downy 第五作品集「無題」 Remix Album | downy青木ロビン×Fragment×leno スペシャル対談

昨年12月、長い活動休止期間を経て、9年ぶりの新作を発表したdowny。今度はdownyをリスペクトするアーティストが集結してリミックス・アルバムが制作された。アルバムのホストを務めたのは気鋭のトラックメイカー、Fragment(kussy、deii)。アートワークを担当したのはdowny「春と修羅」のMVを手掛けたlenoで、彼らは筋金入りのdownyファンだ。そこで今回、リミックス・アルバムのリリースを記念して、3人の〈downyチルドレン〉と青木ロビンが対談。アルバムをめぐる熱いトークから、downyがシーンに与えた影響と世代を越えた絆が浮かび上がる。
———— 今回、どういう経緯でFragmentがホストを務めることになったんですか?
青木 「彼らとは3年前くらい前に沖縄で会って。一緒に飲んで〈何かやりたいね〉みたいな話をしたんですよね。Fragmentの活動とか、レーベルとか、全部リスペクトしてましたから、リミックス・アルバムを作るなら彼らにお願いしようと決めてたんです」

kussy 「いやあ、僕らのほうからヘヴィー・プッシュしたんです(笑)。僕らdownyの大ファンだったんで、〈ぜひ何かやらせてください!〉って。一曲だけでもリミックスをやらせてもらえれば嬉しいと思ってたんですけど、まさかホストを任せてもらうなんてびっくりです」
———— リミキサーの人選については、お互いに話し合いながら?
青木 「そうですね。考えているメンツは大体一緒だったりしたかな」

kussy 「僕らとしては、downyに対して愛がある人選がいいんじゃないかと思っていて。そこだけの人選ではないですけど、軸としては(downyに対する愛を)大切にしました」


青木 「そうですね。好きでいてくれて、こちらも好きだったってことが重要だったというか」
———— 言ってみれば参加アーティストのほとんどが〈downyチルドレン〉ですね。そんなに歳は離れてないから〈ブラザー〉かもしれないけど。
kussy 「気持ち的には〈チルドレン〉ですね」

青木 「〈チルドレン〉はヤバいなあ(笑)」

kussy 「僕らが真っ先に浮かんだのがOlive Oilだったんですけど、ロビンさんに言ったら、〈もう、頼んでる〉って言われて、さすがだと思いました」

青木 「彼とは面識もあるので」
———— Fragmentを通じて出会ったアーティストもいますか?
青木 「Geskia君とかSUNNOVA君はそうですね。あとAmetsub君は、昔一度ライヴを観たことがあるけど、繋がってはいなくて。それで今回作品を聴き直してみたらすごく良かった」

kussy 「Ametsub、すごく合うんじゃないかと思ったんですよ。話をしてみたら、彼もやっぱりdownyが好きだったみたいで。みんなdownyを通ってきてる。レーベルから勧められたアーティストもいますけど」

青木 「やけのはらさんと石橋(英子)さん。二人の話があった時、彼ら(fragment)が〈いいですね!〉って言ってくれて」
———— さらにリミックス・コンテストをやったそうですね。そこで選ばれた曲も入っていますが、大賞に選ばれたのがBo-NingenのTaigen Kawabeさんというのも面白いですね。
青木 「今回、120トラックくらい応募があって、それをみんなで聴いて、それぞれの意見を訊きながら選んでいったんです。どのトラックも良かったんですけど、Taigen君のトラックは、みんなが選んだリストに必ず入っていたんですよ、しかも3位以内に」

kussy 「他のリミックスはクラブよりのものが多かったんですけど、Taigenさんのリミックスはバンドの人のリミックスだなあって思いましたね。なんか新鮮な感じがした」

青木 「ロックだったよね。ぱっと聴いてインパクトがあるし」
———— そんななかで、Fragmentは新作から「曦ヲ見ヨ!」をリミックスしていますが、この曲を選んだのはどうして?
kussy 「新作のなかで、この曲がダントツに好きだったんです。ただそれだけですね」

deii 「〈これ、ぶっ壊したい〉みたいな(笑)」

青木 「かなり、ぶっ壊してくれましたね(笑)」

kussy 「これまでいろんな曲をリミックスしたんですけど、この曲はどうなるか想像つかなかった。だからこそ、挑戦したくなったっていうのもありますね」
———— やってみてどうでした?
kussy 「そうとう、難しかったです」

deii 「こいつ(kussy)が、〈なんかノイズから始まって、そこにロビンさんの声が入ってくるのってカッコ良くね?〉みたいなアイデアを出してきて」

kussy 「とにかく、お互いどんどん意見を出し合いました。別にクラブ・ミュージックに仕上げる必要も無いし、何やってもいいわけじゃないですか。だから、まずインパクトが欲しかったのと構成も変にしたかったんですよね。それでロビンさんがニヤッとしてくれたらいいなと(笑)」

