INTERVIEW

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羊文学『トンネルを抜けたら』インタビュー

  • 2017.09.29

羊文学『トンネルを抜けたら』インタビュー

Text: 金子厚武

日本のバンドシーンがまた新たな季節を迎えつつあると感じさせる注目の3ピース、羊文学がファーストEP『トンネルを抜けたら』を発表する。結成はボーカル/ギターの塩塚モエカが高校一年生だった2012年だが、2015年にドラムの福田ひろ、今年に入ってベースのゆりかが加入。オルタナ/シューゲイザー寄りのざらついたギターサウンドと、内省的な心情を大胆かつ繊細に綴った歌詞、そして何より、塩塚の圧倒的なボーカリゼーションが聴くものの耳を捉えて離さない。まだメンバー全員が現役の大学生だが、昨年にはフジロックの「ROOKIE A GO-GO」にも出演し、すでに早耳リスナーの間ではジワジワとその熱が高まりつつある。ファーストインタビューで、バンドのいままでとこれからを訊いた。

― モエカさんって、ちょっと前まで「はいじ」っていう名前でしたよね?
塩塚 今年に入ってメンバーが抜けちゃって、一回お休みしてたんですけど、再始動するくらいのタイミングで変えました。去年から一人で弾き語りをする機会が増えて、もう20歳になったのに、自分のことを「はいじです」って紹介するのが恥ずかしくて(笑)。

― 今は本名?
塩塚 そうです。「はいじ」っていうのは昔からのあだ名で、中学校のときにブログをやってたんですけど、そこでつながった友達とはずっとあだ名で呼び合ってたので……若気の至りです(笑)。

― ギターを弾いて歌うようになるきっかけは?
塩塚 小学校のときに、YUIがめっちゃ好きな友達がアコギを持ってて、私もやりたいなって思ったので、中学受験が終わったあとくらいから始めました。中島美嘉とか鬼塚ちひろも好きでしたね。

― 小学生の趣味としては渋いかも。
塩塚 確かに。お父さんが車でよくかけてたんですよね。

― 結成したのは高校一年生のときだそうですが、バンド名の由来は?
塩塚 「Hジェネ祭り」っていうテレビのオーディションがあって、それに出てたS.R.S(Sleeping Rag Sheep)が好きだったので、「羊」ってついてたらいいなって思ったのと、あとは音楽だけじゃないことを表現したくて、それで「文学」ってつけた気がします。

― 最初は女の子の3ピースだったけど、途中でドラムが抜けて、福田くんが加入したのが2015年11月。
塩塚 次も女の子がいいと思って、ガールズバンドのドラムを調べまくったんですけど、リーガルリリーの動画を見たら、髪の毛が女の子みたいなドラマーで、「男かもしれないけど、この人だったら大丈夫かも」って(笑)。リーガルリリーはサポートだったこともあって、Twtterでメッセージを送ったら、最初全然返ってこなかったんですけど……。
福田 最初はちょっと悩んだんです。でも、当時はサポートをたくさんやりつつ、自分のバンドが欲しいと思っていた時期だったので、そういうときにたまたま声をかけてもらったっていうのもあり、やってみようと思って決断しました。

― 確かにパッと見だと性別がわからないけど、いつからその髪型なんですか?
福田 高1くらいからですね。伸ばしたり、パッツンにしたり、そのとき聴いてる音楽によって変わるんですけど。

― ちなみに、今聴いてるのは?
福田 今は完全にクリープハイプ。

― 確かに、尾崎くんっぽい(笑)。ドラムはいつからやってるんですか?
福田 中学校からです。お父さんがバンドでドラムをやっていて、家にドラムがあったので、それでやってみようかなって。

