INTERVIEW

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カフカ鼾 『nemutte』 スペシャルインタビュー

  • 2016.10.07

カフカ鼾 『nemutte』 スペシャルインタビュー

text: 村尾泰郎

石橋英子、ジム・オルーク、山本達久によるユニット、カフカ鼾。ファースト・アルバム『okite』はライヴ音源をもとにしたものだったが、2作目となる新作『nemutte』はスタジオ・レコーディング。そこには彼ららしい仕掛けがあって、即興と作曲、過去と現在の境界が融け合った不思議な音楽が紡ぎ出されていく。聴く者を異次元へと誘う『nemutte』はどのようにして生まれたのか、3人に話を訊いた。

― 前作『okite』はライヴ音源をもとにしたアルバムでしたが、今回のアルバムはスタジオでレコーディングしたそうですね。
山本 3年前くらいにスタジオで録音した音源があって。その1年後に、それを聴きながら演奏したんです
ジム 2回目のセッションでは、英子さんと私は別の楽器を使った。オーヴァーダビングだけどオーヴァーダビングというつもりじゃない
石橋 意図的に音を重ねたわけじゃないということだよね
ジム (最初の音源は)時間が経ってるから初めて聴いたのと同じこと。3人の幽霊と一緒に演奏する感じ

― 3年前の自分達と共演したんですね。面白い。事前に聴き直して、この音源が面白いからやってみようと?
石橋 聴き直したりはしませんでした。事前に聴いてたらオーヴァーダビングになっちゃいますけど、(以前、どんな演奏をしたのか)忘れた状態で演奏したから全然誰かわからない人と即興演奏した様な感覚でした。
ジム 即興とオーヴァーダビングの間の変な感じ
石橋 そう。時空が歪むっていうか。過去に自分が演奏したものは、もう自分が演奏したみたいじゃないから、それは匿名な、なんだかよくわからない音楽としてある
ジム (演奏している時は)1年前の英子さんは今これをやってる。多分あっちに向かう。でも、今の英子さんはこっちにいる。多分あそこに向う。だから私はここに向かう。あ、1年前の英子が実はそこに行かなかった!(笑)。それで自分の演奏が壊れる
山本 俺はゲームっぽくて面白かったですね。こうなるだろうと思ってたら、1年前の自分達に裏切られたりして

― セッションの時は過去の自分達とあわせて6人いるわけですね。
ジム 最後にミックスしますが、その時は6人じゃない。4人の時もあるし、2人の時もある。2人のタツ(山本)が出る時、4人のタツが出る時もある。それは私や英子さんも同じ
石橋 ミックスで再構築するんです。トラックをパズルみたいに組み立てていく
山本 バンドで演奏しているように聞こえても、一緒に演奏していたわけじゃないんですよ
ジム 例えばドラムだけでも、スネアは3年前、シンバルは2年前
石橋 それぞれの演奏や音を原子だと考えると、いろんな組み合わせによって分子が出来上がって、それがひとつの作品になっていった感じですね。出来上がったアルバムを聴くと、〈あれ、こんな演奏したっけ?〉って
ジム 本当は全部私が演奏してます
石橋 そういうことでも良いと思います(笑)
ジム 冗談、冗談(笑)

― でも、ミックスはジムさんひとりでやったんですよね?
ジム そうです

― ミックスする時に心掛けていることはありますか?
ジム 音楽からミックスのやり方を訊きます。音楽に私のミックスの考え方を押し付けません
石橋 自分のセオリーを音楽に押し付けるのではなく、音楽を聴いてどうミックスするかを考えたっていうことかな
ジム そうです。例えば芝居の演出家が、脚本を読まずに照明を決めることは出来ない。脚本を読んでから〈あの照明をあっちに置こう〉と決めます。それが私のミックスの考え方

― 脚本を読む、つまり、音源をしっかり聞き込むことが重要なわけですね。
ジム はい。いっぱい読みました
石橋 トラックごとに音を全部聴いたんだよね。1年くらい聴いてたんだっけ?
ジム 1年くらいでしょう。その1年の間に地味な編集をして、いろいろなストラクチャーを作って。それで良いと思ったらミックスを始めます

― 空間の奥行きを感じさせる立体的なミックスですね。抽象画のように音の配置が散りばめられていて。
ジム 私のミックスはいつもそう。ただ、英子さんのレコードをミックスする時、ベースはこっち、ドラムはこっちと同じようにミックスする。でも、このレコードではドラムはビートを鳴らすだけじゃなくて、もっと抽象的に扱うことができる
石橋 楽器の特性から離れて自由に配置したってことです。いつもジムさんのレコードは3Dっぽいけど、例えば前野(健太)さんのアルバムをミックスする時に、ヴォーカルを変な場所に配置するわけにはいかないですよね
ジム 気持ち悪い歌詞の時はこっちに(笑)

― 確かにそれはマズいですね(笑)。石橋さんや前野さんのアルバムだと、ヴォーカルを中心に置いたミックスになるから抽象的な音の配置はできない。
ジム はい。人が歌うレコード、という文脈から離れたミックスだと変になる。今回のレコードはそういう文脈がないから、もっとフリーにミックスできました
山本 ベースとピアノがベーシックな音を作っている時に、まわりにドラムがドレッシングされていたりね

kafuka2

― そういう自由度の高いサウンドでありながら、アルバムには大きな流れというか、ストーリーを感じさせます。そうしたストーリーはどんな風に見つけ出していくのでしょうか。
ジム 私のストーリーじゃない、カフカ鼾のストーリーを見つけたかった。変なミックスをしたら、私達の演奏のスパークは消えるでしょう。私達の演奏の感じを出したいと思った
石橋 (ヴェルナー・)ヘルツォークがドキュメンタリー風の物語を作るのと、ちょっと近いと思う。ドキュメンタリーをドキュメンタリーのように作るんじゃなくて、ドキュメンタリーを物語のように作るっていうか。ジムさんは〈よりリアルなサウンドにするためには、どういうミックスをしたらいいのか〉っていう模索をしたんだと思います

