INTERVIEW

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高木正勝『かがやき』スペシャル インタビュー

  • 2014.11.18

世界を旅しながら、音楽の源を探求し続ける音楽家、高木正勝。最新作『かがやき』は前作『おむすひ』以降に生まれた音源をまとめたもの。昨年から移り住んだ山里で作られた新曲をはじめ、エチオピア滞在中に制作された曲、ドキュメンタリー映画『夢と狂気の王国』やNHKテレビ・ドラマ『恐竜せんせい』のサントラなど、初めてCD化される音源を幅広く収録し、さとうみかをによる絵本も添えられたヴォリュームたっぷりの仕様だ。昨年から山里へと移り住み、新たな環境でどのように音楽を紡ぎ出してきたのか。新作の制作背景を訊いた。

———— 『おむすひ』に続いて今回も2枚組のアルバムになりましたね。
「CDの型は〈前作と同じ仕様にしよう、絵本をつけて〉と先に決めてあったんです。曲はCD4枚分くらいあったんですけど、曲をいろいろ並べてみても今出したいと思うような感じにならなくて。締め切りは迫ってくるし、どうしようかと考えて、結果的に2枚のうち1枚はサントラをまとめたもの。もう1枚は今出したいものを急遽作って入れることにしたんです」

———— 締め切り近くに新作を作り始めた? 大変ですね。
「思えばオリジナル・アルバムを作るのって7、8年ぶりくらいで。締め切りに追われて冷や汗をかきながら曲を作ってて、〈この感じ、なんか知ってるぞ〉って(笑)。サントラの音源をまとめて出すぶんには、一度発表しているものだし、どんなふうに聴いてもらってもいいって自分のなかで割り切っているんですけど、新作は自分でもどういう作品かまだわかってないまま世に出るので怖いですね」

———— 今回のアルバムの〈Disc1〉が新作にあたりますが、アルバムのイメージみたいなものはあったんですか?
「ありました。それは震災以降、考えていたことでもあるんですけど、日本語の歌詞の曲を作りたいと思っていたんです。言葉と音で醸し出したいイメージも明確にあって。それで作り出してみたんですけど、いざ日本語を乗せてみると、その言葉が借り物みたいな気がして。それで引っ越そうと思ったんです。これは自分がいろいろ体験しないと、ちゃんとした言葉が出てこないと思って」

———— かなり田舎のほうに引っ越したとか。
「2キロの範囲に17軒くらいしか家がないような里山です。隣の村に行くと見慣れた風景がちょっと混じってくるんですけど、町っぽくなるというか。昔から夢だったんですよね、玄関を開けたら自然が広がっている場所。真夜中にピアノを弾いてても誰も気にしないような。家を見に行った時、お年寄りがわらわら集まってきて、〈おいくつですか?〉って訊いたら〈97歳〉って。そういう方たちと一緒に暮らせるのは最後のチャンスかもしれないと思って、すぐ引っ越すことを決めたんです」

———— アルバムにはそういった、近所のお年寄り達の声が収められていますね。
「締め切りギリギリのところで、1年近く村で過ごした感じを作品に残したいと思って。それしかないやろ、と。ほんとはもう1年くらい暮らさないと無理かな、と思ったんですけど、急に歌詞が思い浮かんで頼んでみたんです。そしたら〈練習したい〉って言われて、僕が歌ったデモをCDに焼いて渡して。でも結局、練習する前に気楽に歌ってくれたのがよくて、それを使わせてもらったんですけれど(笑)」

———— みなさん声が良いですね。声に存在感があるというか。
「ですよね。1曲目と10曲目は97歳のおばあちゃんなんですけど、声が震えていて、なんというか動物みたいな声、とても豊かです。近所のお年寄りと話をしていて、この声をどうにかできないかな、と思ってたんですよ。アルバムを作りながら、この声を活かすにはもっとこういう曲のほうがいいな、とか、もう少し時間をかけて付き合えば、もっと気持ちよく歌ってくれるだろうな、とか、いろいろ思うところはあったんですけど、とりあえず今回は足掛かりとして録音しておこうと思って」

———— そうしたお年寄りの声だけじゃなくて、現地の音も入り込んでいますね。虫の鳴き声とか。
「入ってます。エディットしているようで、実は自然に入り込んでる。〈せみよび〉っていう曲があるんですけど、初夏ぐらいにテラスでエスラギっていうインドの弦楽器を弾いて録音してたんです。そしたら、途中で〈ギッ、ギッ、ギッ〉ていうちょっと際どい音が鳴り出した。〈面白いな〉と思ってそのまま続けてたんですけど、よく聴いたら楽器の音じゃなくて蝉だったんです。〈夏だなあ〉と思って弾き続けていたら、これは蝉とセッションしているんだなとなってきて(笑)。それをそのままアルバムに入れました」

