INTERVIEW

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石橋英子ロングインタビュー~音楽に自分を捧げる感じというか、嘘じゃないものを作りたかった

  • 2011.01.06
intervew & text:Player 北村和孝
NATSUMEN、PANICSMILE、MONG HANGといったバンドやセッションで、鍵盤や打楽器、管楽器などを器用に操り、またインプロヴィゼーションも大得意といった感じで、石橋英子には早くから才女という印象があった。しかし06年の1stソロアルバム『Works for Everything』を聴いて、音楽家としての彼女のイメージがガラリと変わったという人は多いだろう。映画監督、蔭山周による映画『モロヘイヤWAR』の音楽を務めたのを皮切りにスタートしたソロ活動だったが、「夜鷹の星」で魅せたシンガーソングライターとしての可能性には驚かされた。多岐に渡るバンド、セッション活動ととともに以後はソロ活動も定期的となり、石橋英子×アチコのデュオによる『サマードレス』といったアルバムでも歌心は育まれていったのである。続いて登場した2ndソロ『drifting devil』ではソングライティングの構築性と、インプロヴィゼーションの衝動性が同居する、そのバランス加減がとにかく鮮烈な1枚と仕上がることになった。「自分の曲に合った音がどういう環境にあるのかを探究したい」とのことで、『drifting devil』は様々なレコーディング方法を試みるとともに、多数のゲストミュージシャンとともに試行錯誤の中産み出されたのだが、結果的にバラエティに富んだ内容となったと思う。その結果として『drifting devil』で石橋英子に出逢ったというファンも多いはずだ。メディアにおいての露出もこの時期から増えることとなり、まさに注目度が上昇する最中にじっくりと製作されて、2011年国内ロックシーンの新たなる幕開けを飾ったのが御存知の通り『carapace』である。昨年よりライブで新曲はいち早く披露されてはいたが、盟友ジム・オルークによるプロデュース、エンジニアリングが施されたことで、石橋英子流ポップミュージックのさらなる可能性が切り開いているのはお聴きいただいた通りである。ジムと彼女の組み合わせであるならば、数時間スタジオセッションすればインプロで鮮烈な音を編むこともできただろう。しかしあえてソロアルバムにおいて彼女が挑んだのは、選び抜かれた言葉と研ぎすまされた音とによる「歌」を作るアプローチであった。ピアノの右手とのユニゾンによる旋律を繊細な歌声が奏でるとともに、まるで異世界へと誘うようなスリリングな生楽器によるアンサンブルとの攻めぎ合いは、追憶と未来とが交錯する彼女独自の詩世界にも呼応している。およそ10,000字に及ぶこのインタビューは、“何故ゆえに石橋英子はシンガーソングライター・アプローチにより『carapace』を編んだのか?”を主題として行なったものだ。『Works for Everything』の頃のインタビューと比べると、彼女の解答が遥かにスムーズかつ明快だったのが印象的だったりと、音楽家・石橋英子の進化をあらゆる面で鮮烈に感じたインタビューである。『carapace』をお聴きいただきつつお楽しみいただければ幸いだ。
『carapace』は一音一音に責任を持ちたかった
──『carapace』はシンガーソングライターとしての英子さんの資質が反映されていると思うんですが、そもそも英子さんはいつ頃シンガーソングライター的なスタイルを自覚しだしたんですか?
