INTERVIEW

  • Addthis
  • facebook
  • twitter

【Analogfish SPECIAL INTERVIEW】 最近のアナログフィッシュ feat. 下岡晃

  • 2014.10.16

Analogfish SPECIAL INTERVIEW
最近のアナログフィッシュ feat. 下岡晃・佐々木健太郎・斉藤州一郎


アナログフィッシュ、最新作「最近のぼくら」リリースを記念してfelicity HPで
下岡晃・佐々木健太郎・斉藤州一郎、3名それぞれのソロインタビューを掲載。

Interview&Text : 金子厚武
photo : 笹原清明

<Analogfish SPECIAL INTERVIEW>
» 最近のアナログフィッシュ feat. 佐々木健太郎
» 最近のアナログフィッシュ feat. 斉藤州一郎



———— アルバムのスタートはどんなところからだったんですか?
下岡: 一年ぐらいかけて断続的にレコーディングしてたんですけど、最初は“はなさない”って曲を、何も決まってない段階で録ったんです。

———— 『NEWCLEAR』のときに、まず“抱きしめて”を録ったような感じですよね。
下岡: そうそう。で、音的な方向としては、基本的に音数少なくて、1ループとタイトなバンド・アンサンブルの感じ。1ループっていうのは、ループが乗ってる場合もあるし、ベースなりギターがずっとループを弾いてる場合もあるけど、起伏は意図的に作らないような、そういうバンド・アンサンブルのイメージが先行してましたね。BPM130より速い曲は作らないとか、ガチャガチャさせるのはやめようとか、そういうのを思ってた。

———— ミニマルでタイトっていうのは、『NEWCLEAR』でも顕著で、それは言葉を引き立たせる狙いもあったと思うんですけど、今作でもそれを推し進めたと言っていいんでしょうか?
下岡: 推し進めたって言い方もできますね。あとは『NEWCLEAR』よりもう少し有機的な感じにしたいなとか、そういうことをいくつか考えながらやってました。

———— 今海外のインディーシーンでR&B寄りのものが流行ってるから、その影響もあるのかなって思ったのですが。
下岡: 去年出たTHE WEEKENDがすごい好きで、音数の感じも質感も好き。あとはTHE INTERNETもよかったし、BADBADNOTGOODとか、基本的にチルウェイヴっぽいのも好きだし、FENNESZもよかった。家で聴いてるのがそういうのだったので、そういうところの影響は出てると思います。“There She Goes(La La La)”に関しては、最初はベタにPASSION PITみたいなサウンドができるかなって思ったんですけど、なんか違うかなって思ったときに、「あ、ドリアンくんがいた!」と思って。『Studio Vacation』がすごい好きだったから、そのイメージでお願いしました。

———— 海外のアーティストのアトモスフェリックでサイケデリックなムードと、今の社会のムードにシンクロするような部分を感じていたのでしょうか?
下岡: どうなんだろう……そういう風には考えてなかったかな。単純に、リスナーとしてそれを楽しんで聴いてただけで、タイトにやりたいっていう自分の趣向と、どこか通じるものを感じたっていうか、なんかああいうのに惹かれるんですよね。上手く言えないけど、女性の好みみたいな感じで、ずっとそういうのに惹かれてて、バンドを15年やってるから、その間には違うこともやったけど、基本的に僕はそういう音が好きなんです。20歳過ぎたぐらいで聴いたTHE METERSとかTHE J.B.’sとかのフィーリング、タイトで、ずっと持続していく感じで、歌で起伏ができてる、あのノリがすごい好きなんですよね。

———— その感じはelephantにも出てたと思うんですけど、あの活動からの何らかのフィードバックも本作には含まれていると言えますか?
下岡: そこは結構難しくて、elephantに関しては、僕曲とか全然作ってなくて、歌詞にしても、曲を作った人がタイトルだけつけて、それがお題になって、リハの何時間の間に大喜利みたいな感じで作ってたんで、アナログフィッシュでやってることとは、出てくるところが全然違って。

