INTERVIEW

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佐々木健太郎 スペシャルインタビュー

  • 2014.02.04

下岡晃と佐々木健太郎というふたりのソングライター&ヴォーカリストがいる。しかも、どっちかがメインでどっちかがサブというのではなくて、完全に50:50である。つまり、本来ならそれぞれ自分のバンドで活動しているべきふたりが、なぜか長年一緒にやっている、という特異なバンド。それがアナログフィッシュだった。複数のヴォーカルがいるバンド、複数のコンポーザーを擁するバンドなんて他にもいっぱいいるじゃないか、と言われそうだし、確かにそうだけど、ヒロト&マーシーでもユニコーンでも誰でもいいが、「作るのも歌うのも完全に50:50」という例は、ほかにないと思う。ジョン・レノンとポール・マッカートニーぐらいしか思いつきません。いや、違うか。ジョージとリンゴもいるし、ビートルズの場合。
ただし。2011年のアルバム『荒野/On the Wild Side』から、アナログフィッシュはバンドの重心を下岡の世界観の方に置くようになり、その特異な活動の時期はいったん終わる。となると、その重心じゃないほう、佐々木健太郎がバンドと並行してソロ活動も始める、というのはごく自然なことに思える。が、ここで大事なのは、そのファースト・ソロ・アルバム『佐々木健太郎』が、「アナログフィッシュで採用されなかった曲たち」ではなく、「アナログフィッシュでは書けなかったであろうし、書けたとしてもアナログフィッシュではできなかったであろう曲たち」の集合体になっていることだ。そこが何よりもすばらしい。こんなことできたんだ、佐々木健太郎。そんな驚きがどの曲にもある。いや、何度もよおく聴くと、ここで花開いている音楽的要素や歌詞の世界観は、これまでアナログフィッシュで表現されてきた彼の曲にも存在しているものなんだけど、アナログフィッシュでは10とか20とか30出ていたものが、このアルバムでは100とか150になっている、そんな新鮮なインパクトに満ちているのだ、どの曲も。
以下、今作を作った動機と、作った過程と、作ったことで得たものについての、本人の話です。


————どういうところから、このソロを作ろうという話が始まったんでしょうか。
「2009年に、『LIFE GOES ON』というアルバムを出したあとに……次のアナログフィッシュはどういうことをやろうかってことを考えた時に、何かひとつしぼらないと、焦点の定まらない活動になるんじゃないか、みたいな危機感があって。僕ら、ふたりヴォーカルがいるから、とらえどころがないっていえばとらえどころがないじゃないですか。それをわかりやすいひとつの方向性にしぼってやっていこうって考えた時に……下岡の世界観だったり、批評性が高い詞の世界だったり、そういうのを武器にやっていこうっていう方向が決まって、それで次の『荒野』というアルバムを作るんですけど。そのあとに出したベスト盤も、僕の曲が2曲しか入ってないとか、それくらい大きく方向転換して」
————それは、メンバーなりスタッフなりの意見でそうなったんでしょうか。ご本人としてはどうだったんでしょう。
「その時にレーベルを移ったのもあって、新しいスタッフからもそういう意見が出て。でも僕も、下岡の曲の……プロテスト・ソングというか、あの世界観の歌詞のほうが、世の中的にはセンセーショナルに響くのかな、とはずっと思ってて。アナログフィッシュは、焦点をしぼって活動をしていかないとまずい時期なんじゃないかな、という気持ちは僕にもあったんです。だから、活動がそういう流れになっていったのも、自分もそういう方向がいいと思ってるし、全然納得はしてるんですけど。ただ、やっぱり自分も曲を作る人間だから、アナログフィッシュにおける、自分が活躍できる範囲がどんどん小さくなっていくことに、けっこうジレンマは感じてて。この間の『NEWCLEAR』っていうアルバムを出したあとに、そういうフラストレーションとかは、一回リセットしとく必要があるような気がして。下岡もそれに気づいてて、『おまえソロやればいいじゃん』とかちょこちょこ言われてて。僕は最初はそうは考えてなくて、次のアナログフィッシュの曲を作るつもりだったんですけど、一回そういう違う視点でソロをやってみるのもいいかもしれない、と思って。今のアナログフィッシュの流れとして、下岡の“Hybrid”や“抱きしめて”や“PHASE”みたいな世界観でやっていこうっていう時に、このアルバムの“STAY GOLD”とか“クリスマス・イヴ”みたいな曲は、そこにうまく混ざっていかないっていうジレンマもあって。だったらソロで一回、自分がやりたいことをやってみようっていう感じで……このアルバムを作り始めてからだんだん、自分のそういう気持ちに気づいていった部分が、すごい大きいんですけど。それまでは全然自覚してなかったんですけど、作っていくうちに、『ああ、自由度とか柔軟さをすごい失ってたんだな』っていうことに気づいて。何か、自由になれた感じはしましたね。だから、このアルバムを一回出しておく必要があった、というのは、今は思うんですけど」



