INTERVIEW

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リミックス大好き族のための『編集と再構成』考察

  • 2014.05.02
今年3月に発売されたやけのはらによる初のリミックス・アルバム『SELF-PORTRAIT』。全15曲、中村一義やメレンゲ、奇妙礼太郎からランタン・パレードなど、さまざまなアーティストに提供したリミックス楽曲をひとまとめにした本作は、彼なりのリミックス=編集という観点を捉えるにはうってつけの1枚でしょう。本作のリリースを記念して、このアルバムの大きなテーマでもある“編集と再構成”をテーマにしたトーク・ショーを、タワー・レコード渋谷店で開催しました。その模様をテキストで再録してお送りします。やけのはらが考える“編集と再構成”とは? 我々が目下突き詰めなければならない“編集道”とは? そして、もちろん本稿も“編集と再構成”そのものなのであります。

編集・構成/高橋圭太 a.k.a. shakke



やけのはら 「はい、こんばんわ。やけのはらと申します。お集りいただきありがとうございます。本日は“リミックス大好き族のための『編集と再構成』考察”と題して、ここタワー・レコード渋谷店さんの一角をお借りしてしゃべっていこうと思うんですが」

shakke 「こんばんわ。本日、聞き手を務める音楽ライターの高橋圭太ことシャケです。よろしくお願いします」

やけのはら 「よろしくお願いします。この度ですね、わたくし、3月にリミックス盤を出しましてですね。そのことにも触れつつ、そもそもリミックスとはどんなものか、っていう話ができればと思ってるんですけど。リミックスって簡単に言うと、オリジナル・ヴァージョンに対するアナザー・ヴァージョン、ニュー・ヴァージョンってことなんですが……まぁ、1000年前にはない文化でしょ?」

shakke 「あぁ、でも替え歌みたいな文化はきっと昔からあったでしょうからね。とはいえ、今日話したいリミックスのカテゴリーからは離れちゃう気がします」

やけのはら 「昔は音楽を残す手段として、譜面しかなかったわけですよ。それが、現在のリミックス時代には音の素材を抜いてみたり、自分の音を足したりできるんです。さて、それはなぜできるのかわかる?」

shakke 「音が録音されてるからですかね?」

やけのはら 「そう、正解。じゃあ、なんで録音できるのかっていうと……くわしい原理はちょっとわからないんですが」

shakke 「でも、音を録音できるようにしたえらいひとがいるっていうことですよね」

やけのはら 「話が早いね! そう。その発明をしたのがトーマス・エジソンさんです」

shakke 「エジソンからですか? だいぶさかのぼりますねぇ」

やけのはら 「いや、でもこれは重要な話ですよ! リミックスってのはその音が録音されてナンボなわけじゃない。音楽のおぼろげな記憶をおぼろげな記憶で作り直したって、それはリミックスじゃないわけでしょ? そういう音の素材があることで、ありがたいことにこういうリミックス盤を出させてもらえたってことなんですよ。でね、ここらへんは基本部分なんで駆け足で進めたいんだけど、エジソンさんが1877年にレコードの基礎になるものを作ったとされてまして。まずちょっとこれを聴いてもらおうかな。トーマス・エジソンが人類の歴史のなかではじめて録音した音声というものが残ってますので、聴いてください」

Thomas Edison and the Phonograph
http://youtu.be/fnGsHx7QD2o


やけのはら 「はい、エジソンさんに拍手! これが1877年に世界ではじめて録音された音声ですね。余談だけど、ちなみに1977年のレコードとかを中古で買うと、レコード生誕100周年のロゴとかついてんのよ。当時のキャンペーンなんだろうけどね。で、その後、SPレコードっていうものができたり、レコード自体も塩化ビニール製になったりして、庶民にもそういった複製音楽が手に入りやすくなってきます。そこでまた時代が動きます。今度は録音機材の進化ですね。マルチ・トラック録音というのが可能になってきます。要するに、それまでひとつのマイクでバンド全体の演奏を録音していたのが、何個ものマイクで同時録音できるようになったってことですね。ビートルズなんかも早い段階でマルチ・トラック録音をはじめてたりします。それはどういうことができるかっていうと、ベ ースの音、ドラムの音、ギターの音、ボーカルの音をバラバラに録音して、いっしょに鳴らすことによって同時に演奏しているように聴かせられる、ということなんですよ。で、その仕組みを使っておもしろい試みをしようとしたひとたちがカリブのほうにいたわけです」

shakke 「ジャマイカのレゲエをやっていた音楽家たちですね」

やけのはら 「そうです。そのレゲエをやっていたひとたちは偶然気づいたわけですね。マルチ・トラックで録音した素材を抜き差しすることで……たとえばボーカルの部分を消してみたり、ベースの音量を大きくしたりすることで、おもしろい作用が生まれるってことを。それをレコードにしてダンスホールでかけたら盛り上がったんですよ。これはいけるぞと」

shakke 「それがダブという音楽スタイルの発祥ですね。ここでダブがどんなものか聴いてみたほうがわかりやすいと思うんですが、先に原曲を聴いてもらいましょうか。ロード・クリエイターというシンガーの“Kingston Town”という曲です。どうぞ」