———— 蝉とセッションした曲(笑)。
「前からピアノを弾いているとよく起こっていたんです。激しい曲を弾いてたら蝉も盛り上がるし、ふっと落ち着くところに辿り着いたら蝉も〈は〜っ〉ってなる。でも録音ボタンを押すと止まるんですね。どうやったらこの素晴らしいセッションを記録できるんだろうと思ってたんですけれど、偶然録れました(笑)。他にもピアノを弾いてたら鳥が集まってきたりもするんです。窓をカンカンカンってくちばしで突いて」

———— 宮沢賢治の「セロ弾きのゴーシュ」みたいな世界ですね。そういう日本の山里で録った音源のなかに、エチオピアで録った曲、「うたがきI」「うたがきII」「うたがきIII」が入っているのはどうしてなんですか?
「エチオピアに行ったのは引っ越しの半年前でしたが、ほんとに昔ながらの生活を送っているところで。みんなその土地でとれるもの、そこにあるものを使って工夫して暮らしている。それを見て〈自分はこういう世界に入りたかったんじゃないのか?〉と思ったんです。ずっと、こういう世界を外から見て〈いいね!〉を押し続けるんじゃなくて、自分がいいと思ってる世界に入ろうって。田舎に引っ越すきっかけになったのがエチオピアに行ったことだったので、自分の人生の流れのなかでは(山里で制作した音源と)並んでいてもおかしくないんですね。実際並べてみても違和感がなかったし、いまの村の暮らしとエチオピアは繋がってるなと」

———— シンプルさを極めれば、国や人種の違いは関係なくなってくるのかもしれないですね。
「エチオピアで感じたこと、村で毎日感じることと、とても似てます」

———— 〈Disc2〉はスタジオジブリをテーマにしたドキュメンタリー「夢と狂気の王国」と、NHKのテレビドラマ「恐竜せんせい」のサントラが収録されています。どちらもピアノがベースになっていますね。
「楽器でいうとそうですし、全体的に卒業式や入学式みたいな感じだな、と思います。節目を感じさせるというか。自分が引っ越す間際だったっていうのもあるし、映画の内容なんかもそんな感じで。多分、震災以降、みんなそういうことをテーマにせずにはいられないのかもしない。〈恐竜せんせい〉をやってすぐに〈夢と狂気の王国〉に取りかかったので、やっぱり少し似てますね」

———— 高木さんの作品のテーマやアプローチにジブリ作品と共通するもの感じたりするのですが、ジブリ作品に共感するところはありますか?
「宮崎駿さんも高畑勲さんも大好きで、インタビューなどもいろいろ読んできました。子供の頃から見てたんですけど、自分がものを作るようになって改めて見直した時に、彼らの作品の背景にある膨大な知識量とか経験に圧倒されたんです。それでインタビューを読んで気になったことを自分でも調べていくうちに、歴史のこととか文化のこととかいろいろ勉強するようになって。お会いしたことはないんですけれど、たくさんのことを学ばせてもらっています。」

———— いつか宮崎さんと何かの形でコラボレートできるといいですね。最後にアルバム・タイトルについて教えてください。
「小学校の時に〈かがやき学級〉っていうのがあったんです。知的障がいを持つ子どもたちのクラスだったと思うんですけど。村でお年寄りと接していると、その〈かがやき〉という言葉が浮かんできて。あと、スティーヴン・キングの小説で『シャイニング』ってあるじゃないですか?自分のなかの〈シャイニング(かがやき)〉を見つめるっていう。そういう〈かがやき〉を別の言葉で置き換えると〈魂〉だと思うんです。鹿児島にしょうぶ学園っていう知的障がい者の方の施設があるんですけど、そこではみんな絵を描いたり音楽をやったりしていて、それがすごくカッコいいんですよ。自分で何かを創る時、どこかに芯があって、そこで作っているイメージがあるんです。でも、普段その芯はなかなか発動しなくて鎧をかぶったりしている。でも、しょうぶ学園の人達は鎧をつけずに全解放しているように見えた。村のお年寄りもそうなんですよね。その様子をひとことで言うなら〈かがやき〉なんです。制作活動だけじゃなくて、日々の暮らし、いま、僕はそういうところに入っていきたいと思っているんです」


interview & text 村尾泰郎

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  • 2014.11.19 On Sale
  • PECF-1102/3 / felicity cap-208
    [CD] ¥3666