————すべての楽器を、自分ひとりで演奏しようと思った理由は?
「やっぱり、トッド・ラングレンとかポール・マッカートニーとか、斉藤和義さんとか中村一義さんとか、シンガー・ソング・ライターが全部のことを自分ひとりで完結させるアルバムが、昔からすごい好きだったんで。自分のファースト・ソロを作るにあたって、じゃあ自分がいいと思うシンガー・ソング・ライターのやりかたでやりたいなと思って。そういう気持ちですね。ベースとギターは弾けるし、ドラムは……最初、下岡と長野で音楽を始めた時に……僕の家が長野の秘境みたいなとこだったんで、部屋にドラムもあったし。高校時代に軽音楽部でドラム叩いてたし、アナログフィッシュのほんとの初期は、僕が全部ドラム叩いてるし。なので、一応、全部の楽器ができるということで。
ただ、まったくひとりでレコーディングするってことに関しては、フィジカル面で、けっこう大変でしたけど。スタジオを8時間とってたら、メンバー3人いれば『せーの』で一発録りしちゃえばベーシックはできるし、他のメンバーがダビングしてる間は休めたりするけど、ひとりだと8時間ずーっと自分がやってなきゃいけないんで(笑)。単純に、体力的に消耗するし、喉も……1日3曲歌ったりしたんですけど、アナログフィッシュでは1日2曲までが限度だったんですよ。ドラムも1日4曲叩いたりして。レコーディング・エンジニアさんに、『1日4曲録るなんて、本職のドラマーでもないよ』とか言われながらやってて。すごいタフな作業ではあったんですけど。
あとこのアルバム、最初、上モノから録ったんですよ。普通と逆なんですよ。普通、ドラムとベースから録って、上モノのギターや歌を重ねていくじゃないですか。僕の友達のエンジニアとふたりで、高円寺のスタジオで、パソコンに向かい合って上モノを録って。それを大きなスタジオに持って行って、そこに入ってたドラムのデモ音源を、生のドラムに差し替える作業をやって。そのスタジオでやってくれたエンジニアさんにも『これ、普通のドラマーでも難しいよ』って言われました。作業効率とか、生々しい話ですけど、使える予算のこととかをいろいろ考えて、この方法がいいんじゃないかってやってみたんですけど」
————「佐々木健太郎」という名義で音楽作品が出る、ってことに対して、何か感じたことはありました?
「ずっとアナログフィッシュでやってきてるんで……どっちかというと、下岡がスポークスマンみたいな部分もあって。でも、自分の名前で、自分の責任でドンって出ていくっていうので……こういうアルバムが作れて、自分に自信が持てたっていう部分はすごいありますね。
まあ、自分がいつかソロをやるというのは、全然考えもしてなくて。たぶんそれをやるなら、アナログフィッシュってものが終わってからだなと思ってたんで。まさか、やりながらソロを出すことになるとは思ってなかったですね」
————僕はこのアルバムが、アナログフィッシュで自分の曲の占めるウェイトが低くなったからソロをやりました、というものだったら、事情はわかるし納得はするけど、あんまり盛り上がらないなあと思ってたんです。でも聴いたら、どれも「アナログフィッシュでは採用されない曲」じゃなくて、「アナログフィッシュではできない曲」になっているのにびっくりしたし、そこがすばらしいと思ったんですけども。
「そうですね。作ってるうちになんか、アナログフィッシュ的なものっていうのを自分の中で決めちゃって、勝手に自分で世界を狭めて、その枠の中で曲を作ろうとしてた、そういうふうにいつの間にかなってたことに、すごい気づいて。『ああ、凝り固まっていってたんだなあ』って思いましたね。だから、このアルバムを作ったことによって、次のアナログフィッシュで作る曲も新しいものになるだろうし、そういうふうにしようと思ってるんですけど」