———— 瞬発力の方が大事だったと。
下岡: そうですね。だから、自分の中にあるものを議論するような感覚はあんまりなかったというか、フィルターを通さずに出てる感じだったんですよね。単純に、軽やかに、気楽に音楽ができたから、リフレッシュにはなりました。

———— ちなみに、その一方で健太郎さんはソロを作っていたわけですが、あのアルバムに対する感想を話してもらえますか?
下岡: 感想か……ホント、健太郎節でしたよね(笑)。すごくポップで、面白かった。ああいう音楽って、俺ひさしぶりに聴いた気がするんですよ。昔はいた気がするんですけど、今やってる人って案外いないなって。あとは…「歌上手いな」って思った(笑)。

———— 今の話とつなげると、今回のアルバムの穏やかなムードっていうのは、リフレッシュしたからこそのムードだとも言えるかもしれないですね。
下岡: かもしれないですね。まあ、日常的なことを歌おうっていうのはある程度決めてて、直接的なメッセージには行かないようにしたいなっていうのがぼんやりあったんですよね。

———— それはなぜ?
下岡: うーん……単純に、忘れて行くじゃないですか?忘れて行くし、忘れるようにされてる気もするし、俺は忘れないようにって思ってるけど、でもそれでも当初よりは忘れて行ってて。原発事故が起きたことに対してのセンシティブだった感じとか、徐々に風化して行ってる感じがあるというか……それで、今回思ったのは、俺の中でも何かを忘れて行く部分があるっていう、そこも含めてやりたいと思って。レイシズムのこととか、ガザのこととか、そういうのもホントにまいっちゃうけど、でも全部一緒だと思うんだよね。そこにあるけど、みんな気にしてるけど、でもそれにタッチしないっていうことを、自分も大事なことを忘れて行ってるのかもしれないってことも含めて、曲にしようと思った。とにかく、今のこの状態を残しておこうって。

———— 具体的に、「この曲ができてアルバムの方向性が見えた」みたいな一曲ってありますか?
下岡: それはたぶん一曲目の“最近のぼくら”で、演奏がタイトで、ベースが1ループで、あと声だけ。なおかつ、日本語のメロディーで、今歌いたいことが言葉にできて、これが一番やりたかった形に近い。

———— この曲はいろんな意味でプロトタイプですよね。音数の少なさもそうだし、言葉にしても、極端に言えば、何も言ってない。でも、それがやりたかったと。
下岡: うん、このバージョン違いをあと10曲作れればみたいに思ってて。だから、今回のアルバムは普通にそのとき思ったことをただ書いてて、実際ラブソングを作りたいと思って、ただラブソングを書いた曲とかもあるし。

———— 個人的に印象に残った曲のひとつが“Nightfever”で、かなり極端な解釈ですけど、〈センターラインはどこにある?〉っていうリリックから、僕は右翼と左翼を連想したんです。もちろん、どっちがいい悪いの話ではないけど、今この構造がかなり鮮明になってきてる。それをそのまま歌っておきたかった……って、ここまでの話を聞くと、ちょっと違いそうですね(笑)。
下岡: それは考えてなかったです(笑)。それよりも…手すりっていうか(笑)、つかまえられるものを探してる感じっていうか。

———— 自分の中の支え?
下岡: そうそう。

———— あと今回のアルバムの中で、メッセージ性を読み取れる曲というと、“公平なWorld”かなって思うんですけど、これはもともと2006年の『ROCK IS HARMONY』に収録されていた曲ですよね。順番に訊くと、そもそもこの曲は当時どういう経緯で作られた曲だったのでしょう?
下岡: これは……超嫌だなって、不公平だなって思うことがあって、作らないとスッキリしなくて(笑)。

———— それって、個人的なこと?
下岡: そうそう。で、実際作ることでスッキリできたので、結構大事な曲で。それで今回ガザのニュースとかを見てて、この曲入れたいなって思って、今のアレンジがライブでやっても手応えあったから、この形で入れようと思って。