Lord Creator - Kingston Town
http://youtu.be/GvDZ8U-7A1A


shakke 「この原曲をよく聴いといてくださいね。次にかけるダブ・ヴァージョンとどう違うか聴き比べてもらいたいので」

やけのはら 「こちらはもちろん歌も入ってて。じゃあ、ダブのほうを聴かせてください」

shakke 「はい。次にかけるのはザ・ダイナマイツの“Kingston Dub Town”という曲です。ザ・ダイナマイツというのは、さっきかけたロード・クリエイター“Kingston Town”の演奏をしているバック・バンドの名義ですね。では、ちょっと聴いてみてください」

The Dynamites - Kingston Dub Town
http://youtu.be/gbaXpuxMPk4


やけのはら 「(イントロを聴いて)さっきといっしょじゃん、シャケちゃん」

shakke 「もうすこし聴くと差異が……ほら、ボーカルにディレイがかかったりしてるでしょ? で、歌の部分もだいぶ削ってたりしますね。このダブ・ミックスを施したエンジニアがキング・タビーというひとです。このひとやリー・ペリーというひとがダブの創始者たちだと言われてますね。そもそもダブというのは、ダンスホールで音楽をかけるひとがマイクを持ってお客さんを煽りやすくするためにできた“ヴァージョン”という形式……つまり、歌を抜いたインスト・ヴァージョンですね。その発展として生まれた音楽スタイルでして」

やけのはら 「なるほど。ダンスホールでプレイされやすくするために、こういった形になったと。では話を進めましょう。1970年代にアメリカで流行したディスコという音楽の話です。ソウルやR&Bなどのブラック・ミュージックが、ゲイ・カルチャーと接近し たりしていろいろありつつ、大きなサウンド・システムで鳴らす、踊らせることに特化した音楽スタイルとしてディスコという音楽が出てきます。で、当時の7インチのシングル盤って3分とか4分しか入らないのよ、メディア的に。ちょっとDJの気持ちになって考えてみて? 3分とか4分の曲をかけて盛り上がるとするじゃん。で、その曲が終わったらまた次の曲かけるじゃない。3分とかだとさ、その盛り上がってる時間を持続させるのがむずかしいわけですよ。そこで、その盛り上がりをキープさせるって発想が生まれたの。っていうのはつまり、同じレコードを2枚使って、盛り上がる部分を何度も聴かせるっていうアイデアなんですね。で、それが発展してくると、“最初からその盛り上がり部分を反復させたレコードを作ればいいんじゃないかな?”って考えるひとが出てくるわけですよ。ダンサーの需要を満たすアレンジに変えたいって欲求が出てきたの。で、さっきのダブの話が各パートの抜き差しのみっていう縦軸の話だとすると、今度は時間の長さっていう横軸の変化も 伴ってきてるということなんです。それがリエディットと呼ばれるような手法なんだけど。というところまで話したので、そろそろ1曲聴きましょうか。その当時、最初にリエディットをしたと言われているトム・モールトンというひとの曲です」

shakke 「ニューヨークのひとですね」

やけのはら 「そうですね。同じ時期にウォルター・ギボンズというひとだったり、ニューヨークの初期のDJたちが編み出したんですよ、前例のないところから。だって、それまで考えられないじゃん。演奏するひとが決めた構成を無視して、録音したあとに勝手に変えちゃうってのは。当時からしたら、だいぶ斬新な発想だよね。じゃあ初期のディスコのリエディットから1曲かけましょう」

shakke 「はい 。じゃあスリー・ディグリーズというグループの“Dirty Ol' Man”という曲なんですが、それをさっき言ったトム・モールトンがエディットしたヴァージョンを聴いてみたいと思います」

