  • 野ばなし
  • 昭和ジャズ
  • 左の種
  • 狂わない窓
  • アンテナ頭
  • 62回転
  • 麗日
  • 脱力紳士
  • 猿の手柄
  • 月宿る善良 (「月宿る善良」より *Bonus track)
  • 安心 (「月宿る善良」より *Bonus track)
 -
  • 2014.07.23 On Sale
  • PECF-1098 / felicity cap-01r
    [CD] ¥2530

<TRACK LIST>

  • 夜の淵
  • 黒い雨
  • 象牙の塔
  • 三月
  • 無空
  • 犬枯れる
  • 月が見ている
  • 葵 live (CD+DVD「無題」より *Bonus track)
  • 象牙の塔 live (CD+DVD「無題」より *Bonus track)
  • 無空 live (CD+DVD「無題」より *Bonus track)
 -
  • 2014.09.24 On Sale
  • PECF-1104 / cap-11r
    [CD] ¥2530
    ※9曲+ボーナストラック1曲

<TRACK LIST>

  • 鉄の風景
  • アナーキーダンス
  • 抒情譜
  • 形而上学
  • 暁にて…
  • 「   」
  • 酩酊フリーク
  • 山茶花 ※Bonus track (CD+DVD「無題」より)
 -
  • 2014.09.24 On Sale
  • PECF-1105 / cap-38r
    [CD] ¥2530
    ※9曲+ボーナストラック1曲

<TRACK LIST>

  • underground
  • Fresh
  • サンキュー来春
  • 木蓮
  • 「   」
  • 暗闇と賛歌
  • 逆光 ※Bonus track (新曲)
VIDEO


PROFILE
downyダウニー
downy / 第一作品集「無題」、第二作品集「無題」、第三作品集「無題」、第四作品集「無題」 発売記念スペシャルインタビュー

2000年4月結成。メンバーに映像担当が在籍する、特異な形態をとる5人編成のロック・バンド。音楽と映像をセッションにより同期、融合させたライブスタイルの先駆け的存在とされ、独創的、革新的な音響空間を創り上げ、視聴覚に訴えかけるライブを演出。

2004年に活動休止し、2013年に再始動。2018年にギタリストの青木裕が逝去。2020年2月、SUNNOVA(Samlper/Synth)が正式メンバーとして加入。

[Official Website]
http://www.downy-web.com/

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  • 酩酊フリーク
  • 野ばなし
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  • アンテナ頭
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  • 猿の手柄
  • 月宿る善良 (「月宿る善良」より *Bonus track)
  • 安心 (「月宿る善良」より *Bonus track)
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  • 象牙の塔 live (CD+DVD「無題」より *Bonus track)
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