———— この曲をライブで聴いたときは衝撃でした。7月のアジカンとの2マンで聴いたんですけど、ちょうど集団的自衛権の問題が大きく取り沙汰されてたときだったし、ブラジルワールドカップもやってたから、〈僕らが寝ている間に何が起きてるか知ってる?〉って歌い出しもぴったりで(笑)、“PHASE”や“抱きしめて”と同じように、また過去に書いた曲が現在とリンクしちゃってるなって。
下岡: そっかあ……でも単純に、ひさしぶりに聴いたら、いい曲だなって思って(笑)。

———— あの日アジカンが“No.9”って曲をやってて、あれは9条の歌だって言われてるんですよね。近年いろんなミュージシャンが直接的にも間接的にも、社会に対してアクションを起こしていると言っていいと思うんですけど、そういう周りとの比較も踏まえて、自分のやることっていうのをどうお考えですか?
下岡: 自分がやることか……プロテストソングとかメッセージソングって、自分がやること云々っていうよりも、出てきちゃうからやってるって感じなんですよね。人によるとは思うんですけど、曲って、そのラインが出てきちゃったら、俺に選択肢はなくて、出てきちゃったら作るしかないんですよ。だから、俺が選べるわけじゃないっていうか(笑)。「こういうことを書こう」って思わないわけじゃないけど、メッセージだったらメッセージが思い浮かんじゃうんで、しょうがないんですよね。

———— なるほど。
下岡: この間スパングルの笹原くんと飲んでて、やけのはらくんとか、それこそ後藤くんの話とかをしてて、彼らは論理的な思考を持ってると思うんですよね。頭いいし、話すこともやることも論理的だって。で、笹原くんが「下岡くんはこういう感じ(宙に浮かんでるものを捕まえる仕草)だよね」って言ってて、僕自分はそうじゃないと思ってたんですけど、「でも、そうだな」ってそのとき思って、「もうそれでやろう」って思いました。

———— その感じはアルバムに出てますよね。すごく感覚的というか。
下岡: 歌詞を書いて、言葉の流れはちゃんとできてても、いろんな理由で書きかえるじゃないですか?ちょっとパンチがないとか、生っぽ過ぎるとか。でも、今回は極力それをやらなかったんです。「ここもうちょっと山欲しいな」って思うところも、そのまま残して。

———— やっぱり、今回のアルバムは恣意的に考えないで、そのままを出すっていうか、それすらも意識しないように作ったってことなんですね(笑)。
下岡: うん、ホントに『最近の僕ら』って感じのアルバムにしようと思ったから。

———— 宙に浮いてるものを捕まえて、それをただ自分を通して出すと。でも、それが結果的には社会のムードを表してるのかもしれない。
下岡: なんかね……「ラブソングが一番のプロテストソング」とか、「ポリティカル・イズ・パーソナル」とか、そういう言葉ってよく言われるじゃないですか?僕そういうのあんまりわかんなくて、ピンと来なかったんですけど、今回作ってる終盤ぐらいに、「それってこういうことなのかな?」って、ちょっとだけ思いました。

———— そう思ったのって、最近下岡さんが日常の中で人と何かを作ることを楽しんでいることの表れなのかなとも思って。今回のアルバムには女性コーラスをはじめとしたゲストが多数参加してるし、それ以外にもm社での活動があったり、喬木村との交流があったり、そういうムードも反映されているのかなって。
下岡: 僕女性の歌ってあんまり聴いてこなかったんですけど、最近すごい好きになって、今回入ってもらってすごい良かったと思ってます。新しい楽器がひとつ増えたみたいな感じで、すごい新鮮で、面白くて。m社でやってることに関しては、確かに人とやってることの喜びがすごくありますね。そのフィーリングは、わりと最近気づいたことだけど。

———— ローカルに対する意識っていうのはどうですか?地域社会の見直しっていうのも、やっぱり震災以降の日本の大きなテーマで、喬木村との交流もそうだし、田我流との2マンがあったりとか、そういうことを考えることも多かったのかなって。
下岡: 喬木村に関しては、恩返しみたいな気持ちの方が強いかな。あとm社の農業部でやってることは、自分の後輩がリンゴ農家をやってて、その新しい販路を作りたいと思ってて。やっぱり、今リンゴ農家とかって厳しいんだけど、すごい美味しいの。だから、ジャムのパッケージとかを手伝って、超かっこいいデザインだったら、東京のいいところでも置けるんじゃないかとか考えたり。