The Three Degrees - Dirty Ol' Man (Tom Moulton Remix)
http://youtu.be/-3aixEwma84


shakke 「この曲、原曲は4分30秒ほどなんですが、このトム・モールトンのエディットは8分22秒なので、ほぼ倍くらいに楽曲の尺を伸ばしてますね」

やけのはら 「基本はイントロがあってAメロ、Bメロ、サビ、間奏があってまたAメロみたいな構成だとして、それをイントロ、イントロ、Aメロ、間奏、サビみたく好きな形に並べ替えてしまうと。で、これが当時のディスコのお客さんの需要を満たしたわけですね。そこから本来は7インチのドーナツ盤でリリースされるシングルが、より収録時間の長くて、かつ音質もいいとされている12インチのレコードでも発売されるわけです。スタイルの進歩にあわせてフォーマットも変わっていくんですね」

shakke 「まだこの時代はテープ・エディットという、テープを文字通り切り貼りするという手法で作ってるということも重要ですよね」

やけのはら 「テープを見たことのない世代にテープを説明するのがむずかしいんだけど……まぁ、細長い海苔?」

shakke 「ハハハ。間違ってはないですけど」

やけのはら 「そんな形状をした磁気の録音母体が長方形のプラスチック・ケースに収まってるのが家庭用のカセット・テープなんですけど、それのもっと大きいものですね。オープンリールって呼ばれてたりするんですけど。で、それを物理的にカッターで切って、専用のテープでくっつけるっていうね。それこそ1ミリでもズレたらリズムがズレちゃうので、ほんと気が遠くなる作業です。職人的な技術が必要だったし、当時のエンジニアは手にダラダラ汗を流しながらやってたっていう、それくらい大変な作業だったと。そんな大変な思いをしながら作っていたエディットも、サンプラーという機械が誕生してからは、そこまでの苦労をせずとも音楽の再構成ができるようになります。サンプラーっていうのは録音した音源をプログラムによって繰り返せるという機械ですね。80年代に入ると、そんなちまちまテープの切り貼りするんじゃなくって、サンプラーを使って……まぁ、サンプラー自体はいまでもあるし、PCの音楽制作ソフトにもそういった機能が取り入れられてるんですが、30年前のサンプラーはやっぱり技術的に機 能の制約が多かったりもして、その制約のなかで、どうアイデアを練るかっていうのが肝だったんですね。まぁ、そういった音楽が80年代以降、どんどん生まれてきます」

shakke 「そういったテープ編集とサンプラー文化の過渡期にメガ・ミックスという文化も誕生していたりして。これはラジオ・プロモーション用に作ったメドレーみたいなもんですね。そのメガ・ミックスをより先鋭的に拡張した代表がダブル・ディー&ステインスキーというユニットの『Lesson』シリーズです」

やけのはら 「じゃあ、それも聴いてみましょうか。これは1985年の作品ですね。これはブートレグで発売されたんだよね。権利を取らずに勝手にメガ・ミックスにしたっていう作品ですね」

Double Dee & Steinski - Lesson 1
http://youtu.be/cog0EBuBtcs


shakke 「これは5分20秒のあいだに24曲の楽曲を織り込んでるそうです。で、同様のグループでニューヨークにラテン・ラスカルズというひとたちがいまして、彼らも同じようにメガ・ミックスの代表格と呼ばれていますね。こういったメガ・ミックスのスタイルが人気を集めるなかで、その進化形ともいえる、リミックス文化的にも画期的な楽曲が発表されます。エリック・B&ラキムというヒップホップ・ユニットの“Paid In Full”という曲を、コールドカットというイギリスのユニットがリミックスしたヴァージョンです」

やけのはら 「コールドカットは先ほど聴いてもらったダブル・ディー&ステインスキーに大きな影響を受けたと言ってますね。そもそもヒップホップっていう音楽自体がすごく編集的って話もしたいんだけど、それはまたおいおい。とりあえず聴きましょうか、彼らの楽曲」

Eric B & Rakim - Paid In Full (7 Minutes of Madness Remix)
http://youtu.be/z5iiEtFL69I


やけのはら 「はじめの声はコールドカットさんが言ってるんですか?」

shakke 「いや、これはサンプリングですね」

やけのはら 「ドラムも本人が叩いてるわけじゃないの?」

shakke 「そうですね。サンプリングです」

やけのはら 「(中近東風の女性ボーカルを聴いて)あ、じゃあこれがコールドカッ……」

shakke 「サンプリングですね。こういったタイプのリミックスって当時は非常に画期的で、リミックス文化にアーティスティックな感性を持ち込んだという意味ではすごく重要な1曲だと思いますね」

やけのはら 「アーティスティックな感性! ジャーナリストっぽいね! まぁ、これまで紹介したものはもとの演奏ありきのものだったんだけど、この曲はより原曲が不明瞭になってますよね。サンプラーの登場以降はリミックスもそういう時代に突入すると」

shakke 「そうですね。で、この曲の元ネタもすこし紹介したいんですが、はじめのほうで聴こえる中近東風の女性の歌。印象的だったと思うんですけど、それはこの曲からのサンプリングです」