「勿論曲を作って歌うというスタイルはシンガーソングライターだと思うし、前作で“シンガーソングライターとしての石橋英子さん”みたいなことをいろんな方から言われるようになって、シンガーソングライターって言葉自体を意識するようになったんですよ。ただいわゆる弾き語りをされている方と自分とは違うという意識もあるんですよね。」
──僕は「夜鷹の星」を聴いたときに“もしかしたら物凄いポップな音楽も作れる人なのでは!?”と悟った1人なんですが、『carapace』はまさにその発展形とも言えるというか、ストイックなまでにシンガーソングライターとしての側面が出たと思うんです。でもその作業はおそらく英子さんにとっては苦しい作業だったんじゃないかなと(笑)。
「そうなんですよ。そこで苦しいと思ったことが、自分が生粋のシンガーソングライターではないと思う部分なんですけど(笑)。でもあえて自分のチャレンジとしてそういうスタイルをとったことで『carapace』はシンガーソングライターらしい作品になったと思います。ただ自分の活動を省みたときには、シンガーソングライターという言葉だけでは足りないという気もしますね。」
──例えば「光る窓に」は“なんか曲にならないかな”と、ひたすらフロアタムを叩き続けて作ったというエピソードがあるし(笑)、正直ここまでシンガーソングライター・アプローチでやってくれるとは予想外だったんです。スタイル的にはピアノの右手と歌メロがユニゾンする作風を徹底していますよね。あえて作り方を狭めているというか…。
「それをやりたかったんですよね。狭めることによって曲に奥行きを持たせたかったというのはあります。例えば『drifting
devil』ではまずドラムを叩いて、どんな曲になるのかわからないまま即興演奏を重ねていったんですけど、できあがるまでにイメージするものは自分にとっていろんな音が明白だったんですね。それが良さでもあったんですけど、逆に自分がやることを限られたものにしたときは、出てくるものが明白だと気持ち悪いんです。例えばピアノの音を出してそれが単に何かを説明するものだったら、ピアノから「それは違うよ」って返ってくるような気がするんですよ(笑)。」
──ただそのアプローチって本来英子さんにとって強みとなる部分が、抑えられてしまうというデメリットがあるかもしれない作り方ですよね?
「それをデメリットだという風にしたくなかったんです。勿論苦しい作業だったんですけど、自分が良いと思うかというよりも音楽に自分を捧げる感じというか、嘘じゃないものを作りたかったというか…言葉にするのは難しいですね。一音一音、一言一言が出てくるたびに独りでやっていると嫌気がさすときがあって。けれどそれでも続けていくことによって自分の奥深くに入っていくことができるというか、その作業を繰り返していくうちに本当に出したい音なり言葉が見えてくる。今回はそういう作業がしたかったんです。」
──今回いろんなインタビューで“嘘じゃない音”“偽りじゃない音”ってことを多々おっしゃっていて。でも別に『Works for Everything』『drifting devil』が偽りの音だったわけじゃないと思うですが(笑)。
「勿論そういうわけじゃないんですけど、ただもっと厳しくなったと思う。以前の作品に嘘はなかったとしてもあまり自覚的ではなかったんですよね。いっぱいドラムの音が鳴っていてそれでできちゃった、っていうようなところが大きかったと思うんです。“こういう音が鳴っちゃったけど、私弾いたっけな?”とか(笑)。でも今回はそういう風にしたくなかった。一音一音に責任を持ちたかったんです。」
──AOI(Gianni Gebbia,Daniele Camarda,石橋英子)のセッションでも一部に歌が入っていたわけですが、『carapace』とはアプローチが両極端ですよね。ああいうアルバムだったら英子さんはいくらでも作れるんでしょうし…。
「そうですね。たしかに他人とセッションしたりとか、インプロで作っていくほうが楽しいわけですよ(笑)。」

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──『carapace』の制作はいつから始まったんですか?
「一去年の暮れくらいかな?
ジムさんとは以前から一緒に演奏する機会があったんです。ジムさんに録音をお願いしようと思ったのは去年の6月くらい…でもそのときは本当に録音だけをお願いするつもりで。」
──一昨年、7th Floorで新曲披露のライブもありましたよね。「rythm」「emptyshout」辺りはそのとき披露されていたんですけれど。
「あのときは自分の中で曲が固まっているとは言えない状態だったんですけど、私の中では固まっていない状態で人前で演奏することに意味があると思っていたので。事実、それで見えてきた部分もあったし。」
──その後にジムさんが携わるというサプライズが待ち受けていたという。
「それは私もびっくりしたことで。ジムさんのアルバムの音は大好きだったし、ミックスとかプロデュースをお願いできたら勉強できるなとも思っていたものの、ジムさん御自身の作品作りに集中したいということも知っていたので、私から何か御願いするというのはすべきじゃないと思っていたんです。録る直前までは“時間がかかってもミックスまで自分で勉強してやるしかないな”と思ったりしていたので。でも録音の相談をしようと思ってデモを聴いていただいたらたくさん感想をくださって(笑)。1曲ずつ紙にバーッとアイディアが書いてあったんです。しかもそれは録音というよりは、その曲をどのように膨らませていくかということが多かったので、『もしかしてジムさん、これはプロデュースですよね?』と(笑)。『はい。ミックスもやります』っておっしゃってくれて。」
──ジムさんに火をつけてしまったんですね(笑)。
「どうなんでしょうね(笑)。私が可哀想と思ってくれたのかもしれないし(笑)」
──当初はミックスまでやろうと思っていたというのもいろんな場所でおっしゃっていますが、英子さんの人間関係には有能なエンジニアさんもいらっしゃいますし、そんな極端なところまで自分を追い込む必要はあったんですか?