————ビーチボーイズ感というか山下達郎感というか、この感じはアナログフィッシュでは難しいですよね。アナログフィッシュの佐々木健太郎からは20か30くらい出ていた部分の魅力が、ここでは100出てるというか。
「ああ……そうですね、“クリスマス・イヴ”みたいなテーマの曲は、たぶん自分の中でも、現時点でいちばん拓けた世界観だと思うし。こういう曲は、アナログフィッシュではできなかったと思うし。自分がまだ踏み込んだことのない領域があるんだな、ということにも気づいたし。自分のやりたいことを全部やったアルバムなんですけど、そしたらそういうものになったというか。ビーチボーイズとか山下達郎さんをすごい聴いてた時期なんで、そういう音楽にすごい興味があったんですよね。で、コーラスとか、アナログフィッシュは3声までしかできないけど、ひとりだと無限に重ねられるんで、そういうのもやってみたくて。だから、60トラックぐらい使ってる曲もあるんですけど。アナログフィッシュだと、やっぱり3ピース・バンドだから、歌以外に演奏の……下岡がどういうギターを弾くのかとか、州がどういうドラムを叩くのかとか、僕がどういうベースラインにするのかっていうのもアナログフィッシュの表現のひとつなんで、そこで自己主張してる部分もあるんですけど。でもこのアルバムは、歌が一番引き立つアレンジにしたし、歌が一番偉い、というものになってると思いますね」
————このアルバムも、プロデューサーは吉田仁さんですけど。どんなディレクションがありました?
「作る前に、どういうアルバムにしようかっていう話を、下北の呑み屋で、ふたりで朝まで呑んでしたんですけど。仁さんっていつもサウンドのことしか言わないんですけど、今回は歌うことのテーマの話もして。震災後の世界でどういう歌を歌うかって、ミュージシャンってきっと、みんな考えてるじゃないですか。で、たぶん、直接的に震災のことに言及して歌う歌は、現実のほうがシリアスすぎて、誰もそれじゃ救われないから、それを何か別の角度から、別のものに置き換えて歌って、聴いた人が『いいなあ』って希望を持ってくれるものを作ろう、っていう話をして。その『震災後の希望』っていうもののメタファーとして、“クリスマス・イヴ”っていうテーマの曲を作ったりしたんですけど。そういう話し合いはしましたね。
あの……たぶん曲を書く人は、3・11後ってみんな何を歌うかってことを探してるじゃないですか。僕もいまだに探してるし。でも、ひとつ自分の中では、このアルバムで……僕も3・11直後は、音楽って何もできないなってほんとに思ったし。全然無力じゃないか、どんなにラジカルなメッセージを歌おうとも、現実にこんな、空気中に放射性物質があるような世界では、虚しく響くだけだな、と思って。何を歌っていいかわかんないっていう、そういう気分はいまだにあるんですけど、でもこのアルバムで僕は、“クリスマス・イヴ”や“STAY GOLD”で、こんな世界の中でも希望を描けたんじゃないかな、っていう気はしてますね」
————“STAY GOLD”の「望んでもなれないものに気づいてしまった分だけ 不思議さ僕は自由になっていく」っていうの、いい歌詞ですよね。
「自分が……今、35なんですけど、20代の頃、可能性や選択肢が広がっていたのが、今はだんだんなくなっていく、でもなくなっていく分だけ、自分が持ってるものを大事にしよう、っていう気分が、30を超えたら強くなってきて。いい意味で開き直っていくっていうか、もうできないことはしょうがないっていう気分を歌いたくて、それでこの曲を書いたんですけど。歳をとることも悪くないっていう気分を歌ったんですけど」


まず、ここ数年のアナログフィッシュで、佐々木健太郎の曲の占める割合が減っていたことを悲しく感じていたファンは、間違いなく喜ぶと思うし、下岡晃の曲に重心を置くようになったことを肯定していたファンも「やっぱ健太郎もすげえな」と認識を新たにすると思う。そして、アナログフィッシュに興味がないどころか知りもしなかった人にまで届くようなポテンシャルを、このアルバムの曲たちは、確かに持っていると思う。聴けば聴くほど、その確信は深まる。
interview & text : 兵庫慎司(ロッキング・オン)
photo : 笹原清明

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  • 2014.02.05 On Sale
  • PECF-1089 / felicity cap-192
    [CD] ¥2750

<TRACK LIST>

  • STAY GOLD
  • SUN
  • Alternative Girlfriend
  • Fackson Jive
  • 星に願いを
  • Band Wagon
  • おとぎ話
  • Sunflower
  • クリスマス・イヴ
  • あいのうた
VIDEO


PROFILE
佐々木健太郎Kentaro Sasaki
佐々木健太郎 スペシャルインタビュー

圧倒的な声量とソウルフルな歌唱。はたまた、TOKYO CITY POP の系譜を継ぐ、繊細で洗練されたメロディと熱々のリリックを紡ぐ、バイ・プレイヤー。
ツイン・ヴォーカルを擁する3 ピース・バンド、「Analogfish」のVo, Bass を担当する。
ソロ・ワークのスタートは2008 年にさかのぼる。弾き語りのステージを主戦に、初恋の嵐、セカイイチなどのレコーディング、ライヴに客演。Analogfish での活動をメインとしながらも、聴き手をぐいぐいとひきこんでいく、フリー・フォームなプレイ・スタイルに、ライヴ・オファーが殺到。以降、コンスタントに弾き語りでのライヴを行っている。自他ともに認める歌バカである。
Analogfish 活動15 周年目前の2013年11月、ソロ・ワークの結実として、聖夜のニュー・スタンダードの呼び声も高い、珠玉のポップス「クリスマス・イヴ」をリリース。
2014年2月にはデビュー・アルバム「佐々木健太郎」をリリース。
1979年2月23日長野県生まれ。故郷である喬木村を愛す。
趣味はランニング。散歩。

Artist Information
http://analogfish.com
https://twitter.com/Analogfishinfo
https://www.facebook.com/fishanalog

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