Ofra Haza - Im Nin'alu
http://youtu.be/pkr1V9RZpi8


shakke 「イスラエルの女性シンガーでオフラ・ハザというひとの曲ですね。いちばん最初に聴こえた男性の語り部分はこちらです」

The Journey Into Stereo Sound
http://youtu.be/DEJaqc28eZQ


shakke 「これは1958年にステレオ方式のLPレコードの販売促進用に作られた効果音集みたいな作品だそうです」

やけのはら 「こんなの、コールドカットさんもよくみつけてきましたね」

shakke 「こういった細かいサンプリングを1曲のなかで23曲も使ってるんですよ。この曲が後進に与えた影響はかなり大きいんじゃないかと思いますね、リミックスに限らず」

やけのはら 「いまの効果音のレコードみたいに、いかにだれも知らないところからおもしろい素材をみつけてくるか合戦みたいなこともこの時期から盛んになってくるわけですね。でも、これって法律的にはグレーっていうか、厳密に言うとサンプリングの許可を取ってないからアウトなの。ただグレーであるがゆえのおもしろみっていうのも確実にあるんですよね。ポップ・アートというか公共財産と解釈して勝手にやっちゃうっていう。いまとなってはサンプリングされることによってプロモーションにつながるっていう、一応の方便もできるわけですけどね」

shakke 「で、この時代以降はアンダーグラウンドというか、エッジーなアーティストたちがサンプリングのおもしろさでしのぎを削っていくわけなんですが、それとはまた別の軸で、そういったアーティストに影響を受けたメジャーな音楽家もリミックスの手法を取り入れだしたりします。80年代の中期ですね。その代表的な例がマドンナです」

やけのはら 「マドンナの作品にはジェリービーンっていうプロデューサーが関わったりして、70年代のニューヨークのディスコ・カルチャーとも地続きなわけですよ。そのころにはディスコの文化もより商業的になってるんだけど、文脈としてはしっかりつながっているっていうね。とにかく80年代中盤になると全米ナンバー1を取るようなアーティストもリミックス文化を取り入れたり、12インチのシングルを発売したりするんですね」

shakke 「そうです。で、それまでのディスコ・エディットをしていたトム・モールトンやウォルター・ギボンズらはエンジニアとして制作に関わったり、フリーランスとしてエディットの依頼を受けたりしていたのに対して、マドンナの“Material Girl”のリミックスを制作したジェリービーンはメジャーのレコード会社と契約したはじめてのリミキサーになるわけです」

やけのはら 「じゃあプロのリミキサー第1号だ」

shakke 「そういうことになりますね。じゃあ、そんなジェリービーンのリミックスを聴いてもらいましょう、どうぞ」

Madonna - Material Girl (Jellybean Dance Remix)
http://youtu.be/fho10sfhsBA


やけのはら 「これがプロの仕事だね。さすがだなぁ」

shakke 「これが1984年ですね。このころになると大手レコード会社もリミックスというものがビジネスになると踏んで、いろいろなアーティストがリミックスを取り入れだします」

やけのはら 「トム・モールトンの時代からくらべると、よくも悪くも整理された感はありますね。この曲とかはあからさまに洗練されてるっていうか。さっきの横軸と縦軸の話というよりは、より編曲の領域に近づいてきてますよね」

shakke 「ジェリービーンのリミックス、もう1曲聴いてみましょう。次はデヴィッド・ボウイです。こちらも1984年の楽曲ですね」

David Bowie - Blue Jean (Extended Remix)
http://youtu.be/jHR314pMQYI


shakke 「このころになると、みなさんが80年代の洋楽サウンドとして連想するような音になってると思うんですが、そのイメージにもすでにダンス・ミュージック感ってありますよね。ざっくりと80年代感って言っちゃいますけど、そのイメージにジェリービーンらが与えた影響はだいぶ大きいんじゃないかなと思いますね」

やけのはら 「トム・モールトンからジェリービーンまで、ニューヨークのディスコ経由でリミックスを語ってきてるんですが、またすこし時代を先に進めますと、次にぶち当たるのがハウスです。80年代末から90年代初頭にかけての最新のカッコいいダンス・ビートはやっぱりハウスだったわけです。ハウスのルーツはやっぱりディ スコですから、当然ダンス・リミックスとも相性がいいと。ここでニューヨークの典型的なハウスのリミックスを聴いてみたいと思うんですが、シャケちゃん、なにかありますか?」

shakke 「デヴィッド・モラレスというニューヨークの著名なDJ兼プロデューサーの作品を聴きましょうか」

やけのはら 「はい。このひともジェリービーンといっしょで、ビッグ・アーティストのリミックスをかなりの数やってますね。日本でいうとなんですかね? ミスチルとか? ミスチルっていうのも古いかな? とにかくミスチルとも仕事してるし、浜田省吾とも仕事してるし、浜崎あゆみとも仕事してる、みたいな立ち位置ですね、日本人にたとえると」