「独りでこもっていた時期もあったし、なんかそういう気持ちになっていたんですね。今回の楽曲もいっそボツにしようかと思ったときもあったけれど、レコーディングの期日は決まっていたし“これは進めなくちゃいけないことだ”と。ただ前々から“できるところまで自分でやらなければ”という気持ちはあったんです。」
──なるほど。ただ7th Floorの演奏の際、山本達久さん(ds)、勝井祐二さん(vl)、中原昌也さん(effects)と新曲を演奏されていて、あのときの音でも僕は充分に手応えを感じていたんですよ。ただあそこからさらにマッシュアップしたというのは?
「やっぱりあの時点ではバリエーションのひとつというか、あのライブではリズム隊があったほうが良いと思ったし、ライブで演奏するのとアルバムにするのとでは違うんですよね。」
──それから今回のレコーディングメンバーでリリース前に渋谷WWWでプレイされましたよね? あのときの演奏もアルバムとは違うアプローチだったんですよ。
「うんうん、違うんです。次回はもっと変わるかもしれない(笑)。ライブでの表現の仕方はまだみんな探っている最中ですからね。」
──となると、英子さんの中でのレコーディング作品としての完成形と、人前で演奏して提示するものとしては別なのですか?
「はい、そこは別に考えています。生でドラムの音が聴こえてきたら歌い方も変わってきますし、ピアノの弾き方も変わってきますから。まったく別のものにはなってしまいます。『carapace』を作り終わってから少しは再現してみたいって気持ちもありますけど、ただ別のものとして扱ったほうが良いと思いますね。まったく同じには演奏できませんから。」
ジムさんとの作業は物凄く
思いがけないことだったし嬉しいことだった
──ジムさんと英子さんのやりとりはどういう感じだったんですか? “2人がぶつかってどちらかが引くというような場面もあったのかな?”と想像したんですが。
「多分ね、完全に2人の作品として作っていたとしたらジムさんには100倍のアイディアがあったと思います。でもまずこれは私の作品だったし、それに時間も限られていたから。ジムさんは御自身の作品に何年もかける方ですけど、私のアルバムにそこまで時間をかけるわけにはいかなかった。でも私にとっては凄い時間がかかった作品なんですよ。逆にジムさんにとっては短い時間で作った作品だろうし、そこはお互いに違うところというか。そういう時間的なところではぶつかったことになるのかもしれないけれど、実際にアイディアや意見がぶつかる場面はなかったんです。ジムさんは凄く気を使ってくれたと思うし、私に考えさせてくれる時間をたくさんくださったし。例えば10くらいのアイディアがあったとしたら、私にまず意見を聞いて私の意見にもっとも近いものを出してくれたと思うんですよね。」
──なるほど。音選びは物凄い引き算で考えられているというか、ストイックですよね? 例えば『drifting devil』ではシンセっぽい音色もありましたけれど、『carapace』はアコースティックな生音にこだわっている印象があります。
「やっぱりそれがジムさんの作り方なんだと思います。私も今までオーヴァーダビングしてきたのは生楽器がほとんどだし、ドラム、パーカッションはジムさんも私も自分で演奏するし、その上でヴィブラフォンとか生楽器を入れたりというオーヴァーダビングの部分はお互い似た方向性をとっていたんだと思います。」

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──譜面があったわけじゃないんですよね?
「ないですね。ただアコースティック・ヴァイオリンとフルートに関してはジムさんが譜面を書きました。」
──例えばジムさんのパートを録るときでも、おふたりで打ち合わせの上で録るわけですよね?
「はい。私がいないところでジムさんが勝手に録るってことはありませんでしたね。」
──では次の日になったら音が入っていたってことはなかったんですね(笑)。
「あ、でも1回だけあった!