― アルバムの中でドキュメントとフィクションが融合しているわけですね。
石橋 演奏の瞬間的なきらめきみたいなものをパッケージするのと同時に、作曲性というかコンポーズされたものが持つ、ひとつの世界観を作り上げていく過程を大事にしたいですね。あと、匿名性のある音楽だと思うんですよね。誰がやったってことが重要じゃなくて、どこからやってくるのかわからない音楽というか。でも、音楽が持つ魅力って、そういうものが一番大きいんじゃないかなって思うんですよ。そういものを出来るだけ多く作りたいっていうのが、このプロジェクトの意味だと思うし」

― 即興演奏が目的ではなく、ひとつの手段というのがカフカ鼾の基本姿勢ですよね。
山本 即興演奏から何か面白いものが生まれるんだったらやりたいけど、即興演奏のための即興演奏っていうのは身体がこわばっちゃうというか
石橋 ぞっとしますね。〈俺、俺〉って主張しているみたいで

― そういう3人だから、即興演奏をしても〈俺、俺〉にならないんでしょうね。この3人で演奏する魅力ってどんなところなんでしょうか。
山本 長年やってるんで、手の内がわかるし、それを裏切って来る。みんな好奇心旺盛なんで、いろんな新しいものとか、今の気分とかが反映されたりして。でも、裏切れるっていうのは信頼があるからこそだと思うし
ジム 裏工作(笑)
山本 裏工作、ハンパないですから(笑)。わざと俺がそういう演奏をするように持っていったりとか
ジム 恐喝(笑)
山本 恐喝(笑)。みんな作戦があるんですよね。でも、〈今日はどの作戦かな?〉っていうのはわかんない。その作戦が最後までわかんないときもあれば、途中でわかるときもあるし。でも、普段あんまり一緒にやってない人って、作戦があるかどうかもわかんないし、その人がどういう人かもあんまりわかんない。もちろん初めましてセッションじゃないと出来ないことがるというのが前提ですが。やっぱり、演奏は音と一緒にやってるんじゃなくて、人間と一緒にやってるから
石橋 〈今から音楽をやろう〉って改まらなくても、すっと演奏できるんですよ、カフカ鼾なら。〈明日からツアーに出ようか〉って急に決めても出れちゃうし。だからといって緊張感がないわけじゃない。あるんですけど、その温度感がちょうどいいんです。音楽は本来そういう限られた人間のなかで作られるものだと思うから、こういう形は本来バンドとしてあるべき姿という感じもしますけどね
ジム 私も同じ意見

― そうして3人から生まれた演奏を、ジムさんがミックスでまた新しいものに作り上げて行く。そういうプロセスに興味を持つきっかけって何かあったのでしょうか。
ジム 若い時にテオ・マセロから大きな影響を受けました。テオ・マセロがやったマイルス・デイヴィスのアルバム、『ビッグ・ファン』『ゲット・アップ・ウィズ・イット』。その後、興味はテープミュージックに変わっていったけど、そのテクニックをなぜほかの音楽で使わないのかと思った。あと、フランク・ザッパの『シーク・ヤプーティ』。レコードのなかで〈この曲のベースはアイスランドのライヴ、ドラムは別の場所のライヴ〉と説明していて〈そんなことができるのか!〉って驚きました。テオ・マセロとフランク・ザッパは〈そういうテクニックを使うことができる〉という影響を受けました

― なるほど。そういうプロセスは前作でもありましたが、今回は前作以上にミックスでの変化が大きいと思われます。出来上がったアルバムを聴いて、山本さんと石橋さんはどんな感想を持たれました?
山本 初めて聴いた時は〈これ、誰?〉でしたね。まあ、忘れちゃってるっていうのもあるんですけど。あと、音が良いから疲れなくて何度でも聴ける。続けて何回か聴いちゃいました
石橋 私も全然知らない人から音楽が送られてきたと思いました。(笑)

― 2人とも新鮮な気持ちで新作を聴くことができたと。
石橋 そうですね。(ジムさんに向かって)ありがとうございます(笑)
ジム (姿勢を正して)いえいえ

― ジムさんは聴き直したりしています?
ジム 私? ミックスが終わってからは聴かない。それまで300回は聴いたから(笑)。今はもう全然聴かない
石橋 じゃあ、1年後に聴いてみよう(笑)

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nemutte
  • 2016.10.05 On Sale
  • PECF-1141 / felicity cap-258
    [CD] ¥2640

<TRACK LIST>

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PROFILE
カフカ鼾Kafka's Ibiki
カフカ鼾 『nemutte』 スペシャルインタビュー

2013年元日に目覚めたばかりのニューカマー。
ジム・オルーク (Synth, Guitar, Guitar) 、石橋英子(Key, Piano)、山本達久 (Drums)という説明無用のトリオ編成。まだ指で数えられるライブ本数ながら全てのライブでオーディエンスを熱狂の渦に巻き込んでいる噂のバンド。100枚限定で即完売したCD-RとBandcampで音源を発表。Bandcampで発売を始めた途端、日本のみならず、海外の音楽サイトで取り上げられるなどすでに世界規模で注目を集めている。


【Info】

felicity HP
https://1fct.net

カフカ鼾 Bandcamp (音源視聴もできます)
http://kafkasibiki.bandcamp.com/album/kafkas-ibiki

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    [CD] ¥2640

<TRACK LIST>

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