Jamiroquai - Space Cowboy (David Morales Classic Mix)
http://youtu.be/pO58GMcrcrQ


やけのはら 「これがハウスですね。ディスコが打ち込みになったというか。この曲もイントロが長いから説明したいんだけどさ、ディスコ・エディットの時代からイントロが長くなるっていう構成が主流なんですけど、その理由はって言うと、それはひとえにDJ用に計算された作りになってるってことなんですよね。DJがなにをやってるかというと、2つの音楽を混ぜてるわけ。Aの曲からBの曲へスムーズにつなぐ、ってことですね。これは踊っているひとの足を止めないためです。だからイントロとアウトロにリズムの余白を作ることで、曲から曲へうまくつなげることができるっていう」

shakke 「なるほど」

やけのはら 「で、この曲とかは基本的にボーカル以外は大幅に改変してます。原曲はもっとゆったりした曲なんですよね。デヴィッド・モラレスさんはその原曲を大胆にハウス調にアレンジしたと。ここらへんから一般的にいまのひとにも連想しやすいリミックスの形が確立したんじゃないかな。その形式は日本にも輸入されて、いろんなアーティストがリミックス・ヴァージョンを作るっていう流行が生まれましたね。端折っちゃったけど、テクノでもそういうのがあって。たとえばBUCK-TICKがエイフェックス・ツインにリミックスを頼んだりとか……」

shakke 「で、後にその楽曲をエイフェックス・ツイン自身がボロクソに言うっていう……」

やけのはら 「そうそう……その話いる? BUCK-TICKさんに失礼だろ!」

shakke 「ハハハハハハハハ!」

やけのはら 「まぁ、そういうのもあったり、日本でもリミックス・カルチャーが定着していくと。時間がないから今日はかけられないけど、小泉今日子さんだったり、日本のポップスのひともリミックス・アルバムを出したりしたんですね。で、90年代の後半には本格的なリミックス・ブームが到来します。具体的なリミックスの総数とか調べてないから印象論なんですけど、リミックス・アルバムが大ヒットするっていう現象が起きるんですよ。その代表的な例が、20代後半くらいのひとは覚えてるかもしれないんですけど、アニメ『ルパン3世』のテーマ曲や挿入歌をリミックスしたアルバム『PUNCH THE MONKEY!』シリーズですね」

shakke 「シリーズ1作目のリリースは1998年ですね」

やけのはら 「これは日本のリミックス・カルチャーの歴史のなかでもトップ・クラスの売り上げだったんじゃないですかね」

shakke 「じゃあ、そのアルバムから聴いてもらいましょう。『PUNCH THE MONKEY!』から、当時まだピチカート・ファイブだった小西康陽さんがリミックスを担当した曲です」

Theme From Lupin The 3rd(The Readymade Young Oh! Oh! Mix)
http://youtu.be/i-Vc8stSHPQ


やけのはら 「小西さんは当時ものすごい量のリミックスをやってた記憶がありますねぇ」

shakke 「ここでおもしろいのは、90年代後半になると、さっき紹介したハウスの文脈とはまた別のリミックスのスタイルができているっていうことですよね」

やけのはら 「たしかに。歴史としてはディスコの流れから発展してきた文化が多様性を帯びてきたというか」

shakke 「必ずしもダンス・ミュージックに特化しなくてもいい、という流れが出てきたと」

やけのはら 「さて、ここからは2000年代以降のお話ですね。2000年を過ぎると大事件が起きますよ! シャケちゃんの家にも起きたと思うんだけど」

shakke 「インターネットの普及、ですかね?」

やけのはら 「そうです! インターネット常時接続が各家庭に浸透してきたんです! IT革命ですよ!」

shakke 「ひさびさに聞きましたねぇ、IT革命……」

やけのはら 「たとえば、80年代にサンプラーを買おうとしても何百万とかしたわけです。しかも重いし、大きい。サンプリングをしようと思っても数秒くらいしか録音できない、っていう代物だったと。中学生がおこずかいを貯めて買うには300年くらいかかっちゃうわけ。それがIT革命以降、パソコンで音楽がかんたんに作れるようになったんです。中学生だっておこずかいを何年か貯めれば買えるし、サンプリングの容量も格段に増えました。そこでなにが起こるかっていうと、マッシュアップというカルチャーの誕生ですね。これはAって曲をまるまる1曲サンプリングして、Bの曲と合体させるっていう手法なんだけど、その手法を使って有名になったのが2メニーDJズというひとたちですね」