― そして、今年に入ってベースが抜けて、ゆりかさんが加入したと。
塩塚 新しいベースがなかなか見つからなくて、Twitterで募集をしたら、メールをくれたんです。動画が貼ってあって、フュージョンみたいなのをやってて。
ゆりか 大学のサークルでコピバンをやった動画を送ったんです。羊文学は高校一年生のときに初めて聴いて、ずっと覚えてて、Twitterをゆるくチェックするくらいではあったんですけど、ベースを募集してるって見つけて。
塩塚 他にも何人かスタジオ入ったんですけど、ゴリゴリの感じが似合う女の子ってなかなかいなくて、でもゆりかちゃんはすごい上手だし、ぴったりでした。

― ゆりかさんはいつからベースを?
ゆりか 大学生になってからです。もともとギターをやってたんですけど、興味本位でベースを弾いてみたら、ベースの方が向いてるなって。

― それから2年足らずでいきなりCDが出ちゃうっていうのはすごいですね(笑)。福田くんは最初に羊文学の曲を聴いて、どんな印象を持ちましたか?
福田 第一印象は「儚い」でしたね。でも、力強さもあって、内に秘めた何かが歌詞にも文学的に込められてるなって。前向きな音楽っていうよりは、下向きなんだけど、でも最終的には前を向いていけるような、そういう音楽だと思いました。

― 確かに、モエカさんのボーカルは儚さと強さを兼ね備えていて、非常に魅力的だと思うのですが、どうやって今のスタイルを作ってきたのでしょうか?
塩塚 YUIさんのモノマネから始まったっていうのがありつつ、あと『天使にラブソングを』みたいな、外国人の人がウワッと歌うのに憧れてたりして、そんなに近くはないですけど、自分の中ではそういう感じも出してるつもりです。中高とキリスト教系の学校で、毎朝賛美歌を歌っていたので、そういう影響もあるのかな。

― 海外のボーカリストで好きな人は?
塩塚 中学のときジャスティン・ビーバーが大好きで、クリスマスのアルバム(『Under The Mistletoe』)をずっと聴いてました。声の出し方とか聴いてて気持ちよくて、それだけでストレス発散になったんですよね。最近はCharaとかもすごい聴いてて、小っちゃい声で歌うのもいいなって思ったり、アレサ・フランクリンは最近気になってます。

― その一方で、ギターの音はオルタナ/シューゲイザー寄りのザラッとした音色ですが、その影響源は?
塩塚 一番大きな影響はYuckで、最初のアルバムを高校生のときにすごい聴いてて、その音がかっこいいなって。あとは大学に入って、最初ちょっと怖めの軽音サークルに入ったんですけど(笑)、そこで先輩とCancersっていうバンドをコピーしたときに、部室にあったビッグマフを使ったら、それが気持ちよくて。最近は羊文学でも使ってます。
福田 僕ももともとシューゲイザー、ポストロック、USインディとか大好きなので、ギターの音作りもすごい好きですね。メンバーになる前は「きのこ帝国っぽいな」っていうのも思ってて、きのこ帝国もすごい好きだし。

― 最近若いバンドでオルタナっぽい音を出すバンドがまた増えつつある印象があるんですけど、そんな空気は感じますか?
塩塚 ニトロデイとかかっこいいし、「こんな友達が高校生のときにいたらよかったな」っていうのは思いました(笑)。みんな辛いことが多いんですかね? それで「大きい音出したい!」みたいな(笑)。

― ちょっと上の世代でシティポップのブームがあって、アーバンでクールな音が流行ったから、それに対する反動みたいなことでもあるのかなって。
塩塚 あんまり上の世代のことはわからないんですけど……私たちは3人だったので、スカスカにならないように、無理やり音を厚くした部分もあるんです。私はSigur Rosとかも好きなので、ああいう感じを何とか3人で表現したいっていうのもあったり。

― 曲作りはどういう順番なんですか?
塩塚 私が弾き語りを送って、それは大体の構成だけ決まってて、アレンジとかはまったくなので、それをスタジオでせーので合わせていく感じです。

― 曲を作る上でのインスピレーション源は?
塩塚 最近はいろいろ音楽を聴くようにしてて、「こういうバンドのこういう感じ」っていうのがフワッとあって作ることも多いんですけど、今回のアルバムに入ってるのは全部去年までに作った曲で、自分の辛かったこととかが基になってますね。