でもそのジャッジは私にさせてくれたし、ほとんどはふたりでいるときに録りました。お互いに考えて「これはどうだろうか?」「良いね」っていう感じで、しかもセクションごとにパーツパーツで録るんです。そのパーツをリピートして部屋をうろうろしながらふたりで聴いて(笑)、何の音が必要かを凄くよく考えていくという。」
──ドラマーの選出はどのように決めたんですか?
「(山本)達久さんに何曲かお願いするっていうのは当初から決めていて。でも何の曲を叩いてもらうかはジムさんと相談して決めました。ベーシックを録る時点ではドラムを入れるかどうかを決めていなかったんです。だからベーシックでドラムを録ることが明白になった曲だけを達久さんに頼みました。あとはオーヴァーダヴィングのときに必要になったら、私とジムさんで協力して録っていったという。」
──歌ものだけれどインストパートが凄い面白いし、「hum」なんて次作に繋がる可能性もあると思います。インプロもあるけれど構成がちゃんとあって意味があるというところは『carapace』の聴きどころですよね。
「自然に出てきたインストパートでもちゃんと意味があるものにしてくれたのはジムさんのアレンジですね。「hum」の途中のインストパートも元々私が作った部分ではあったんですけど、くっきりと世界を分けて音にメリハリをつけてくれたのはジムさんの力が大きいと思います。」
──もともと多重コーラスがお得意ではあるんですけれど、「hum」の最後でああいうかたちのコーラスアンサンブルが出てくるとは予想外だったんです。
「あぁ、あれはデモの時点で最後だけコーラスを入れていたんですよ。デモを聴いたジムさんが面白がって、そこを強調してくれたところはありますね。私自身にとっては単なる思いつきで入れたコラースなんですけど。「hum」はいちばん最後にできた曲ですね。」
──「rythm」はリズムって読むんですか? それともライム?
「単に綴りを間違えちゃったんですけど(笑)、なんか“h”がなくて意味あり気でいいかなと思ってそのままにしちゃった。深い意味はないんですよ(笑)。」
──それと「coda」については“冗談で作った”みたいなことをよくおっしゃっていますけれど、めちゃくちゃ名曲だと思うんですよ!
「そう言うと思った(笑)。どういう部分がいいと思いました?」
──わりと他の曲が緊張感を感じさせる中で、歌詞が洒落っ気があり遊び心もあって隙があるというか、凄く自由度のある曲で。英子さんのポップな部分が凄く出ているとも思いました。
「歌詞もbikkeさん(LOVEJOY、JB、ex Aunt
Sally)と書いていて全部自分じゃないというのも大きいんです。「coda」っていうのもbikkeさんから出てきた言葉で。」
──1曲目から「coda」という(笑)。
「(笑)。この曲のアイディアは以前からあったんです。でも具体的にはなっていなくて、形になったのは一昨年の6月くらいかな?
どういう風に扱おうかなって思っていたんです。」

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──『drifting devil』から『carapace』へのブリッジになっている曲だと思うんです。
「そういう感じもしますね。自分じゃない自分っていう感じがするんです。それこそライザ・ミネリやバーバラ・ストライザンドがバッと出てきて歌うようなイメージというか(笑)。この曲はちょっとスターが躍りながら歌っているような曲ってイメージがあるんですよね。でも自分はスターじゃないので(笑)。」
──全然OKですよ。スターで行きましょう。
「ピアノを誰かにお願いしちゃってハンドマイクで歌うとかね(笑)。」
──「Short Circuit」は『carapace』でも核になる曲だと思うんですが。
「そうですね。自分でも不思議な曲だなって思います。ある意味一番生々しいというか。」
──間奏が入る構成とか、何処まで英子さんの中で決めていたんですか?
「一応全部はあったんです。ただし最後のバンドになるところはガラリと変わりましたね。もともとあそこには歌メロもあったんです。その景色をまるで変えたのはジムさんですね。歌は削ったんです。」
──-昨年のWWW公演の際、ジムさんがギターソロのフレーズをある程度決めて弾いていた印象だったり、アルバムだと2回目だけトライアングルが入ってきたりとか、自由そうながらもちゃんと構成されているという。
「面白くなりましたよね。実はそういうのってジムさんの中で何かの引用があったりするんですよ。勿論まったく同じようには扱わないんですけれど、そういうアイディアはいっぱいある人なので。最初にデモを聴いていただいたときのメモにすでに“ここは1分以上演ります”みたいな設計図はあったんです」
──ジムさんは凄いバイタリティですよね。それだけにオーヴァープロデュースにならないように凄い自制されているんだろうし。。
「うん、いつも『押し掛けていませんか?』って気にされていましたね。」
──英子さんとしてはどうだったんですか?