2ManyDj's - Smells Like Bootylicious
http://youtu.be/GXGSBpMHcpA


やけのはら 「これ、バック・トラックはニルヴァーナの“Smells Like Teen Spirit”って曲なんだけど、途中から女性の声が入ってきますね。ボーカル部分はビヨンセがかつてやっていたディスティニーズ・チャイルドというグループの“Bootylicious”って曲です」

shakke 「もうそれだけの曲ですよね。ただ単純に曲を合体させただけっていう」

やけのはら 「自分は世代的に90年代くらいが思春期でヒップホップとかテクノとかハウスが好きだったから、すでにこの時代にはサンプラーとかも知ってたし、自分でやってたりもしてたんですよ。それでも、このマッシュアップって文化が出てきたときは“すごい時代になったぞ……”という感覚がすごくあったんですよね。90年代からブレンドといって、12インチに入ってるアカペラを別のトラックに乗せて、っていうのはあったけど 、それはクラブでリアルタイムでやるってことだったから、こういう風にそれをそのまま曲として出しちゃうってのは斬新だったなぁと。で、2メニーDJズはこういったスタイルのマッシュアップをたくさん作って、DJでもそれをガンガンかけるっていうやり方で人気を得ていくんですけども。ハンバーグ定食のサイドにさらに焼肉、サラダなしって感じだよね」

shakke 「ハハハ。足し算スタイルっていうか。で、2000年以降はヒップホップ的にもブレイク・スルーな事件が起きていて。ジェイ・Zというラッパーのアルバム『BLACK ALBUM』をデンジャー・マウスというアーティストがまるまる1枚マッシュアップします。しかもトラックのネタはすべてビートルズの名作『WHITE ALBUM』という。黒と白を掛け合わせて作ったので『GREY ALBUM』というタイトルがついてます」

やけのはら 「これ、出たのって2004年だっけ? そのときのことまだ覚えてますよ。タイトル、内容含めて、大喜利としてよくできすぎてるっていうさ」

shakke 「この時期くらいから大喜利的な感覚というか、一種のゲームみたいな感覚ってみんな持ちだすと思うんですよ」

やけのはら 「でも、それってさ、マッシュアップみたいなことがだれでもできるようになったことが大きいと思ってて。90年代にサンプラーが手に入りやすい時代が来ても、やっぱりそれは音楽を志すひとたち向けっていうかさ。PCが普及して、だれでも手軽に音楽を作れる状況になったんでしょうね。そのなかで、どんなおもしろいことができるかってみんなが模索していた時期でもあって、そこに大喜利的な大正解が出たっていうことだと思うんだよね。しかも、この作品ってインターネットで無料でダウンロードできるアルバムとしても先駆けですよね。もちろん『GREY ALBUM』以前にもフリーの作品は出てたんだけど、この時期くらいからMP3っていう音楽の圧縮形式で素人含め勝手に作品をアップロードする文化が盛り上がってきた感じはしますね。それに、さっき聴いた『Lesson』シリーズみたいなブートレグの要素が強い作品って、2000年以前まではアナログでリリースすることが主流だったけど、それがインターネットに取って代わったって印象はあるなぁ。もともと無許可だから売りづらいっていう側面もあるから、その意味でインターネットでフリーでアップすることと親和性が高いっていうか」

shakke 「あとは『GREY ALBUM』を出すまでデンジャー・マウスはほぼ無名のアーティストだったわけですよ。それがこの作品をきっかけに世界的な知名度を得るという」

やけのはら 「ある種の売名行為だよね。この作品をフリーでリリースした結果、たくさん仕事が舞いこむことになったわけで。リミックスの話の本筋とはすこしズレちゃうけど、その後の10年につながるようなエポック・メイキングな作品だったんですよね。では肝心の音を聴きますか」

Danger Mouse - Public Service Announcement
http://youtu.be/bqgw8jUrcSA


やけのはら 「さて、リリース作品としてのリミックス・ブームみたいなものは国内、海外問わず2000年を過ぎたあたりで落ち着いてきちゃうんですよね。それこそ、さっきの『GREY ALBUM』以降はみんなが勝手に作って、勝手にアップする文化になったと。12インチに収録されるオフィシャルのリミックスとかを除けば、よりリミキサー自身のプロモーション・ツールになっていくわけです。CDもなかなか売れないし、それならネットにフリーでアップしようかっていうね。そこらへんは自分も頷ける部分がたくさんあって。まぁ、本人が意図してもしなくてもデンジャー・マウス以降の感覚っていうんですかね、それが世界的にも共通認識になってると思います。専業ミュージシャンじゃないけど、自分の作ってる音楽をネット経由で発表するっていうタイプのひとたちは無数にいると。でも、それってそういうひとたちがただ可視化されてるだけなんじゃないかなって気もしてて。ちょっと話がズ レるかもしれないんだけど、〈Beatport〉っていうダンス・ミュージック配信サイトがあって、そこでは世界中のアーティストの楽曲が買えるんだけど、DJのMOODMANさんっていうひとがいて、そのひと曰く“〈Beatport〉ではすべての楽曲がリストアップされて並列化している。でも、それって並列化してるように見えて、見えないところがあるんですよ”と。MOODMANさんは〈Beatport〉で並列化した、その影に潜んでるアフリカ産のテクノとかがおもしろいって言ってるんですよ」