― 具体的な曲について聞くと、“春”はすでに去年ミュージックビデオがアップされていて、アルバムに入っているのは新録ですけど、やはり展開の多さが非常に印象的でした。
塩塚 もともと大学生になる前の春休みに作ったんですけど、高校生のときにプログレの有名なやつが好きになって、そういうのは一曲の中にいろんな展開があるのが当たり前だったから、それが上手く繋がってれば勝ちって思って(笑)。なので、そういう展開の面白さを重視してた時期の名残ですね。歌詞には関しては、単に高校の友達がめちゃめちゃ嫌いだったっていう歌です。いかに「嫌い」ってことを言うかみたいな……性格悪すぎる(笑)。

― 普段言えないことが、歌詞なら言えるみたいな感覚があった?
塩塚 そうですね。高校生のときは嫌なことがいっぱいあったので、そういうことが歌詞になってるんですけど、最近は生きていく上で嫌なことがいつまでも続くわけじゃないし、続いてほしくないなって思うから、今までと違う歌詞を書きたいと思って、いろいろ試してます。“Blue.2”は部活帰りの中学生が2人で線路に飛び降りたっていうニュースを見て、そのときの気持ちを想像したり、自分が中学生だったときのことを考えながら書きました。弾き語りで録ったやつを聴いたときに、ビョークの“Hyperballad”みたいな、景色が広がっていくような感じが出せる気がして、実際バンドでその感じが出せたので、すごく好きですね。最後の方はたくさん音を重ねてすごいことになっていて、モヤモヤしたものが吹き飛ぶっていうか。

― 歌詞全体から感じられたのは、大人と子供の間の揺らぎ、それに伴うディスコミュニケーション、期待と不安、みたいな感覚だったんですよね。
塩塚 最後の“Step”が一番新しい曲なんですけど、ちょうど前のベースの子が抜けるか抜けないかってときに作った曲で、自分の上手く言えなさとか、反省してる部分を歌詞にしてます。言い訳みたいな感じっていうか(笑)。
福田 彼女(塩塚)の曲って、エモーショナルだったり、強い部分もあるんですけど、“Step”は人に対して寄り添ってくれるような歌で、新たな場所に踏み出していきたいっていう想いもありますし、個人的にめちゃくちゃ好きな曲です。

― 『トンネルを抜けたら』というアルバムタイトルも、まさに「新たな場所に踏み出す」っていうフィーリングを感じさせますよね。
塩塚 今まで何度かメンバーが変わったり、CDを出すって話も出たりつぶれたり、将来のことにそれぞれ悩んだりもしてたので、曲にも自分の暗い部分とかが出てたんです。それが“Step”を作ったときくらいから変わってきて、メンバーも揃ったし、今までの暗いところを抜けて、これから頑張っていこうという感じでタイトルをつけました。

― トンネルは成長のメタファーということですね。実際に、福田くんから見てモエカさんはこの2年でどう変わったと思いますか?
塩塚 大人になったよね?(笑)
福田 前は暗い感じとか、攻撃的な感じの曲が多くて、“春”の〈嫌い〉とかもインパクトあったじゃないですか? でも、最近は“Step”みたいな、寄り添ってくれるような曲が多くなってるなっていうのは思います。

― そういえば、コーラスの多用も特徴で、それも作品に温かみを加えているように思うんですよね。
塩塚 私Team Meも好きで、みんなで大合唱するじゃないですか? ああいうのに憧れてて、ライブだと3人だからあんまりがっつりはできないんですけど、やってみちゃいました(笑)。でも、今まではワーとかアーってコーラスが多かったんですけど、“Step”は歌詞に沿ったコーラスで、そういうのは初めてです。