「いや、もう全然。ジムさんが携わってくれるというのは物凄く思いがけないことだったし嬉しいことだったので。自分の曲がピアノと歌である程度世界を作れたとは言え、それが良い曲かどうかっていうのはデモの段階ではわからなかったんです。そこに可能性を見出してくださって、そういうアイディアを出してくれるというのは凄いありがたいことだと思いました。」
──あと英子さんの曲は以前からワルツが多いですよね。
「何故ででしょうね…でも基本的には3とか5とか7とかになっちゃうんですよ。」
──いや、5拍子とか7拍子っていうのは英子さんならではと思いますが(笑)。「KOkKA」なんかがそうでしたが唱歌的なテイストっていうのも以前からあると思っていて。
「私の場合、「音楽をやれ」って言われないと変なことばっかり考えているところがあるので、自然に何かが降ってくるってことはほとんどないんですよ。道を歩いていたりしていて、音楽がやってくるなんてことはないから。」
ここに来てようやく21世紀の新しい感じが来るかなって
──英子さんの世界観においてやはり歌詞は大きいと思うんです。『drifting devil』はある程度の一貫性みたいなものを意識して歌詞を書かれていましたよね。『carapace』はそれがより徹底されていて、特に映像的なものを通じて心象描写をしているような印象だったんです。
「これは今回のいろんなインタビューでは言ってないことだと思うんですけど、例えばみんなで車で移動しているとき、私が一瞬林の中で鹿を観たんだけど他のみんなは誰も観ていないと。でもその自分が一瞬観たものをどうしても伝えたくて書いたような歌詞って気がします。」
──なるほど! それはわかりやすいです。『carapace』はとりわけ歌詞を書くのが大変だったんじゃないですか?
「うん、大変でしたね。前作はここまでは大変な想いをしていないと思うんだけど、今回は苦しい部分はありました。」
──誰も使っていない言葉で書こうとか?
「そういう風には思っていないけれど、同じ言葉がいろんなところに散らばっていてもいいとは思ったんです。だから“顔”とか多かったり、なんかそういうキーワードみたいなものは出てくるんですよね。」
──この歌詞の景色っていうのは明確に見えていたんですか?
「今回は何処でもない場所にしたかったというのは大きかったですね。『drifting devil』はまだ特定できるというか。」
──なおかつ冬の風景がお好きだなと。
そういう殺伐とした感じというか、『drifting devil』とはまた違う意味の空気が張りつめていて。しかも死の臭いがするわけです。
「そうですね、やっぱり死のことを考えることは避けられないですね。作っているときに関わらず日々避けられない。子供のときからそうでなんか癖みたいなものなんです。。」
──最初の質問に戻るんですが、シンガーソングライター・アプローチの今作は非常にポップなアルバムに仕上がったとも思うんです。ただ当の英子さんは何処までポップさというものを意識しているんでしょうか?
「私自身、ポップなものは好きなんですよ。ポップなものを作ろうと思って作っているのかどうかはわからないんですけど。ただ歌を伝えようと、メロディをちゃんと作ろうと思ったらポップなものに必然的になるというか。音楽の中でやっぱりメロディは大事だと思いますね。正直『Works
for Everything』を作ったときは、こうして歌いながら続けていくなんて思ってもいなかったので(笑)。」

ishibasi07
──歌うことって楽器プレイと違って積極的にじゃないとできないですよね?
「できないですね、やっぱり。」
──歌ものという意味ではアチコさんとご一緒されたり、他にもいろんな可能性もありますが、ご自身で歌うということとどのように線引きされていますか?
「自分で作った作品ってことを考えたらやっぱり自分で歌うしかないですよね。アチコさんと一緒にやるときはアチコさんのために作っていますから。」
──相変わらずご自身の声はあまり好きじゃないんですか(笑)?