<TRACK LIST>

[Disc2 – 1 ~ 9]
NHK 福井 開局80 周年記念ドラマ「恐竜せんせい」オリジナル・サウンドトラック
[Disc2 – 10 ~ 33]
スタジオジブリを描いたドキュメンタリー映画「夢と狂気の王国」のサウンドトラック

[Disc1]

  • うるて
  • おおはる ※パナホーム TV-CF曲
  • ととろきみづ
  • たにのはまべ
  • しらいき
  • おおはる – ぴあの ※パナホーム TV-CF曲
  • やまふろ
  • あまみず
  • I am Water ※資生堂 TV-CF曲
  • かみしゃま – 語り
  • せみよび
  • うたがき I
  • うたがき II
  • うたがき III
  • 育てなさい 火を熾しなさい 食べなさい 笑いなさい
  • うるて – はるのうち
  • かみしゃま
  • あげは – 合唱
  • ぬのふね
  • ゆきんこ
  • ももいろのほほ
  • くゎのはら
  • かみしゃま – 合唱

[Disc2]

  • よきにむかえ
  • うそひめ
  • 今より幼い私
  • りゅうびいしゃま
  • 彼の地にて
  • 彼の地にて – 同じ夢
  • はたはた
  • かえりしま
  • このち
  • 紡ぎ風 – 序曲
  • わたげわらべ
  • 風のワルツ
  • 雲はこび
  • ルンタ
  • 紡ぎ風 – だくぼくの道
  • あんのん
  • ユネワサ・アンギャ
  • 紡ぎ風 – 夢紡ぎ
  • 浮き雲
  • 渡る風の中
  • しやどり
  • 私は風を
  • 風花 – かぜのねあつめ
  • 風の生
  • 風花 – 春へ
  • たゆら
  • 熱風
  • 友風歌
  • 紡ぎ風
  • 風花 – 暮れつ方
  • 風の家
  • 風花 – 終曲
VIDEO


PROFILE
高木正勝Takagi Masakatsu
高木正勝『かがやき』スペシャル インタビュー

1979年生まれ、京都出身。2013年より兵庫県在住。山深い谷間にて。

長く親しんでいるピアノを用いた音楽、世界を旅しながら撮影した’動く絵画’のような映像、両方を手掛ける作家。
美術館での展覧会や世界各地でのコンサートなど、分野に限定されない多様な活動を展開している。
「おおかみこどもの雨と雪」やスタジオジブリを描いた「夢と狂気の王国」の映画音楽をはじめ、コラボレーションも多数。

http://www.takagimasakatsu.com/

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  • 2014.11.19 On Sale
  • PECF-1102/3 / felicity cap-208
    [CD] ¥3666

<TRACK LIST>

[Disc2 – 1 ~ 9]
NHK 福井 開局80 周年記念ドラマ「恐竜せんせい」オリジナル・サウンドトラック
[Disc2 – 10 ~ 33]
スタジオジブリを描いたドキュメンタリー映画「夢と狂気の王国」のサウンドトラック

[Disc1]

  • うるて
  • おおはる ※パナホーム TV-CF曲
  • ととろきみづ
  • たにのはまべ
  • しらいき
  • おおはる – ぴあの ※パナホーム TV-CF曲
  • やまふろ
  • あまみず
  • I am Water ※資生堂 TV-CF曲
  • かみしゃま – 語り
  • せみよび
  • うたがき I
  • うたがき II
  • うたがき III
  • 育てなさい 火を熾しなさい 食べなさい 笑いなさい
  • うるて – はるのうち
  • かみしゃま
  • あげは – 合唱
  • ぬのふね
  • ゆきんこ
  • ももいろのほほ
  • くゎのはら
  • かみしゃま – 合唱

[Disc2]

  • よきにむかえ
  • うそひめ
  • 今より幼い私
  • りゅうびいしゃま
  • 彼の地にて
  • 彼の地にて – 同じ夢
  • はたはた
  • かえりしま
  • このち
  • 紡ぎ風 – 序曲
  • わたげわらべ
  • 風のワルツ
  • 雲はこび
  • ルンタ
  • 紡ぎ風 – だくぼくの道
  • あんのん
  • ユネワサ・アンギャ
  • 紡ぎ風 – 夢紡ぎ
  • 浮き雲
  • 渡る風の中
  • しやどり
  • 私は風を
  • 風花 – かぜのねあつめ
  • 風の生
  • 風花 – 春へ
  • たゆら
  • 熱風
  • 友風歌
  • 紡ぎ風
  • 風花 – 暮れつ方
  • 風の家
  • 風花 – 終曲
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