shakke 「おお、素晴らしい」

やけのはら 「つまり、プラットフォームが用意されて、いろんなひとが作品を発表できる時代に、アフリカの伝統音楽とか有名な地元歌手の曲は手に入るようになったけど、現行のテクノのスタイル をやっているアフリカ人には誰もフォーカスしていないっていう話なんですよ。しかも、そういったアーティストはいま流行しているスタイルで音楽をやっているんだけれども、そこにはすごくアフリカ人独特の感覚が滲み出ちゃってるというね。プラットフォームが整理されてるぶん、隅々まで凝視すればおもしろいものが潜んでる、っていう話をMOODMANさんが言ってて、おもしろいなぁと思ったんですよね。だから、現在のリミックス文化のなかでも人気のひとっているじゃないですか。そういうひとに紛れて、まだまだ人知れずおもしろいアーティストはいるんですよね。で、また話の本筋に戻るんですけど、海外のアーティストばっか聴いたから、日本人のアーティストも紹介しようと思ってて」

shakke 「さっき話したIT革命以降のアーティストといっていいと思うんですけど、トーフビーツくんという若いアーティストがいまして。彼のリミックスした楽曲を聴きましょうか」

サイプレス上野とロベルト吉野 - Bay Dream ~From課外授業~(tofubeats remix)
http://youtu.be/iTQtzu_wv2s


やけのはら 「さて、だいぶ駆け足で話してきたけど、エジソンさんからトーフビーツくんまで……進歩したねぇ!」

shakke 「エジソンに感謝しなくちゃいけませんねぇ」

やけのはら 「あたりまえだよ! レコードに針落とす瞬間、いつも“エジソンさん、ありがとう……”ってつぶやいてるよ!」

shakke 「マジっすか?」

やけのはら 「マジだよ! エジソンなめんなよ!」

shakke 「すいません……」

やけのはら 「今日は1時間くらいかけてリミックスについて話してきたけど、技術は進歩しても、今日のトークショーのタイトルにもある通り、“編集と再構成”なんですよ、結局。ある素材に対して手を施すっていうのは、どうしてもそこに対する姿勢やセンスが問われるって作業になっちゃう。テクノロジーの進歩と音楽の発展は密接に結びついてるし、技術革新のおかげでできることも無限に広がるんだけど、根本は変わってないっていう。自分はDJもやってるし、リミックスをさせてもらったり、自分でも音楽を作るんだけど、やっぱり“編集”って角度から作ってるんだと思うのね。むしろ編集だけしたいくらい。たとえば法事があったとします。おばあちゃんの家に親戚が集まって、そこにあるピアノを指差して親戚のおばさんが言うわけですよ。“音楽やってるんだって? ちょっとやってみせて”と。でも、そんな局面で自分はなにもできないです、専門的な楽器のプレイヤーじゃないから。いろんな物事をどういう風に解釈して、どういう風に提出して、どうみんなに楽しんでもらえるかって考えるのが好きなんだよね。DJもそういう側面が強いと思うんですけど。だから、自分は、意識としてはずっと編集的なことをしたかったり、興味がある人間っていう。シャケちゃんもライターっていう仕事はそういうことじゃないですか」

shakke 「そうですね。自分もプレイヤーっていう意識は昔からそんなに強くなくって、やっぱり取材対象を自分なりの切り口で編集して紹介するってことに興味があるんですよね」

やけのはら 「今回のトークも、楽曲のおもしろみもさることながら、考え方の面で“編集と再構成”って概念を楽しんだり、それを実生活に活かしてもらいたいなと思うんですけど」

shakke 「そして、そういったやけさんの“編集と再構築”の考え方が表れてる作品がこの『SELF-PORTRAIT』だと」

やけのはら 「いやらしい着地をしましたね。でも、そういうベタな編集はあんま好きじゃないんだよなぁ」

shakke 「厳しい!」

やけのはら 「最後っぽい締めをするとするなら……うーん、たとえば生姜焼き定食があるとするじゃん」

shakke 「えっ、最後になんの話をしようとしてるんですか」

やけのはら 「いやいや、最後まで聞いてよ。その生姜焼き定食をどう食べるか。どの順番で食べ進めて、どうやって食事を終えるか。これだって一種の編集ですよ 。そういった日常生活のあれこれも、“トム・モールトン的にするにはどうしたらいいのか?”とか考えたりね」