「う~ん、残念なことにそれは(笑)。」
──良い声だと思うんだけれどなぁ(笑)。
「みなさんがどう感じられるかはともかく、まだ慣れないですね(笑)。なんかね、スピーカーを通すと自分の声って違って聴こえるし…。ただコーラスの作業は好きなんですよ。コーラスになると歌うという感じじゃなくて、自分の声というんじゃなくて楽器的に捕らえられるというか。コーラスは自分にとっては別の作業なんです。」
──「shadow」のウィスパーコーラスとか少しセクシーな感じもして凄い良いと思うんですよね。
「なんか違う人になれるのかな?
自分じゃない気がする。やっぱり言葉を持って歌うと自分になっちゃうんですよね。コーラスだと言葉もはっきり歌う必要もないし、それこそ宇宙人になったつもりでやれます。」
──今回歌声が随分と前に出たなぁと思ったんですけど、ただ『drifting devil』も改めて聴き直すとちゃんと歌を中心としたミックスでした(笑)。
「うん、『drifting devil』も結構歌を前に出したんですよ。ただ今回は楽器が少ない分、前の作品よりも前に出ている印象で聴こえるんでしょうね。」
──『carapace』の楽曲はまだまだ変わっていく可能性があると思うんですね。実際昨年バンドで演奏されたWWW公演も凄く良かったですし。この先どういう風に歌い継いでいくつもりですか?
「元々“独りでも伝えられるもの”っていうのは考えていたので、弾き語りでツアーをやっても大丈夫な感じにはなると思います。ただ勿論バンドだからこそできることもあるのでバンド編成でもやりたいですね。」
──達久さんのドラミングって観るたびに感銘を受けるんですが、WWW公演のときにはフロアタムの底にバスドラペダルをつけて踏んでいて。ああいう柔軟な発想でのドラミングはつくづく凄いなと。
「実は昨年9月にジムさんのバンドで演奏したときに、あのスタイルで演奏したんですよ。考えてみたらあのときとまったく同じメンバーで演奏しているんですよね。みんなで「ツアーができるね」って話をしていたんですよ。行きは私のバンドでやって、帰りはジムさんの曲を演るバンドになるという(笑)。」
──WWW公演を観て“英子バンドだ!”って感じがしたんですよ。ジムさんと達久さん、須藤さんというラインナップはちょっと代わりのメンバーがいない感じがするというか。
「うん、即興でやるっていうのとは違って、アンサンブルをガチッと組んでいく感じですよね。みんな言葉数も少ないし…達久さんだけちょっと違うけれど(笑)。」
──『carapace』が2011年1月に出たわけなんですが、国内ロックシーンの10年代の幕開けを飾るというか、凄く意味がある作品って気が個人的にはしています。
「でもこの間まで00年代とか言われていましたけれど、私はまだ来ていないと思っていましたからね。みんな音楽的にも90年代を引きずっていた気がしたし。ここに来て“ようやく21世紀の新しい感じが来るかな”って気がしているんですよ。」
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carapace
  • 2011.01.06 On Sale
  • FCT-1006 / felicity cap-117
    [CD] ¥2,500 with tax

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  • shortcircuit
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PROFILE
石橋英子Eiko Ishibashi
石橋英子ロングインタビュー~音楽に自分を捧げる感じというか、嘘じゃないものを作りたかった茂原市出身の音楽家。いくつかのバンドで活動後、映画音楽の制作をきっかけとして数年前よりソロとしての作品を作り始める。その後、4枚のソロアルバムをリリース。ピアノをメインとしながらドラム、フルート、ヴィブラフォン等も演奏するマルチ・プレイヤー。シンガー・ソングライターであり、セッション・プレイヤー、プロデューサーと、石橋英子の肩書きでジャンルやフィールドを越え、漂いながら活動中。最近では長谷川健一、前野健太、トンチ、オウガ・ユー・アスホールの作品に参加。またソロライブと共に、バンド「石橋英子withもう死んだ人たち(ジム・オルーク、須藤俊明、山本達久、波多野敦子)」としても活発にライブを行う。

http://www.eikoishibashi.net/
http://twitter.com/Eiko_Ishibashi
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carapace
  • 2011.01.06 On Sale
  • FCT-1006 / felicity cap-117
    [CD] ¥2,500 with tax

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