青木 「いやもう、聴いたらすぐ電話しましたね、〈超カッケー!〉って。今回、自分たちでリミックスした曲もあるから、こんな曲作られたらやりづらいなって思いました(笑)」
———— 今回、新曲として「十六月」が入っていますが、これはセルフ・リミックスという形なんですね。
青木 「メロディと歌詞は九年前に作ったもので、それを新作を作っている時に完成させたんですけど、アルバムの雰囲気にあわなかったので入れなかったんです。それを今回、良い機会だから自分達で分解してみようかと思って、メンバー各々の新たなアイデアから再構築しました。今回(リミックス・アルバム用に)メンバーの裕さんがミックスしてくれたんですが、あがってくる音源を聴いてたら、だんだんムズムズしてきて、〈俺たちも負けないやつを作りたい!〉って燃えてきたんですよね。完全に対抗意識です(笑)」
———— そして、同じ曲をFragmentがリミックスしていますが、かなりのプレッシャーですね。
kussy 「なかなかの緊張感でした(笑)」

青木 「しかも、投げたのが締め切りの2日前なんですよね(笑)。〈大丈夫?〉って訊いたら、〈大丈夫〉っていうんで任せちゃおうと。でも、カッコ良く仕上がったね」

kussy 「自分達はいろいろやってみたい人達なんで、2曲もやれるんなら、違う引き出しも見せておきたいと思ったんです。今度はポップな感じにしてみようかと」

青木 「ちょっと80’sなノリがあるのがいいね」

kussy 「downyをヒップホップにしたいと思って。ロビンさんの声をどう使うか?というのを考えた時、スクラッチさせちゃおうよ、みたいな。自分達としても結構気に入りましたね」
———— そして、アルバムのアートワークを手掛けたのはlenoさんですが、lenoさんもdownyの大ファンだったとか。
leno 「初めて触れたのは、昔、バンドやってた頃に、出演していたライヴハウスの店長から、〈明日、今度メジャーデビューするバンドが出るから、勉強がてらに観に来な〉って言われまして。そのバンドの前にdownyが出てきたんです。それこそ、猫依存症のデモテープも出る前で、何も情報がない状態で観たんですけど、ライブが終わった後、何も耳に入れたくなくて、お目当てだったバンドも見ずに帰るほど衝撃をうけまして、そのdownyとの遭遇が、バンドを辞めるきっかけになりました。その当時からフライヤーの情報のみを頼りにライブに通ってました。」

青木 「2000年くらいとかだよね。まだ、お客さんが3人くらいしかいない頃の一人だったんだ」
———— まさかその10数年後にdownyのアートワークやMVを手掛けるとは夢にも思わなかった?
leno 「3年前の沖縄で初めてお話ができただけでも感無量だったのですが、制作のお話をいただいた時は、関われる嬉しさの反面、downyへの想いが強過ぎて、正直、複雑な気分でした。今回のリミックスアルバムのアートワークに関しては、過去作の文脈ももちろん踏まえつつ、downy史上初のリミックス盤なので、そのオリジナルである第五作品集との関係性を意識した上で、イレギュラーな要素も取り入れたいというのを念頭に置いて制作させていただきました。」

青木 「こちらからはdownyっていうロゴは入れないでほしいとお願いしたくらいなんですけど、ほんと良いのが出来上がってきて。僕のツボを良く知ってるなあと(笑)」
———— 10年以上、追いかけてきたわけですからね(笑)。では最後に、皆さんにアルバムを完成した今の感想を伺いたいのですが。まずは青木さん、いかがですか?
青木 「今回、リミックス・アルバムを出してみようか、という話になった時、メンバーのみんなが結構、乗り気だったんですよね。これが9年前だったら他のアーティストと何かやるなんて考えもしなかったと思う。だから、このアルバムを出したことで、バンドとして今後いろんなことができるんじゃないかと思ってます」
———— downyチルドレンの皆さんは?
kussy 「ほんとに良いものが出来たと思います。みんな良い仕事してるし。できれば、downyを知らなかった人は、このアルバムを通してdownyのオリジナル盤に辿り着いてほしいですね」

deii 「参加したアーティストはもちろん、特に僕らがそうなんですけど、〈downyのリミックス!〉ということで気持ちの入り込みがとても強かったですね。だから、僕ら的には10年前大ファンになってから今までの集大成みたいなところもあるし、ほんと一緒にやれて感動してます。」

leno 「僕は、諸々のdownyの作品に携わる上で〈初めてdownyを見て衝撃を受けた10数年前の自分が見た時、どう思うか〉っていうのを、ひとつの基準にしていたんです。その当時の自分が納得できる、許してもらえるモノかどうかという思いを拗らせつつ制作させて頂きました。」

kussy 「ファン過ぎる!(笑)」

leno 「今のリスナーの方々は当時よりもリテラシーが高いと思うので、あてはまらないかも知れないですが、このアルバムをその当時に聴いていたら、バンド至上主義で電子音楽に対して無関心だった自分でも、もっと早くトラックメイカーの存在を意識したり、むしろ電子音楽でしか作れない世界があると気付くきっかけになったかも知れないと思いました。」

青木 「ほんと、そうだよね。このアルバム、クラブ・シーンとロック・シーンの良い架け橋になるといいね。」
Text by 村尾泰郎