shakke 「トム・モールトンのエディットから学ぶ生姜焼き定食の食べ進め方……」

やけのはら 「いや、でもこれはだいぶ本気ですよ。そういったことを踏まえて、自分も編集道を勉強していきたいと思いますよ。そんな感じですかね。本日はみなさんお集まりいただき、ありがとうございました!」

shakke 「ありがとうございました!」
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  • 2014.03.19 On Sale
  • PECF-1093 / felicity cap-196
    [CD] ¥2,300 with tax

<TRACK LIST>

  • THEME of SP1
  • 中村一義 / 希望 (やけのはら Remix)
  • 奇妙礼太郎 / サン・トワ・マミー (YAKENOHARA LOVER'S TRAP MIX)
  • シグナレス / ローカルサーファー (やけのはらREMIX)
  • Aira Mitsuki / ハイバッシュ (YAKENOHARA ver.)
  • SKIT of SP part1
  • YAKENOHARA / oolong dub
  • YAKENOHARA / BABY DON'T CRY
  • idea of a joke / オースティン (やけのはら younGSoul REMIX)
  • SKIT of SP part2
  • ランタンパレード / ひとりの求愛者 立春編 (やけのはら LOST DATA MIX)
  • アナログフィッシュ / TEXAS (やけのはらバージョン)
  • Spangle call Lilli line / dreamer (YAKENOHARA DUB)
  • メレンゲ / フィナーレ (やけのはらMIX)
  • SKIT of SP part3
VIDEO


PROFILE
やけのはらYAKENOHARA
リミックス大好き族のための『編集と再構成』考察DJ、ラッパー、トラックメイカー。『FUJI ROCK FESTIVAL』、『METAMORPHOSE』、『KAIKOO』、『RAW LIFE』、『SENSE OF WONDER』、『ボロフェスタ』などの数々のイベントや、日本中の多数のパーティーに出演。年間100 本以上の多種多様なパーティでフロアを沸かせ、多数のミックスCD を発表している。またラッパーとしては、アルファベッツのメンバーとして2003 年にアルバム「なれのはてな」を発表したのをはじめ、曽我部恵一主宰レーベルROSE RECORDS のコンピレーションにも個人名義のラップ曲を提供。マンガ「ピューと吹く!ジャガー」ドラマCD の音楽制作、テレビ番組の楽曲制作、中村一義、メレンゲ、イルリメ、サイプレス上野とロベルト吉野などのリミックス、多数のダンスミュージック・コンピへの曲提供など、トラックメイカーとしての活動も活発に行なっている。2009 年に七尾旅人× やけのはら名義でリリースした「Rollin’ Rollin’」が話題になり、2010 年には初のラップアルバム「THIS NIGHT IS STILL YOUNG」をリリース。その後、Stones Throw15 周年記念のオフィシャルミックス「Stones Throw 15 mixed by やけのはら」を手がけ、2012 年には、サンプラー&ボーカル担当している、ハードコアパンクとディスコを合体させたバンドyounGSoundsでアルバム「more than TV」をリリース。2013年3月、新しいラップアルバム「SUNNY NEW LIFE」をリリース。

http://yakenohara.blog73.fc2.com/
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  • Analogfish
  • NEWCLEAR
  • 2013.03.06 On Sale
  • PECF-1068 / felicity cap-167
    [CD] ¥2,500 with tax
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  • 2014.03.19 On Sale
  • PECF-1093 / felicity cap-196
    [CD] ¥2,300 with tax

<TRACK LIST>

  • THEME of SP1
  • 中村一義 / 希望 (やけのはら Remix)
  • 奇妙礼太郎 / サン・トワ・マミー (YAKENOHARA LOVER'S TRAP MIX)
  • シグナレス / ローカルサーファー (やけのはらREMIX)
  • Aira Mitsuki / ハイバッシュ (YAKENOHARA ver.)
  • SKIT of SP part1
  • YAKENOHARA / oolong dub
  • YAKENOHARA / BABY DON'T CRY
  • idea of a joke / オースティン (やけのはら younGSoul REMIX)
  • SKIT of SP part2
  • ランタンパレード / ひとりの求愛者 立春編 (やけのはら LOST DATA MIX)
  • アナログフィッシュ / TEXAS (やけのはらバージョン)
  • Spangle call Lilli line / dreamer (YAKENOHARA DUB)
  • メレンゲ / フィナーレ (やけのはらMIX)
  • SKIT of SP part3
VIDEO