― それも“Step”の「寄り添う感じ」っていうのを強めているんでしょうね。ゆりかさんは以前からバンドをずっと見ていたわけではないにしろ、アルバムを一枚作り終えて、トンネルを抜けたような感覚を感じていますか?
ゆりか 昔の話はすごい聞かされたので、大変だったんだなって思って……抜けたと思います(笑)。
塩塚 ゆりかちゃんが入ったときくらいから、私大人になり始めたんです。最初のメンバーはみんな同い年で、周りの子に頼ってたんですけど、今は2人とも年下になっちゃったから、しっかりしなきゃなって……大人になりました(笑)。

― じゃあ、最後に今後のバンドの展望を聞かせてください。
福田 よく「フェスに出たい」とかって言う人いますけど……。
塩塚 出たいよ!
福田 もちろん、僕も出たいけど、それは当たり前っていうか、出るんで、そういうことよりも……僕的には、羊文学っていうジャンルを作りたいんです。誰かにやらされるんじゃなくて、自分たちが感じて、思ったことをやって、最終的には、僕たちだけの音楽を作れたらなって。

― ゆりかさんはどうですか?
ゆりか 方向性をひとつに絞らないで、何かに縛られずに、いろんなことをやっていきたいです。

― やっぱり、ジャンルとかに捉われるんじゃなくて、羊文学っていう枠の中で、何でも自由にやれるのがいいと。モエカさんは?
塩塚 私はフェスに出たいです(笑)。またフジロックに出たいので、もう一回呼んでもらえるように、大きいバンドになりたい。あとは、まだ自分は音楽的にいろいろ未熟だと思うので、もっといろんな音楽を勉強したいです。福田も最初は「絶対爆音」みたいな感じだったけど、最近は繊細なドラムを叩き始めたり、そういうメンバーの変化も楽しみだし、私は最近DTMの機械を手に入れたので、それでいろいろ作ってみたり、将来的にはオーケストラともやってみたい。

― 表現の方向性としてはどうですか?これまでは自分の内面を描いてきたけど、今後はそれがどこに向かうのか。
塩塚 高円寺のU-hAってライブハウスがあって、私はそこスピリチュアルスポットだと思ってるんですけど(笑)、そこの店長さんに「他人のことを書いた曲をやってみたら?」って言われて、確かに、他人のことをもっと観察して曲にするのも面白そうだなって思ってます。あとは英詞もやってみたくて、英語じゃないと出てこないメロディーとかもあると思うから、そういうこともやってみたいです。

― 『トンネルを抜けたら』はバンドにとってはじまりの一枚で、ここから先はホントにいろんな可能性が広がっていそうですね。
塩塚 自分が30歳とか40歳になったときに、どんな音楽を作ってるか楽しみ(笑)。




奥冨直人氏(BOY)コメントはこちら
https://1fct.net/interview/interview067

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  • 2017.10.04 On Sale
  • PECF-3188 / felicity cap-270
    [CD] ¥1760

<TRACK LIST>

  • うねり
  • 踊らない
  • Blue.2
  • Step
VIDEO


PROFILE
羊文学ヒツジブンガク
羊文学『トンネルを抜けたら』インタビュー

VoとGtの塩塚モエカ、Baのゆりか、Drのフクダヒロアからなる、柔らかくも鋭い感性で心に寄り添い突き刺さる歌を繊細で重厚なサウンドにのせ、美しさを纏った音楽を奏でる3人組。2012年結成。2016年7月、FUJI ROCK FESTIVAL"ROOKIE A GO-GO"に出演。10月、カナダツアー(モントリオール、トロント、バンクーバー)「Next Music From Tokyo vol.9」に参加。2017年に現在の編成となり、現在までに、EP4枚、フルアルバム1枚、配信シングル1曲、そして昨年12月にクリスマスシングル「1999 / 人間だった」をリリース。生産限定盤ながら全国的なヒットを記録。今春2/5に最新EP「ざわめき」をリリース、そのリリースより先行してのワンマンツアー(1/18大阪・梅田シャングリラ、1/31東京・恵比寿リキッドルーム)はSOLD OUTに。 2020年 8 月23日(日)、FUJI ROCK FESTIVAL'20 出演決定。
2020年、しなやかに旋風を巻き起こし躍進中。

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