———— やっぱり、そういうところからも『最近のぼくら』っていう、日常感が出てきてるのかもしれないですね。では、今回ラストに“Receivers”という曲を置いたのは、どんな意図があったのでしょうか?
下岡: これの最後の塊で歌ってることが、一番いい終わらせ方だなって思って。

———— 〈日々が湛える悲しみの~〉っていうところですね。僕も大好きです。『荒野 / On the Wild Side』からの3枚は「三部作」と銘打たれてるわけですが、何もない荒野からスタートして、旅路を経て、海に開けたという受け取り方もできると思うんですね。そして、この曲の風を受けて進むヨットのイメージっていうのは、「ここからまたどこにでも行ける」っていう、新たな始まりも予感させました。
下岡: このアルバムって、前向きな感じの曲は特にないんですけど、唯一そうかもしれないフィーリングを持ってるのが、“Receivers”だと思います。普通に暮らしてて、「楽しい」とか「面白い」はあるけど、「今日は前向き」って、あんまりないっていうか(笑)、それってちょっと不自然じゃないですか?面白いこととか楽しいことが前進力だから、「前向き」っていうのは入らなかったのかなって。

———— 今の社会状況が混沌としていて、先行きが見えない状態だから、前向きなイメージは外したとかではない?
下岡: それはそれですごい感じますけどね。“不安の彫刻”とか、何のオチもないけど、ただ何となく不安ってことを歌おうと思ったし。でも、僕“Receivers”で気に入ってるのは、〈良い事も嫌な事もありそうだね〉ってとこで、普通こう歌う人いないなって思って。

———— 普通は〈良い事あるさ〉ですよね。
下岡: 〈良い事も嫌な事もありそうだね〉って、すげえ当たり前の話だから誰も歌わないんだと思うんですけど、〈良い事も嫌な事もありそうだね〉ってずっと言ってたら、気分良くなるんですよ(笑)。今って、それぐらいの上がる感じがちょうどいいなって。

———— 「そりゃあ、どっちもあるよ(肩ポン)」ぐらいの感じ?(笑)。
下岡: そうそう、それぐらいがいいと思って(笑)。

Interview&Text : 金子厚武
photo : 笹原清明

 -
  • 2014.10.08 On Sale
  • PECF-1106 / felicity cap-209
    [CD] ¥2750

<TRACK LIST>

  • 最近のぼくら
  • There She Goes (La La La )
  • Nightfever
  • はなさない
  • Kids
  • 公平なWorld
  • Moments
  • Wednesday
  • 不安の彫刻
  • Tonight
  • Receivers
VIDEO


PROFILE
Analogfishアナログフィッシュ
【Analogfish SPECIAL INTERVIEW】 最近のアナログフィッシュ feat. 下岡晃

3ピースにして2ボーカル+1コーラス。唯一無比のハーモニーを響かせる希代のロックバンド。
下岡晃(G, Vo.)が問題提起する社会的なリリックと佐々木健太郎(B, Vo.)の情熱的な人間賛歌が見事に交差する楽曲群が魅力。
それを支える扇の要、斉藤州一郎(Dr, Cho.)のしなやかでファットなプレイと垢抜けたコーラスワークが高い評価を得る。
共演ミュージシャンはもとより、映画、小説、漫画等、各界クリエイターからのラブコールは止みません。

Official WEB→ analogfish.com

RELATED RELEASES
 -
 -
 -
 -
 -
 -
 -
 -
 -
 -
 -
  • 2014.10.08 On Sale
  • PECF-1106 / felicity cap-209
    [CD] ¥2750

<TRACK LIST>

  • 最近のぼくら
  • There She Goes (La La La )
  • Nightfever
  • はなさない
  • Kids
  • 公平なWorld
  • Moments
  • Wednesday
  • 不安の彫刻
  • Tonight
  • Receivers
VIDEO